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第六章 ロルディアの動乱
第135話 帰還
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俺たちは静まり返った儀式の広場を後にし、廃都ヴァルディノアを離れるべく足を進めていた。
ネフィラは死んだ。だが、妙な余韻が残っていた。
自らの命を燃やし尽くすような最期は、まるで彼女がこの地に残した呪詛そのもののように思えてならなかった。
「カイン、足、大丈夫……?」
ルナが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
肩を貸して歩く彼女の額にはまだ汗が滲んでいる。解毒は済んだとはいえ、身体の奥に残る熱や倦怠感は抜けていないだろう。
「ああ、大丈夫だ。ルナは無理してないか?」
「ちょっとふらふらするけど、平気。カインが背負ってくれてたから、ぐっすり眠れたよ」
はにかんだような笑顔に、俺は肩の力が抜けるのを感じた。
何もかもを一人で背負っているわけじゃない。
エルンもまた、淡く光る魔法陣を足元に展開しながら、警戒を解かずに歩いていた。
「精霊たちの囁きが少し静かになったわ。ネフィラが残していた歪み……少しずつ、癒えてきてるみたい」
「……そうか。エルン、ありがとな。お前がいなかったら……」
「言わないで。私も……ちゃんと、守りたかったの。カインも、ルナも」
エルンの声は、いつもより少し震えていた。
俺たちはそれぞれが、自分にできる限界を超えて戦った。
だからこそ、今この道を歩いて帰れているのだ。
廃都を出る最後の石門を抜けると、空が白み始めていた。
俺は思わず振り返る。
ヴァルディノア——
かつて魔族が築き、そして滅びた地。
そこに巣食った闇もまた、俺たちの手で断ち切った。
「……もう来ることはないだろうな」
思わず漏らした言葉に誰からともなくうなずきが返ってきた。
帰路の途中、俺はふと頭の中の静けさに気づいた。
カイランの声がしばらく聞こえない。
あれほど口を挟んできた彼が今は沈黙している。
(お前も見てたんだろ。俺たちの戦いを)
問いかけに返答はなかった。
だが、不思議と孤独ではなかった。
カイランはきっと、己の内で何かを考えている。次に現れたとき、また何かしらの答えを寄越すのだろう。
俺たちはレストリア砦へと向かう。
瓦礫と草木に覆われた道を、疲労を抱えながらも黙々と歩く。数時間以上の道のりだったが、誰一人として弱音は吐かなかった。ネフィラとの戦いを経て、それぞれの胸に去来する思いが、言葉よりも先に歩を進めさせていた。
砦の門が見えたとき、兵士たちのざわめきが広場から漏れ聞こえてきた。
俺たちの帰還が早くも話題になっているのだろうか。
「カイン、これって……」
「さあな……とにかく、早く報告しよう」
門がゆっくりと開き、俺たちはその中へと足を踏み入れた。
その日のうちに、俺たちは砦内の副将にネフィラ討伐の報告を行った。証拠となる遺留品や、廃都で見た光景、彼女の最後の様子を簡潔に伝えると、副将は深くうなずいた。
「ご苦労だった。このことは、王子殿下にも正式に報告しよう」
俺は礼を述べ、ルナとエルンを連れて与えられた部屋へと戻った。
その夜、眠りにつく直前、俺は窓辺に気配を感じた。
ふと振り返ると、そこには黒衣の男が立っている。
もう驚かない。マルヴェス・ブラッドロック。その男だ。
「約束を守った者には誠意をもって応える。それが私の流儀だ」
そう語る彼の表情からは敵意も、味方としての親しみも読み取れない。
「そうだな。いずれ、吉報が届くだろう」
彼は一方的に告げ、影の中へと姿を消した。
考えるのは明日にしよう。その夜、カインは泥の様に眠った。
ネフィラは死んだ。だが、妙な余韻が残っていた。
自らの命を燃やし尽くすような最期は、まるで彼女がこの地に残した呪詛そのもののように思えてならなかった。
「カイン、足、大丈夫……?」
ルナが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
肩を貸して歩く彼女の額にはまだ汗が滲んでいる。解毒は済んだとはいえ、身体の奥に残る熱や倦怠感は抜けていないだろう。
「ああ、大丈夫だ。ルナは無理してないか?」
「ちょっとふらふらするけど、平気。カインが背負ってくれてたから、ぐっすり眠れたよ」
はにかんだような笑顔に、俺は肩の力が抜けるのを感じた。
何もかもを一人で背負っているわけじゃない。
エルンもまた、淡く光る魔法陣を足元に展開しながら、警戒を解かずに歩いていた。
「精霊たちの囁きが少し静かになったわ。ネフィラが残していた歪み……少しずつ、癒えてきてるみたい」
「……そうか。エルン、ありがとな。お前がいなかったら……」
「言わないで。私も……ちゃんと、守りたかったの。カインも、ルナも」
エルンの声は、いつもより少し震えていた。
俺たちはそれぞれが、自分にできる限界を超えて戦った。
だからこそ、今この道を歩いて帰れているのだ。
廃都を出る最後の石門を抜けると、空が白み始めていた。
俺は思わず振り返る。
ヴァルディノア——
かつて魔族が築き、そして滅びた地。
そこに巣食った闇もまた、俺たちの手で断ち切った。
「……もう来ることはないだろうな」
思わず漏らした言葉に誰からともなくうなずきが返ってきた。
帰路の途中、俺はふと頭の中の静けさに気づいた。
カイランの声がしばらく聞こえない。
あれほど口を挟んできた彼が今は沈黙している。
(お前も見てたんだろ。俺たちの戦いを)
問いかけに返答はなかった。
だが、不思議と孤独ではなかった。
カイランはきっと、己の内で何かを考えている。次に現れたとき、また何かしらの答えを寄越すのだろう。
俺たちはレストリア砦へと向かう。
瓦礫と草木に覆われた道を、疲労を抱えながらも黙々と歩く。数時間以上の道のりだったが、誰一人として弱音は吐かなかった。ネフィラとの戦いを経て、それぞれの胸に去来する思いが、言葉よりも先に歩を進めさせていた。
砦の門が見えたとき、兵士たちのざわめきが広場から漏れ聞こえてきた。
俺たちの帰還が早くも話題になっているのだろうか。
「カイン、これって……」
「さあな……とにかく、早く報告しよう」
門がゆっくりと開き、俺たちはその中へと足を踏み入れた。
その日のうちに、俺たちは砦内の副将にネフィラ討伐の報告を行った。証拠となる遺留品や、廃都で見た光景、彼女の最後の様子を簡潔に伝えると、副将は深くうなずいた。
「ご苦労だった。このことは、王子殿下にも正式に報告しよう」
俺は礼を述べ、ルナとエルンを連れて与えられた部屋へと戻った。
その夜、眠りにつく直前、俺は窓辺に気配を感じた。
ふと振り返ると、そこには黒衣の男が立っている。
もう驚かない。マルヴェス・ブラッドロック。その男だ。
「約束を守った者には誠意をもって応える。それが私の流儀だ」
そう語る彼の表情からは敵意も、味方としての親しみも読み取れない。
「そうだな。いずれ、吉報が届くだろう」
彼は一方的に告げ、影の中へと姿を消した。
考えるのは明日にしよう。その夜、カインは泥の様に眠った。
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