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第七章 森のざわめき
第148話 古の契約
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俺の言葉に呼応するように、祭壇を取り囲んでいた魔力が大きくざわついた。
地下空間に満ちていた淀んだ圧力が、まるで嵐の前の静けさのように、一点へと収束していく。光の鎖が共鳴するように振動し、眠っていた大精霊の閉ざされた瞼が、かすかに動いた。
俺は固唾を呑んで、その変化を見守る。
やがて、大精霊の光の体がひときわ強く輝き、その声が直接俺の魂に響いてきた。
『……我を、呼ぶのは誰だ……』
その声は何百年もの眠りの重さを感じさせる、深く、そしてどこか懐かしい響きだった。
「俺はカイン。この森の新たな賢者です」
俺は膝をついたまま、顔を上げた。
「我々は、あなたの気高い意志を忘れ、その犠牲の上に繁栄を築いてきました。その永きにわたる無知と怠慢を、この森の全ての民に代わって、謝罪します」
『……謝罪……か』
大精霊は静かにつぶやく。その光の瞳が、ゆっくりと俺に向けられた。
『そなたの言葉、確かに受け取った。だが賢者よ。そなたは何かを思い違いしている』
『我は犠牲になったのではない。糧となることを自ら望んだのだ。この森を愛し、未来永劫、この地が豊かであるようにと』
「ですが、あなたの魂は限界を迎え、森は滅びようとしています」
俺の必死の問いに大精霊は静かに首を横に振った。
『森が滅ぶのは、我が力が尽きるからではない』
その声は深い哀しみを帯びた。
『森が滅ぶは、忘れられた時であろう?』
「……え?」
『我が名は悠久の時の中に埋もれ、もはや誰にも呼ばれることがなくなった。礎たる我が名を失えば、森もまた、拠り所を失い、枯れるは必然の理』
大精霊の光がわずかに揺らぐ。それは最後の力を振り絞るような問いかけだった。
『賢者よ……我が名を忘れたか?』
その瞬間、俺の脳裏に電光が走った。
忘れられた名。森の礎たる名。そして、俺たちが今いる、この神殿の名。
答えはずっとそこにあった。
「あなたの名は……エルメノス」
俺がそう告げた瞬間、地下祭壇に満ちていた重い空気が一瞬にして浄化された。
エルメノスを縛っていた光の鎖が音もなく砕け散り、温かく、生命力に満ちた光が彼の体から溢れ出す。
『……そうだ。よくぞ、思い出してくれた』
大精霊エルメノスの声には安堵と慈愛が満ちていた。
『我が契約は、魂を糧とすることではない。我が名を語り継ぎ、この森を愛し続けること。それこそが、森に力を与え、我をこの地に繋ぎとめる、唯一の約束だったのだ』
これが真実。「古の契約」とは大精霊を搾取する非道な術などではなかったのだ。
エルメノスの体から溢れた光が地下空間を満たし、階段を駆け上り、神殿から森全体へと広がっていく。
地上で待っていた仲間たちや森の民はその温かい光に包まれ、再び歌い始めた精霊たちの喜びに満ちた囁きを耳にした。
やがて俺が地上に戻ると、そこには言葉を失ったエルフたちの姿があった。森の空気が澄み渡っている。生命の息吹が満ち満ちている。
俺は壇上に立ち、集まった民衆と長老たちの前で、エルメノスから伝えられた真実を簡潔に、しかし力強く語った。
「契約は、あの方の名を忘れず、この森を愛し続けるという約束だった。ただ、それだけのことだったんだ」
その言葉に民衆は畏敬の念を抱き、長老たちは自らの過ちへの悔恨に打ち震えた。
エルドレアが進み出て、俺の前で深く、深く頭を下げる。
「あなた様が来てくださらなければ、我々は森と共に、我らの誇りすらも永遠に失うところでした。……あなたこそ、この森の『真の賢者』です」
その姿に他の長老たちも、民衆も、次々と頭を垂れた。
だが、その光景を集団の後方で見ていた保守派の長老の一人は、安堵ではなく、複雑な表情を浮かべていた。畏怖、そして……彼のやり方についていけないという、かすかな拒絶。
彼らの心に生まれた新たなざわめきに、俺はまだ気づいていなかった。
地下空間に満ちていた淀んだ圧力が、まるで嵐の前の静けさのように、一点へと収束していく。光の鎖が共鳴するように振動し、眠っていた大精霊の閉ざされた瞼が、かすかに動いた。
俺は固唾を呑んで、その変化を見守る。
やがて、大精霊の光の体がひときわ強く輝き、その声が直接俺の魂に響いてきた。
『……我を、呼ぶのは誰だ……』
その声は何百年もの眠りの重さを感じさせる、深く、そしてどこか懐かしい響きだった。
「俺はカイン。この森の新たな賢者です」
俺は膝をついたまま、顔を上げた。
「我々は、あなたの気高い意志を忘れ、その犠牲の上に繁栄を築いてきました。その永きにわたる無知と怠慢を、この森の全ての民に代わって、謝罪します」
『……謝罪……か』
大精霊は静かにつぶやく。その光の瞳が、ゆっくりと俺に向けられた。
『そなたの言葉、確かに受け取った。だが賢者よ。そなたは何かを思い違いしている』
『我は犠牲になったのではない。糧となることを自ら望んだのだ。この森を愛し、未来永劫、この地が豊かであるようにと』
「ですが、あなたの魂は限界を迎え、森は滅びようとしています」
俺の必死の問いに大精霊は静かに首を横に振った。
『森が滅ぶのは、我が力が尽きるからではない』
その声は深い哀しみを帯びた。
『森が滅ぶは、忘れられた時であろう?』
「……え?」
『我が名は悠久の時の中に埋もれ、もはや誰にも呼ばれることがなくなった。礎たる我が名を失えば、森もまた、拠り所を失い、枯れるは必然の理』
大精霊の光がわずかに揺らぐ。それは最後の力を振り絞るような問いかけだった。
『賢者よ……我が名を忘れたか?』
その瞬間、俺の脳裏に電光が走った。
忘れられた名。森の礎たる名。そして、俺たちが今いる、この神殿の名。
答えはずっとそこにあった。
「あなたの名は……エルメノス」
俺がそう告げた瞬間、地下祭壇に満ちていた重い空気が一瞬にして浄化された。
エルメノスを縛っていた光の鎖が音もなく砕け散り、温かく、生命力に満ちた光が彼の体から溢れ出す。
『……そうだ。よくぞ、思い出してくれた』
大精霊エルメノスの声には安堵と慈愛が満ちていた。
『我が契約は、魂を糧とすることではない。我が名を語り継ぎ、この森を愛し続けること。それこそが、森に力を与え、我をこの地に繋ぎとめる、唯一の約束だったのだ』
これが真実。「古の契約」とは大精霊を搾取する非道な術などではなかったのだ。
エルメノスの体から溢れた光が地下空間を満たし、階段を駆け上り、神殿から森全体へと広がっていく。
地上で待っていた仲間たちや森の民はその温かい光に包まれ、再び歌い始めた精霊たちの喜びに満ちた囁きを耳にした。
やがて俺が地上に戻ると、そこには言葉を失ったエルフたちの姿があった。森の空気が澄み渡っている。生命の息吹が満ち満ちている。
俺は壇上に立ち、集まった民衆と長老たちの前で、エルメノスから伝えられた真実を簡潔に、しかし力強く語った。
「契約は、あの方の名を忘れず、この森を愛し続けるという約束だった。ただ、それだけのことだったんだ」
その言葉に民衆は畏敬の念を抱き、長老たちは自らの過ちへの悔恨に打ち震えた。
エルドレアが進み出て、俺の前で深く、深く頭を下げる。
「あなた様が来てくださらなければ、我々は森と共に、我らの誇りすらも永遠に失うところでした。……あなたこそ、この森の『真の賢者』です」
その姿に他の長老たちも、民衆も、次々と頭を垂れた。
だが、その光景を集団の後方で見ていた保守派の長老の一人は、安堵ではなく、複雑な表情を浮かべていた。畏怖、そして……彼のやり方についていけないという、かすかな拒絶。
彼らの心に生まれた新たなざわめきに、俺はまだ気づいていなかった。
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