50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第八章 落星の裂け目

第151話 新たな道、それぞれの旅立ち

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「話ってなんだよ、改まって」

 カズエルのからかうような口調に俺は苦笑交じりに返した。

 書斎にはまだ、ミラネが残していった熱烈な信仰の余韻が漂っている気がする。そんな肩の凝る空気の中、唯一「竹内悟志」として接してくれる親友の存在は俺にとって何よりの清涼剤だった。

 カズエルは壁から背を離すと、俺の正面にある椅子にどさりと腰を下ろした。

「単刀直入に言おう。俺を、お前の『代行』として王都へ行かせてくれないか」

「王都へ? ……研究のためか?」

「それもある。だが、一番の理由は『約束』だ」

 彼はテーブルの上に置かれた報告書——俺が『双冠そうかんの英雄』として認定された書類を指先で弾いた。

「俺たち、酒の席で話しただろ。『異世界に行ったら二人で無双しようぜ』ってな」

「ああ。……懐かしいな」

「お前はもう、十分にその道を歩んでる。だが俺は、まだフェルシアの里で理屈をこねてるだけだ。……俺も、お前の隣に立つに相応しい実績が欲しくなったんだよ」

 その言葉の裏にある、彼なりの不器用な友情を俺は感じ取っていた。

 彼はただ名声が欲しいわけではない。王都という政治と情報の中心に身を置き、離れた場所から俺の地盤を固めようとしてくれているのだ。

「……分かった。レオンハルト王とギルドへの紹介状を書こう。お前なら王都の魔術研究にも新しい風を吹き込めるはずだ」

「助かる。恩に着るよ」

 カズエルは満足げにうなずいた。だが、そこで少しだけ言い淀み、視線を泳がせた。

「あと、な。ご存知の通り、俺は後衛専門の神官職だ。護衛兼任で、腕利きの前衛職を一人、森のエルフから見繕ってくれないか?」

 そう言うカズエルの視線が窓の外——中庭で剣の稽古をしているセリスの方角へ、一瞬だけ向いたのを俺は見逃さなかった。

(……なるほど、そういうことか)

 俺は口元が緩むのを必死に堪え、わざとらしく腕を組んで考え込むふりをした。

「適任者か……それなら、ミラネに相談するのが一番だろうな。彼女なら森の人材にも詳しいはずだ」

 俺は早速、自室に戻っていたミラネを呼び戻し、カズエルの件を相談した。

「……それで、俺の代行として王都へ向かうカズエルに護衛兼任で腕利きの前衛職を随行ずいこうさせたいんだが」

 俺の相談にミラネは一瞬考える素振りを見せた後、確信に満ちた笑みで答えた。

「それでしたら、セリス殿をおいて他におりません。彼女はカイン様への忠誠心も厚く、剣の腕は森でも随一。それに、以前は王都の騎士団とも交流がありました。王都の地理や軍にも明るい彼女ならば、これ以上ない適任かと」

「……だよな。俺もそう思う」

 ミラネの推薦に俺は強くうなずいた。横目でカズエルを見ると、彼は「やれやれ」といった顔をしつつも、その耳が微かに赤くなっているのが見て取れた。

 呼び出されたセリスは話を聞くと少し驚いたように目を見開いたが、すぐにその役目を快く承諾した。

「賢者カイン殿の代理であるカズエル様をお守りし、森と王都を繋ぐ架け橋となる……。これほど光栄な任務はありません。つつしんでお受けいたします」

 その凛とした返答に、カズエルが安堵の息をついたのを、俺だけが知っていた。

 ***

 数日後。カズエルとセリスが王都へ旅立ってから、森は以前よりも静かになった気がした。
 頼れる仲間を送り出し、平穏な日々が続くかと思われた矢先。
 今度はミラネが、いつになく険しい表情で俺のもとを訪れた。

「カイン様、緊急のご報告が。……ヴィンドールを支持していた保守派のエルフたちが、この数日で次々と姿を消しております」

「失踪? 一体どこへ」

「私の情報網で探りましたが、森を出た形跡はありません。おそらくは……かつてフェルシアの隠れ里がそうであったように、どこか森の奥深くへ隠れ住むことを決めたのでしょう」

 ミラネは厳しい顔で続ける。

「エルフは長寿です。王都での一件が風化し、力が蓄えられた頃、彼らはまた戻ってくるかもしれません。新たな火種として」

 ミラネの報告に俺の胸がざわついた。去った者たちの沈黙は決して終わりを意味しない。

 俺は賢者として、この森の光も、そして影も見つめ続けなければならないのだと、改めて心に刻んだ。
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