50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

文字の大きさ
160 / 280
第八章 落星の裂け目

第160話 選び取る、賢者の力

しおりを挟む
「エクリプスの核が見えるまで、こじ開ける!」

 俺の叫びを合図に決死の総力戦が始まった。
 だが、俺たちは闇雲に攻撃を仕掛けたわけではない。まずは敵の性質を見極める必要があった。

「ルナ、合わせて! あの欠片かけらと同じなら、生半可な魔法は通用しないはずよ。まずは試すわ!」

「うん! いっくよー!」

 エルンとルナが同時に動く。

「光の精霊ルミナよ、聖なる矢を放て!――聖光の矢ルミナス・レイ!」

「燃えて!――火玉ファイアボール!」

 放たれた光の矢と火球が、エクリプスの本体へと吸い込まれるように着弾する。
 だが、結果は俺たちの懸念通り――いや、それ以上だった。
 魔法は本体に触れた瞬間、抵抗する間もなく輝きを失い、ズルリと闇の奥へと飲み込まれてしまったのだ。ダメージを与えるどころか、エクリプスの質量がわずかに膨張したようにさえ見える。

「……やはり! 欠片かけら以上に魔法への耐性が高いわ!」

 エルンが悔しげに唇を噛む。

 古木にできた裂け目の奥で、喰われた精霊たちの光が消化を待つ餌のように悲しげに明滅していた。

「魔法そのものが餌にされているのか……!」

 レオナルドが叫びながら、単身、エクリプスの触手に切り込んでいく。

 彼の二振りの短剣だけが向かってくる触手を切り払い、弾き返し、かろうじて戦線を維持していた。だが、相手の再生力と質量は計り知れない。レオナルドの鎧には触手で打たれた黒い傷が刻まれ、彼の呼吸は次第に荒くなっていった。

 防戦一方の中、俺は必死に活路を探していた。そして、ある事に気づく。

 ――レオナルドの斬撃を嫌がっているように見える。いや……怖がっているのか?
 エルンたちの魔法は消されてしまった、というか、喰われた。純粋なエネルギーとして吸収されたんだ。
 けれど、レオナルドの剣には明確に怯え、その攻撃を嫌がるように触手が逃げている。
 魔法は喰うのに剣は嫌う……? 待てよ……。
 そもそも、魔法が喰われるなら、アウレリウスの封印はなんで喰われていない? あれも、光の賢者が編んだ強大な魔法のはずだ。
 何か、そのあたりに突破口があるはずだ……。

 ……賢者アウレリウスの封印は、ただの魔法じゃなかった。彼の『魂』と『意志』が編み込まれていたから、エクリプスがそれを喰えなかったとすれば――。
 弱点は「意志の力」。ただの魔力ではなく、術者の明確な殺意や願いが込められた力だ。レオナルドの剣技にはその気迫が乗っているから通じているんだ!

「みんな、聞いてくれ!」

 俺は仲間たちに叫んだ。

「奴の弱点は『強い意志』が込められた力だ! ただ魔力を放つだけじゃダメだ! エルン、詠唱に意志を組み込むんだ! 明確なイメージと意思が乗っている魔法なら、アウレリウスの封印と同じように効き目があるはずだ!」

「……なるほど、そういうことね! やってみせるわ!」

「ルナ! 俺たちで攻撃を続けて、あいつを弱らせる! だから、核を探し続けてくれ! ルナの眼だけが頼りだ!」

「わかった!」

 ルナが力強くうなずく。

 俺の言葉で仲間たちの瞳に迷いが消え、新たな光が宿った。

 エルンは懐から『陽光石ようこうせき』を取り出した。光の魔法を増幅させる触媒を手に、一気に勝負を決めるつもりだ。

「森を、仲間を守りぬく……この意志は決して無くならない!」

 エルンが強い決意と共に詠唱を始める。

 するとどうだ。エクリプスは、その練り上げられた「意志」の力に明確な嫌悪を示し、攻撃の矛先をエルンへと集中させた。無数の触手が彼女を沈黙させようと殺到する。

「させん!」

 レオナルドが身を挺してその前に立ちはだかる。彼の短剣が触手を切り裂き、いなし、弾く。だが、多勢に無勢。彼の体は徐々に押し込まれていく。

 その絶望的な状況下で、エルンの詠唱は一つの祈りとなって完成した。

「集い、束ねられし光の精霊たちよ! 陽光石を触媒に仲間を護らんとする我が意志を乗せ、異形を穿つ一矢となれ!――聖光の矢ルミナス・レイ!」

 放たれた光の矢は、もはや喰われることなくエクリプスを焼いた。聖なる痛みを与え、その巨大な体に風穴を開けたのだ。

 『オオオオオッ……!』

 エクリプスから、初めて苦悶くもんの思念がほとばしる。それは、純粋な力を好む自身が、不純な「意志」によって傷つけられることへの本能的な嫌悪だった。
 エクリプスは荒れ狂い、これまで以上の数の触手がエルンめがけて殺到する。

「よし、効いてるぞ!」

 レオナルドが最後の力を振り絞ってエクリプスの触手を迎撃する。

 その隙に、ルナは苦痛に揺らめくエクリプスの体内に核を見つけた。

「核が見えた……!」
「エルンが穴を開けたところの上! 一番大きな触手の付け根に嫌な塊がある!」

 俺は仲間たちへの想い、そして、俺自身の「生きたい」という強い意志、そのすべてを込めた一撃を放つため、ただ一本の蒼閃そうせんに束ねる。

「消えてもらうわよ、エクリプス!」

 俺よりもわずかに早く、エルンの詠唱がクライマックスに達する。

「終わりを告げる光の主、イルディアよ! 森を、仲間を護らんとするこの意志を、光の刃へと変え拒絶を示す! 焼き尽くせ!――終光ラスト・レイ!」

 増幅された光がエルンに迫っていた触手を根こそぎ焼き払う。

 そして、俺もまた、叫んだ。

「水の精霊ウンディーヴァよ! 俺や仲間が生きるため、この一閃にすべてを託し、かの災厄を撃ち滅ぼす!――蒼閃そうせん!」

 放たれた蒼き一閃は、もはやただの水の刃ではなかった。
 強い意志を乗せた水流は、それを防ごうとするエクリプスの触手を切り裂き、穿うがち、跳ね飛ばし、ただ、ただ真っすぐに進んだ。
 そして、古木の中にあるエクリプスの根源たる核を完全に貫いたのだ。

 『オアアアアーッ!!』

 エクリプスの思念が断末魔のノイズとなって俺たちの脳をかき乱す。巨体は制御を失い、暴走した触手がのたうちまわる。
 そして、核が完全に砕け散った瞬間――静寂が訪れるとともに奇跡が起きた。

 エクリプスの体内に囚われていた無数の光の点――喰われた精霊たちの魂が、一斉に解き放たれたのだ。青い光、緑の光、黄金の光。無数の魂の星屑が牢獄から溢れ出し、感謝を伝えるかのように俺たちの周りを一度だけ旋回した。それは、あまりにも美しく、そして悲しい光の葬列だった。

 魂が解放されると同時にエクリプスの影は急速にその濃度を失っていく。力を失った虚無の塊は、まるで朝霧のように跡形もなく消え去っていった。

 後に残されたのは、静かだが生命の息吹を感じさせる、本来の裂け目の姿。

 そして、役目を終えた封印の古木に巻き付いていた光の鎖もまた、その輝きを穏やかなものに変え、ゆっくりと光の粒子となって薄らぎながら消えていく。

 『ありがとう』

 消えゆく光の粒子から、彼の声が聞こえたような気がした。

 光の賢者アウレリウス。

 永劫の戦いを終えた彼の魂は静かに昇華しょうかし、空へとかえっていった。

 戦いは終わった。

 俺は仲間たちを見回し、安堵する。

「……今回も、しんどかったな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

英雄の孫は今日も最強

まーびん
ファンタジー
前世では社会人だったが、死んで異世界に転生し、貧乏貴族ターセル男爵家の3男となった主人公ロイ。 前世のギスギスした家庭と違い、家族の皆から愛され、ロイはすくすくと3歳まで育った。 中でも、毎日一緒に遊んでくれるじいじは爺馬鹿全開で、ロイもそんなじいじが大好き。 元将軍で「英雄」と呼ばれる最強のじいじの血を引いたロイは、じいじ達に見守られながら、今日も楽しく最強な日々を過ごす。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...