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ミュンツフルト編
上手い嘘のつき方
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魔族の女を連れて隠れ家まで帰ってきた一行。
地下にあるボロボロの廃屋に入った彼女は、家具だけが場違いに豪華であることが不思議でならない。
「そこのソファにでもくつろいでね。別に拷問とかしないから。」
ウイルヘルムはそう言い捨てると、自分の定位置のマホガニー椅子に座った。
両手を動かせない魔族の女はぎこちなくソファに腰を下ろした。座り心地は最高だった。
「まずは自己紹介しよっか。僕はウイルヘルム・ヴァイス、グスタフ・ヴァイス子爵の三男だよ。」
フランクな言葉使いとは逆に、ちゃんとした貴族の作法でお辞儀するウイルヘルム。
「……メディナよ。」
魔族の女はぶっきらぼうに答えた。グスタフの息子だと自称するウイルヘルムが嘘をついていると思っている。ソファの向かいにある椅子に腰掛けたスリハンは、彼女の目線、声の調子、心拍数などでメディナが偽名だと判断した。
「さっき魔族の言葉で僕に話しかけたね?──やっぱり、メディナさんも僕のマナの流れが普通じゃないことに気づいて、“魔族”だと思ったんだ。」
「僕のこと、“同類”だと思ってくれたんだね」
ウイルヘルムは言葉の爆弾を投げつけた。
「……!」
メディナの瞳が、ほんの一瞬だけ赤く揺れた。
「僕の父はね、“魔族の力を持った人間”を作るために実験を始めたんだ。僕はその試作品一号ってわけ。どうやってやったかは僕にも分からないけど──現にクラスが発現してないのに、究極職並みの実力を持っている。僕と実際戦ったメディナさんなら分かるよね?」
事実だった。ウイルヘルムの気功が魔族のマナ行使と一見同じに見えたから、動揺した隙にいとも簡単に捕獲されたが、動揺しなかったとしても、どれだけ本気を出しても、この少年に勝つことは叶わなかっただろう。しかも異質なマナを敵に体内に注ぐことで敵のマナや血流を止めて戦闘不能にさせる技など、少なくとも魔族の女とその一族はその存在すら知らない。
「ところで、メディナさんはホーフヌン丘で戦ったのかな?」
ウイルヘルムは、魔族の女に聞きながら、自分の懐に手を入れた。
「僕は……大切な師をその戦いで亡くした。」
その懐から、歪な形をした灰色の魔石を取り出された。
「そして……アンデッドに化した師を、僕の手で葬らなければならなかった。」
その魔石を眺めている目から一掬の涙が流れ落ちた。
「地下で活動していたという噂の『黒い騎士』か?」
魔族の女の問いに、ウイルヘルムはただ頷くだけだった。
レオンとタリンゴスはこの話を聞いて戸惑った。ウイルヘルムから自分の力についての説明を聞いたことはないから、魔族の力の実験品にされたという話を聞いても半信半疑だった。しかし黒い騎士はグスタフを仇敵だとしか思わず、ウイルヘルムに至ってはグスタフと見分けがつかなかったことから、黒い騎士がウイルヘルムの師だったという話は明らかに嘘だった。ウイルヘルムの嘘を聞いたポマニは、今までの不信感をさらに深めたが、スリハンとティージは別にさしたる反応を見せていない。
「メディナさんも黒い騎士が我が師、ウルリッヒ・ドレンカンプ准将だったことを知ってるんだ。ならばホーフヌン丘の戦いで魔族勢が敗北したことの不可解さに気づいているだろうね?そう、ツァンラートブルク・ヴァイス・トーテンフェルス連合軍に、なぜ魔族の軍勢の動きが筒抜けになっていたのかな?」
「……ふん。魔族の混血が目の前にいるから、答えは決まってるじゃないか。」
魔族の女は恨めしげに言い捨てた。
「我々の中に人族と内通している者がいる。」
「ご名答。じゃ、魔族が人類の連合軍に手を貸した原因はなんだと思う?」
ウイルヘルムは試すように尋ねた。
「……我々の中にも、金、人族の異性、酒、薬などに溺れた堕落者がいるだけの話だろう。」
「そんな魔族もいるにはいるが、こればかりは違うね。西の魔族の行末を案じているために、あえて僕の父と組んだんだよ。」
(スリハン、こやつを見張ってくれ。最低でも1時間は動けないはずだが、変化があればすぐ教えてくれ)
さっきの言葉に衝撃を受けた魔族の女をよそに、ウイルヘルムは口パクでスリハンに伝えた。魔族の女からはウイルヘルムの口パクが見えない。
スリハンは僅かに頷いた。
「僕、ちょっと疲れちゃった。メディナさんもよく休んでくださいね。」
魔族の女にそう告げたウイルヘルムは、レオンに目配りをして、席を立った。レオンとティージも立ち上がり、ウイルヘルムの後について、隠れ家の別の部屋に入っていく。
「じゃ、俺は食べ物を調達してくる。だいぶ遅い昼食になるけど。」
そう言ってタリンゴスは隠れ家を出て行った。
「レオン、1時間以内にその魔族に勝てるよう助言する。覚悟しておくといい。」
隠れ家の食堂の隣の居間で、ウイルヘルムは先生が生徒に宿題を出す口調でレオンに告げた。
「え、えっ!?1時間内なんて無理……いや、それでも…ボスなら……ボスならなんとかしてくれる!」
レオンはやる気を奮い立たせた。そしてウイルヘルムに平身低頭した。
「ボス……いや、師匠、よろしくお願いします!」
地下にあるボロボロの廃屋に入った彼女は、家具だけが場違いに豪華であることが不思議でならない。
「そこのソファにでもくつろいでね。別に拷問とかしないから。」
ウイルヘルムはそう言い捨てると、自分の定位置のマホガニー椅子に座った。
両手を動かせない魔族の女はぎこちなくソファに腰を下ろした。座り心地は最高だった。
「まずは自己紹介しよっか。僕はウイルヘルム・ヴァイス、グスタフ・ヴァイス子爵の三男だよ。」
フランクな言葉使いとは逆に、ちゃんとした貴族の作法でお辞儀するウイルヘルム。
「……メディナよ。」
魔族の女はぶっきらぼうに答えた。グスタフの息子だと自称するウイルヘルムが嘘をついていると思っている。ソファの向かいにある椅子に腰掛けたスリハンは、彼女の目線、声の調子、心拍数などでメディナが偽名だと判断した。
「さっき魔族の言葉で僕に話しかけたね?──やっぱり、メディナさんも僕のマナの流れが普通じゃないことに気づいて、“魔族”だと思ったんだ。」
「僕のこと、“同類”だと思ってくれたんだね」
ウイルヘルムは言葉の爆弾を投げつけた。
「……!」
メディナの瞳が、ほんの一瞬だけ赤く揺れた。
「僕の父はね、“魔族の力を持った人間”を作るために実験を始めたんだ。僕はその試作品一号ってわけ。どうやってやったかは僕にも分からないけど──現にクラスが発現してないのに、究極職並みの実力を持っている。僕と実際戦ったメディナさんなら分かるよね?」
事実だった。ウイルヘルムの気功が魔族のマナ行使と一見同じに見えたから、動揺した隙にいとも簡単に捕獲されたが、動揺しなかったとしても、どれだけ本気を出しても、この少年に勝つことは叶わなかっただろう。しかも異質なマナを敵に体内に注ぐことで敵のマナや血流を止めて戦闘不能にさせる技など、少なくとも魔族の女とその一族はその存在すら知らない。
「ところで、メディナさんはホーフヌン丘で戦ったのかな?」
ウイルヘルムは、魔族の女に聞きながら、自分の懐に手を入れた。
「僕は……大切な師をその戦いで亡くした。」
その懐から、歪な形をした灰色の魔石を取り出された。
「そして……アンデッドに化した師を、僕の手で葬らなければならなかった。」
その魔石を眺めている目から一掬の涙が流れ落ちた。
「地下で活動していたという噂の『黒い騎士』か?」
魔族の女の問いに、ウイルヘルムはただ頷くだけだった。
レオンとタリンゴスはこの話を聞いて戸惑った。ウイルヘルムから自分の力についての説明を聞いたことはないから、魔族の力の実験品にされたという話を聞いても半信半疑だった。しかし黒い騎士はグスタフを仇敵だとしか思わず、ウイルヘルムに至ってはグスタフと見分けがつかなかったことから、黒い騎士がウイルヘルムの師だったという話は明らかに嘘だった。ウイルヘルムの嘘を聞いたポマニは、今までの不信感をさらに深めたが、スリハンとティージは別にさしたる反応を見せていない。
「メディナさんも黒い騎士が我が師、ウルリッヒ・ドレンカンプ准将だったことを知ってるんだ。ならばホーフヌン丘の戦いで魔族勢が敗北したことの不可解さに気づいているだろうね?そう、ツァンラートブルク・ヴァイス・トーテンフェルス連合軍に、なぜ魔族の軍勢の動きが筒抜けになっていたのかな?」
「……ふん。魔族の混血が目の前にいるから、答えは決まってるじゃないか。」
魔族の女は恨めしげに言い捨てた。
「我々の中に人族と内通している者がいる。」
「ご名答。じゃ、魔族が人類の連合軍に手を貸した原因はなんだと思う?」
ウイルヘルムは試すように尋ねた。
「……我々の中にも、金、人族の異性、酒、薬などに溺れた堕落者がいるだけの話だろう。」
「そんな魔族もいるにはいるが、こればかりは違うね。西の魔族の行末を案じているために、あえて僕の父と組んだんだよ。」
(スリハン、こやつを見張ってくれ。最低でも1時間は動けないはずだが、変化があればすぐ教えてくれ)
さっきの言葉に衝撃を受けた魔族の女をよそに、ウイルヘルムは口パクでスリハンに伝えた。魔族の女からはウイルヘルムの口パクが見えない。
スリハンは僅かに頷いた。
「僕、ちょっと疲れちゃった。メディナさんもよく休んでくださいね。」
魔族の女にそう告げたウイルヘルムは、レオンに目配りをして、席を立った。レオンとティージも立ち上がり、ウイルヘルムの後について、隠れ家の別の部屋に入っていく。
「じゃ、俺は食べ物を調達してくる。だいぶ遅い昼食になるけど。」
そう言ってタリンゴスは隠れ家を出て行った。
「レオン、1時間以内にその魔族に勝てるよう助言する。覚悟しておくといい。」
隠れ家の食堂の隣の居間で、ウイルヘルムは先生が生徒に宿題を出す口調でレオンに告げた。
「え、えっ!?1時間内なんて無理……いや、それでも…ボスなら……ボスならなんとかしてくれる!」
レオンはやる気を奮い立たせた。そしてウイルヘルムに平身低頭した。
「ボス……いや、師匠、よろしくお願いします!」
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