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第七章
第144話 隠し扉
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冒険者ギルドを通し、新しいダンジョン発見の報が各地のギルド支部へと伝えられたその時、北条達は鉱山エリアの十九層を探索していた。
六層から続いている鉱山エリアも大分探索は進んでいるが、毎回途中にある迷宮碑からスタートしているので、それほど深い場所に潜っているという感覚は彼らにはない。
ただ、階層の広さは徐々に広がっているようで、下層ほど探索に時間がとられるようになってきた。
魔物に関しては徐々に新しい魔物も姿を見せ始め、今いる十九層ではFランクの魔物よりEランクの魔物の方がよく見かけるようになっている。
今も北条達はFランクの魔物マッドスライムと、Eランクの魔物マインスモッグとの戦闘状態に突入していた。
前者は泥状のスライムで、体が泥のような物質で構成されているために、スライム種の弱点である核の部分が外部からは見えない。
おまけに斬撃や刺突に対する耐性を持っている為、武器による攻撃の場合は打撃系以外ではダメージを与えるのは難しい。
しかし、
「そっちの三匹は任せて! 【ファイアーボール】」
咲良の放った"火魔法"によって、三体のマッドスライムがまとめて火あぶりにされる。
火属性が弱点であるマッドスライムは、【ファイアーボール】の魔法によって体の水分が蒸発し、不定形の泥状の体から焼き物のように体が硬くなっていく。
「トドメは私が!」
そこに陽子の投げた鉄球のようなものが命中し、パリンパリンといった感じで次々とマッドスライムが砕けていく。
ここまでマッドスライムが硬くなったのは、咲良の"火魔法"の威力が高かったからであって、通常は少し動きが鈍ったり表面が焼けこげる程度だ。
そしてトドメに陽子が"投擲術"でもって放った鉄球は、宝箱から発見した〈アーダル魔弾〉というもので、魔力を込めて敵に投げつけると、よりダメージを与えられるという魔法道具だ。
最近では陽子もすっかりこの手の投擲武器の扱いに慣れてきたようだ。
「フンッ!」
一方北条は、飛び掛かってきたマッドスライムに対し、〈サラマンダル〉に炎の力を宿らせ一息に切り捨てる。
更に同時にハルバードの刃先が触れた箇所から赤い光が発せられると、マッドスライムはそれだけで完全に絶命してしまう。
実はマッドスライムの恐ろしさの一つに耐久度の高さというものがあるのだが、北条はそんな様子を微塵も見せることはなかった。
「ウォフウォフッ!」
前方で北条達がマッドスライムと戦っている中、壁際から密かに接近してくる魔物の姿があった。
マインスモッグと呼ばれるこのEランクの魔物は、体がガス状の物質で構成されており、通常の物理攻撃は一切効かない。
スライムのような核もないので、この魔物を倒すには魔法や魔法の力が宿った武器が必要不可欠だ。
「マンジュウ、お願い!」
芽衣の言葉に答えるように、雷狼へと進化したマンジュウが"雷纏"で雷を身にまとってマインスモッグへと突撃する。
しかし、その不定形な形を活かすように、マンジュウのぶつかる場所だけ 器用に体のガス部分に穴をあけるかのようにして躱される。
若干電撃によるダメージは入ったようだが、大して効いてはいないようだ。
物理が全く通らない代わりに、マインスモッグには火属性と風属性が良く通る。
雷属性も弱点属性ではないが普通に効くので、マンジュウの攻撃がまともに当たれば効果はあるのだが、確りとした形を持たない相手にマンジュウも攻めあぐねているようだ。
「……こ、これで大丈夫です……」
とそこへ、楓は"影術"の【影の手】を使いマインスモッグを一所に押し固める。
「ウォオオンッ」
そこへすかさず雷を纏ったマンジュウが体当たりをかまし、モヤモヤとしたその体をぶち破った。
そして主人である芽衣も、別のマインスモッグへ向けて【ライトニングボール】を放ち、マインスモッグの体を散り散りにかき消していく。
本来マッドスライムもマインスモッグも、低ランクの冒険者にとっては相手にしたくないタイプの魔物なのだが、魔法的攻撃手段が豊富な北条達にとっては、逆にボーナスゲームのようなものだ。
しかも、このマッドスライムというのは極々稀にだが、〈ゼラゴダスクロール〉をドロップする事があるらしい。
前回の探索の後、ナイルズからその情報を仕入れた北条達は、十六層から出現するようになったマッドスライムを、見かけるたびに焼いてきた。
残念ながら、今の所スクロールのドロップはないのだが、ちょいレア? と思われるマッドスライムの核はドロップしていた。
マンジュウ達の倒したマインスモッグの方はというと、魔石だけを残して完全に姿を消していた。
マインスモッグはその名の通り、ダンジョン以外では鉱山跡なんかに現れる魔物なのだが、ダンジョンと違って自然のマインスモッグは倒しても魔石すら落とすことがない。
それらのドロップを拾い集めた北条達は、一旦一か所に集まって地図の確認を始めた。
「えーと、これでこっちのルートは大体埋まったわね。その前のこの分岐は構造的に何もないと思うから、あとは……」
そう言って陽子が地図の一点を指し示す。
特に何の変哲もない通路の行き止まり。その壁の部分に描かれた星印のマークが示されている部分だ。
「ここにあった隠し扉っすね」
陽子の言いかけた言葉を由里香が繋ぐ。
このダンジョンの探索をしてから幾日も経過しているが、このような隠し扉を発見したのは初めてだ。
ナイルズから聞いた調査班の報告でも、隠し扉や隠し通路の類が発見されたとは聞いていない。
ダンジョンには時折こうしたギミックがあるらしく、新しいルートに繋がっていたり、番人が配置された部屋などに通じたりしているらしい。
今回見つけた隠し扉は、北条が壁の先から聞こえてきた僅かな物音に気付き、あちこち壁を調べた結果発見された。
壁の左側を押すと回転扉のようにググっと動きだす仕組みになっていて、その先には真っ暗な空間が広がっている。
「で、どうするの?」
「んー、パターン通りならぁ、二十一層に迷宮碑があると思うんだがぁ……」
これまで鉱山エリアを通ってきたが、六層、十一層、十六層には迷宮碑が設置されていて、その規則性に従うなら次は二十一層という事になる。
既に二十層へと通じる階段は発見されており、最短を進むならそちらということになるが、初の隠し扉ということで、こちらも先が気になる所だ。
「よおし。やっぱり先にこの隠し扉の先を調べるぞぉ! そんな広くないかもしれないしなぁ」
「さんせーい!」
「そうですね。私もゲームだったら本筋より先に別筋の方からいくんで、賛成です」
こうして先に隠し扉の先を探索する事にした北条達は、三十分ほどかけて件の場所までたどり着いた。
「んじゃぁ、いくぞぉ」
そう声を掛けつつ、北条が回転扉を押し開いた先。
そこには、どこまでも続いているような高さの切り立った崖が存在していた。
「これ、は……」
そのあまりの絶壁っぷりに、一同も開いた口が塞がらない。
崖は隠し扉の数百メートル先にあるのだが、天辺がどこまで続いているのか分からないせいで、異様な圧迫感を見るものに与える。
一度北条が"光魔法"で指向性のビーム状にした明かり魔法を使ってみたが、崖の途中までしか確認することができなかった。
どうもこの崖は少なくとも数百メートル、もしかしたら一キロ以上の高さがあるのかもしれない。
更に崖の方から振り返って扉のあった壁の方を見てみると、そこには今まで下りてきたと思われる、鉱山エリアのガワらしき大きな山があった。
こちらも崖ほどではないが、かなり急な角度の斜面になっていて、とても登れそうにはない。
恐らくこの山の頂点近くが、六層から見えた山の天辺部分に当たるのだろう。
となると、今いる場所は六層から鉱山エリアに入るときに通った、底の見えなかった空間の底の部分ではないかと思われた。
「ううん、私達が降りてきた鉱山の周囲を、ぐるりと取り巻くように設けられた場所のようね」
陽子の言う通り、頂上を確認しようとすると首が痛くなるようなこの崖は、空間の中央に位置する山から一定距離を隔てて山を取り囲んでいるようだった。
山の直径がどれほどの長さなのかは不明だが、周辺を回るとなると結構な距離になりそうだ。
「あの隠し扉は、六層からショートカットして飛び降りてきた人用の出入り口なのかな?」
「力づくのショートカットね。でも、試す人はいるの……かも?」
咲良と陽子の言うような方法でのショートカットも不可能ではなさそうだが、この広い空間には蝙蝠系の魔物が多く潜んでいるようで、空中戦も対策しないと厳しそうだ。
「まぁ、何にせよせっかくの隠し扉の先なんだ。せっかくだから、ここも探索していこうじゃあないかぁ」
そう言うと北条は隠し扉のあった場所に、"光魔法"のライティングをくっつけてマーキングをする。
ついでに"土魔法"で分かりやすいように、目印となるオブジェを片手間に作った。
「……器用なことしますね」
半ば呆れた口調の咲良の目には、扉の傍に建てられた小さめの鳥居が立てられていた。
それから、この鉱山エリアの本山周囲をグルリと回る探索が始まった。
どうやらこの場所は基本的には魔物がポップしないようで、たまに上層の方に出現していた蝙蝠系の魔物が襲って来る程度だ。
かなり広く、そして真っ暗な空間なので、北条はいつもの三割増し位に明かりを用意して探索は続けられた。
どこまでも続く似たような光景に加え、ほとんど魔物にも襲われる事のない探索行は、一行から緊張感を徐々に奪っていく。
そんな弛緩した空気の中、最初の頃はベチャクチャと女性陣によるお喋りが続いていた。
そして、そのお喋りの話題も尽き、ずっと同じ場所を歩かされてるような錯覚を覚え始めた頃。
「……アレ? あそこになんか通路ありません?」
咲良の指さす方向を見ると、確かに外周部の切り立った崖の一画に、ポカンと口を開けた通路が存在しているのだった。
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