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第七章
第145話 新エリア発見
しおりを挟む「お、おお? 早速行ってみるっす!」
よほど退屈していたのか、由里香が水を得た魚のように通路へと向けて走りだす。
「あ、由里香ちゃ~ん!」
その後を慌てて追いかける芽衣。
北条達もその二人の様子を見て、駆け足気味に後を追う。
緩んだ緊張感からの事態進展という、もっとも事故が起こりそうな場面ゆえに、逆に集中して周囲を窺っていた北条と楓。
だが特にこれといった事件が起こる事もなく、無事に通路入り口までたどり着いた。
「ここからは楓を先頭に、罠などに注意して進むぞぉ」
北条の言葉を受け、無言のまま先頭へと躍り出る楓。
他はいつものフォーメーションを取って、通路へと足を進めた。
「あ……」
十分ほど歩いた頃だろうか。
不意に由里香が小さな声を上げる。
彼女の視線の先には、小さな明かりが映っていた。
ゆらゆらと揺らめくようなその赤い光は、坑道内に無数に設置されていた松明の光と同種のものだ。
「別の鉱山……?」
「いやぁ、どうも違うようだぞぉ」
思わず陽子が口にした疑問を否定する北条。
どういう事かと問いただそうとした陽子に、楓が会話に加わってくる。
「た、確かに……。あの、明かりの、周辺は……人口の石壁みたいに、なってるようです」
"視覚強化"のスキルを持つ楓が、目ざとく通路の先の様子を伝える。
「へぇ……。ということは、別のエリアに通じてるのかしら?」
「行ってみればわかるよっ!」
由里香の言う通り、ここでウダウダ言っても始まらない。
先行する楓に、罠の有無を判断してもらいながら先へ先へと進んだ一行は、やがて最初に見えた明かりの部分をも超えて、下へと続く階段にまでたどり着いていた。
すでに周囲は完全に人工的な地下迷宮といった様相に変わっており、この先のエリアは地下迷宮的なエリアだという事を示しているかのようだった。
「で、どうします?」
「どうするって、先に進むしかないんじゃない? 新エリアならすぐ傍に迷宮碑もあるでしょうし」
「そうっすね! 今日はまだ全然戦ってもいないし、次のエリアで早く戦ってみたいっす」
なんだかんだ言ってこの十九層に来るまでは、魔物も劇的に強くなっていった訳ではなく、結局のところEランクの魔物までしか出現する事がなかった。
彼ら自身は未だ気づいていないが、異様な速度で成長しているせいもあってこれまで大した苦戦もしていない。
ダンジョン内での苦戦といえば、最初の魔物罠部屋くらいだろう。
しかしダンジョンはそう甘いものではない。
ときには熟練の冒険者の命をも飲み込む事のあるダンジョンは、常に死の危険性が纏わりついていると言える。
ダンジョンを探索する冒険者は、遅かれ早かれそういったダンジョンによる洗礼を受けるものだ。
北条達は真っすぐ続く階段を降りて、下のフロアへと降り立った。
周囲はすっかり石を積み上げて作られた地下迷宮の様相を呈しており、所々に松明の明かりが照らされている。
これらの松明は、ダンジョンパワーによるものか常に点火した状態のままなのだが、固定した台座から取り外すとすぐに消えてしまうらしい。
松明自体は鉱山エリアで散々見てきたものだが、その照らす先が地下迷宮ともなると、冒険をしている感がより強まるようだ。
咲良などは、周囲を伺いながら若干落ち着きがない。
「よおし、見つけたぞぉ」
そんな少し浮かれ気分で先に進んだ一行は、二十階層に降りてすぐの部屋で迷宮碑を発見し、早速〈ソウルダイス〉をはめ込んで場所登録を行う。
フォォン、という小さな音の後、迷宮碑の一部が緑色に発光し、登録が完了したことを北条達に伝える。
「これでここにも転移できるようになったわね」
「ああ。でぇ、これからどうする?」
「あたしはもっと先まで行ってみたい!」
元気よく声を張り上げる由里香。
今までとは違う雰囲気のエリアに、好奇心が抑えられないようだ。
「んー、私もちょっとこの先どうなってるのか興味ありますね」
「わ、たしはどちら……でも」
「私もどっちでもいいと思ってるけど……反対意見はないようだし、ちょっと先に行ってみるのはどう? リーダー」
みんなの意見をまとめつつそう提案してくる陽子。
緊急時でもない限り、北条は行動方針などについてはこのようにみんなの意見を取り入れて行動をしている。
であれば、陽子のいうように今回は引き続き探索を続行することになる。
「……わかったぁ。ただ、未知の新エリアだから今まで以上に気を付けておけよぉ」
「もちろん!」
「はーーーい!」
「コクンッ……」
こうして地下迷宮エリアの二十層の探索が開始された。
▽△▽
ペタペタッ……コツコツッ……。
石畳の地下迷宮に、いくつもの足音が静かに響き渡る。
どこか硬質でヒンヤリとした迷宮の空気の中、聞こえてくる足音の内コツコツッとした音は、ブーツを着用している北条達の発したもの。
そしてペタペタッとした足音は、芽衣が【妖魔召喚】で呼び出したゴブリン達の足音だ。
現在芽衣の"召喚魔法"は一枠がマンジュウで埋まっているので、同時に召喚できる魔物は残り四体だ。
新エリアということで、万全を期して四体の枠をフルに使って芽衣が呼び出したのは、ゴブリンチーフ一体と、ホブゴブリンが二体。更に回復用にゴブリンプリーストを一体召喚している。
それらゴブリン集団を斥候兼盾役として最前列に配置し、そのちょっと後ろを楓がついていき罠などに備える。
最後尾は北条が抑え、北条と楓の間に他のメンバーが陣取る形でフォーメーションを取る。
「……魔物の気配がないわね」
「そういう階層なのかな?」
「いやぁ……、チラホラとそれっぽい気配は感じるぞぉ」
まだ探索を開始してから十分も経っていないが、北条達は今の所魔物に襲われることなくここまで進むことが出来ていた。
「あー、ちょっとトイレ行ってくるっす」
少しヒンヤリとした空気のせいか、尿意を催した由里香が来た道を引き返し始める。
「あ、ちょっと待って」
その後を陽子がついていく。
来た道を少し戻った先はT字路になっていて、今さっきその二つの分岐のうちの横道ではなくそのまま前方に移動し始めたところだった。
そのまだ未探索の横道の分岐の方に由里香は進む。
元々来た方向に戻ると、北条達の待機してる場所から直線状になってしまうので、視線が通ってしまうせいだろう。
もちろんこの横道はまだ未探索領域なので、奥まで行かずに道を曲がってちょっとの所で由里香は立ち止まり、用を足し始める。
そこに陽子が"結界魔法"の【遮音結界】で最中の音を遮断する。
この世界に来てレベルアップしたことによって、身体能力だけでなく五感まで強化されているので、その対策だ。
こんなことはこの世界の冒険者は気にしている者などほとんどおらず、女性であろうと二、三メートル先で盛大にジャーっとやってしまうのが一般的だ。
場所的に安全な場所を確保できた場合に、距離を離してすることがあるくらいだろう。
現代世界の中でも特に日本人の女性は最中の音の件を気にする人も多く、それに応じてトイレに音を鳴らす機能までつけられるほどだ。
しかし、今回に関してはこれらの行動が裏目に出てしまった。
【遮音結界】によって、内部の音が外部に漏れる事はなくなったのだが、その逆。外部の音が内部に伝わる事も出来なくなっていたのだ。
彼女達の近くで僅かに物音が響く。
それはほんの微かな音だったので、【遮音結界】がなくても陽子では気付けなかったかもしれない。
しかし、"聴覚強化"を持つ由里香ならば気づけた可能性はあった。
用を済ませて立ち上がった由里香を確認した陽子は、先にT字路へと戻り北条達のいたところまで歩き始める。
由里香もその後に続いて戻ろうとした――その時だった。
フォォオオンッ。
と風を切り裂くような音が響いたかと思ったら、急に由里香がその場に前のめりに倒れる。
受け身を取る事もなく、顔面を石畳にぶつけるように由里香が倒れこむのと、北条の声が辺りに響き渡ったのはほぼ同時だった。
「由里香ぁ! 敵襲だぁぁぁッ!」
緊迫した北条の声を皮切りに、待機していた者たちは慌てて由里香の元へと駆け付け始めた。
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