179 / 398
第七章
第156話 お宝鑑定 その2
しおりを挟む続いて北条パーティーのアイテム鑑定が始まったのだが、入手時に北条が"目利き"で判断した効果とそう外れておらず、時折追加効果などの細かい違いがある以外は、概ね間違ってはいなかった。
だが、中には北条でも匙を投げた効果不明のアイテムもあり、それがこの度明かされることとなった。
まず最初の方に手に入れた謎の種子なのだが、コーネストの話によると恐らくこれは〈魔林檎の種子〉だろうという話だった。
なんでも、育てるときに魔力を定期的に注いでやることで、甘く微かに魔力を帯びた林檎が収穫できるようになるそうだ。
人によってはそこそこの高値で買い取ってくれるらしい。
「えーと、それからこちらは……トレジャーマップですね」
それは鉱山エリア内で見つけた木の箱に入っていたもので、地図のようなものに一か所だけ目印が付けられていたものだ。
「これも魔法の道具の一種でして、この地図に描かれた場所でこの地図を使用しますと、宝箱が現れる仕組みになっています。ただし、中には宝箱ではなく、魔物が出現する場合もあります。その場合はその魔物を倒すことで、改めて宝箱が現れます」
「へぇ……。それって地図を手に入れたのと同じフロアにあるのかしら?」
陽子の質問にコーネストは首を振って答える。
「いえ、必ずしも同じフロアとは限りません。ですが、同じエリア内の範囲には収まっているので、マッピングをきちんとしていれば見つけやすいかと思います」
今の所鉱山エリアはまだ終点までたどり着いていないし、途中から探索のペースを上げたせいで後半階層のマッピング率は下がっている。
だがとりあえず、後でこれまで取って来た地図と睨めっ子して、該当箇所を探すのもよさそうだ。
それから更に時間が少し経過し、北条パーティーの方の鑑定も終了した。
結局両パーティーのアイテムを鑑定した結果、コーネストの反応が大きかったのは北条の持つ〈サラマンダル〉。それから使わないままになっていた、信也パーティーが湿地帯の番人を倒して入手した、〈旋風魔扇〉という名の戦闘用の扇だった。
他にも魔法の品ではないが、装飾品などの金銭的の価値のありそうなものも鑑定してもらっていて、これらは基本全て売り払う予定になっている。
あとはマジックアイテムをどのように扱うかだが、何かあった時に両パーティーで融通しあえるように、互いのパーティーの意見を取り入れつつ選考が行われた。
その結果余程ピーキーなもの以外は大抵は保持する事になった。
だが前述の〈旋風魔扇〉に関しては使い手もいないし、買取査定額も高かったことから売り払われることになった。
「では鑑定は以上という事で、買取した分の金額を取りに行って参ります。――あ、それと一応お尋ねしますが、鑑定証書はおつくりになりますか?」
「証書?」
部屋を去り際に思い出したかのように尋ねられた信也は、オウム返しに聞き返す。
「ええ。私の所属する『メッサーナ商会』がその鑑定結果を保証する為の証書です。鑑定内容の詳細と、鑑定の際に鑑定スキルを使用したか否かなどが明記されています」
「タダでもらえるんならいーんじゃね?」
「残念ながら、証書をおつくりになる場合は一品ずつに料金が別途かかります。これは当商会だけでなく、当商会が所属している商業ギルド全体に関わる事ですので……」
「それなら別に作らなくてもいいんじゃない? というか逆に作るメリットって何なの?」
話を聞く限り作る意味を感じられなかった咲良が、コーネストに尋ねる。
「そうですね……こちらは主にオークションなどに出展される際などに利用されることが一般的です。中でも高額な出品物に関しては、基本こうした鑑定証書が発行されたものばかりになります」
「あー、なるほどねえ。でも、それならなおさら今回はいらないですよね?」
「ああ、そうだな。よっぽどの掘り出し物を見つけた時は利用するかもしれんが」
「それでは、証書は作成しないということで一旦失礼致しますね」
そう言って、コーネストは買い取り時に支払うお金を取りに、受付の方まで戻っていった。
本来ならその場で渡すものなのだが、準備がまだ整っていなかったようだ。
それから間もなくして戻ってきたコーネストから、買い取ってもらった分のお金を受け取ると、一行は次の目的地《ジリマドーナ神殿》へと向かう事になった。
なお、今回のドロップと鑑定品の買い取り。それから、ダンジョンに潜り始めてから売却し続けていた魔石の代金。
それらを全て合算すると、平均で一人当たり四金貨以上もの金額になった。
これは、《ジャガー村》に立ち並ぶ村人の住居程度のものなら一括払いで建てられる程の金額だ。いや、それでもお釣りがくるレベルだろう。
ただし、元々高水準の生活をしていた異邦人達が納得するような建物となると、頭金くらいにしかならない。
それも全額を使っての事であり、今後の生活費や装備や雑費などを考えると、ある程度は残しておく必要がある。
それでも大きな収入であることには変わりなく、思いのほか早いうちに自分の家が建てられそうだという事で、気分は上々の信也達だった。
「あー、ちょっと君たち。これから《ジリマドーナ神殿》に行くのかね?」
最後、鑑定が終わりギルドを出る際にナイルズから声を掛けられた。
何の用かと思った信也達だったが、どうも伝えておく事があったらしい。
なんでも、ステータス鑑定用の魔法装置も今回一緒に運ばれてきたのだが、設置には時間がかかるので、使用するのなら数日は待ってほしいらしい。
ナイルズに了承の旨を伝えた信也達は、今度こそ本当に次の目的地へと向かうのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……コーネスト様、大丈夫ですか?」
信也達のアイテム鑑定が終わり、ギルドを後にしたあとの鑑定室。
そこには憔悴した様子のコーネストと、護衛のアレクルトがいた。
鑑定スキルというのは使用時に魔力を消費するため、確かに使いすぎると疲れてしまう事はあるのだが、あの程度の量の鑑定でこうまで憔悴することはない。
つまり、コーネストは別の事が原因でこのような有様になってしまったということだ。
「いや……まあ、大丈夫、さ」
とちっとも大丈夫じゃなさそうな様子のコーネスト。
「あの時、一体何があったので……?」
アレクルトが言っているのは、信也達との自己紹介の時のことだ。
明らかにあの時のコーネストの様子は尋常ではなかった。
「……実はあの時、"鑑定"を使おうとしていたんですがね……」
実はコーネストは"装備鑑定"、"魔法道具鑑定"、"薬鑑定"の三つの鑑定スキル以外にも、"鑑定"のスキルを所持している。
これは対象を選ばずにあらゆるものを鑑定することが出来るスキルで、非常に希少なスキルだ。
そのためとっておきの秘密兵器として、『メッサーナ商会』でもこの事を知るのは、護衛のアレクルトと上司であるシノンしかいない。
この"鑑定"スキルはそれこそなんでも鑑定が出来るため、人間や魔物相手にも使用することができる。
相手の名前、年齢などのパーソナルな情報から、レベル、スキル、職業などの、本来魔法道具などを使用しないと知りえない情報まで知る事が出来るのだ。
コーネストの護衛であるアレクルトは、元々農民の生まれで『転職の儀』の後も農民として暮らしていた。
その後紆余曲折あって、駆け出しの冒険者として活動していた頃に、同じく『メッサーナ商会』に入会して間もない頃のコーネストと出会うことになる。
その際にアレクルトを鑑定したコーネストは、"取得職業経験値上昇"というレアなスキルを所持している事に気づく。
職業経験値というのは、各職業に応じた行動をすることで得られる経験値であり、レベルアップに必要な経験値とは別のものだ。
この職業経験値にもレベルのようなものがあり、ある時急に段をひとつ上ったように技能が向上する事がある。
これはこの世界に生き、職業を得ているものなら誰しもが経験したことのあるものだ。
職業レベルについては詳しい事までは判明していないが、高度な鑑定の魔導具を使用することで、その者が今の職業をどの程度修めているのかを知ることは可能だ。
『転職の儀』を行う際には、転職先の職業と共にステータス情報まで所属する国に報告する義務があるが、その時のアレクルトにはこのスキルは生えていなかったし、なんなら冒険者登録時にもまだ覚えていなかった。
のちに、冒険者として活動し始めた事をきっかけに覚えたと思われる"取得職業経験値上昇"を、コーネストが偶然発見してシノンに報告した結果、商会のバックアップを多いに受けられる事になったアレクルト。
以降は転職可能になる度に職業を転々とし、『剣士』、『槍使い』、『斧使い』、弓使い』、『拳闘士」、『シーフ』、『盾士』、『戦士』、『ソルジャー』、『大剣使い』などの様々な職業に就いていった。
一般には職業は転々とするよりも、ひとつの職業を極めてから次の職業に転職するほうがいいとされている。
しかしレベルと同様に、職業レベルの方も上がるにつれて、レベルが上がりにくくなっている事が知られていた。
そのため、コーネストはアレクルトのレアスキルを活かすためにも、器用貧乏の道を勧めた。
その事が功を奏したのか、今ではアレクルトはBランク冒険者クラスの強さを持つようになっている。
これに味を占めたコーネストとシノンは、以降も積極的に人材発掘を行っていき、今では優秀な部下を多数抱えるまでになった。
今回貴重な"鑑定"持ちであるコーネストをギルドに派遣したのは、今後集まってくるであろう冒険者たちから人材発掘をする意味合いもあったのだ。
そう、あの時いつもと同じく気軽に"鑑定"を使った時も、支部長のナイルズから「期待の新人がいる」と聞かされていたからだった。
しかし、スキルが発動した直後。コーネストが見たのは鑑定結果などではなく、絶望そのものだった。
幼いころから行商人として、魔物のうろつく地域をも渡っていたコーネスト。
商人として海千山千の者とも舌戦をしてきた経験もあるし、力づくで利を得ようとする輩とも何度も正面から向き合ってきた。
その結果、"威圧耐性"や"恐怖耐性"を手にしていたコーネストは、以降心が乱されるような出来事に遭遇することなど一切なかった。
――それが、あの瞬間。
まるで心の中が全て闇で包まれたかのような錯覚に陥り、直後視界まで闇に閉ざされた。
視覚、嗅覚、聴覚……。五感が全て麻痺したかのように働かなくなり、足元の感覚もなくなったコーネストは、闇の中をひたすら落ち続けているように感じていた。
それもただの闇ではない。
精神そのものを食らわんとするかのように、次々と襲い掛かる闇によって、コーネストの心は散り散りになっていく。
やがて、自意識すら薄れ、希薄となっていく自信の心をぼんやりと感じながら、このまま消え失せてしまうのかと他人事のように感じていたコーネスト。
そこへ、どこからか聞こえてきた男の声によって、急激に意識が再び目覚め始めたのだ。
「あれ……は……」
あの時の事を思い返したせいで、全身鳥肌が立ち始めたコーネストがポツリと呟く。
意識が目覚めた直後は、前後不覚で事態の把握すらできなかったコーネスト。
そうしてボーッとしていた時に、ふと聞こえてきたカウンター前での会話。
「アレは、警告……って事ですかねえ」
先ほどから要領を得ない事ばかり口にするので、戸惑った様子のアレクルト。
そんなアレクルトに対し、コーネストは身内だけに伝わるような心の底からの言葉を吐き出す。
「いいですか? あのダンジョンを発見したという二組のパーティー。彼らとは絶対に敵対してはいけません」
未だ設備が整っていない鑑定室だが、一つだけ機能している魔法道具があった。
それは室内と外部の音を遮断する魔法道具である。
こうして二人の会話は他の誰に聞かれることなく、彼らの心の内にだけ残されることになるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
才能は流星魔法
神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。
そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。
流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。
ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。
井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。
山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。
井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。
二日に一度、18時に更新します。
カクヨムにも同時投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる