どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第十章

第244話 レイドエリア、探索開始

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 地の底まで続いているような、幅の広い石階段。
 下の方からは微かに風が流れており、それはこの広い階段をどこまでも駆け上っていく。
 何故勢いも強くない風が、途切れること無く上部へと流れ続けていけるのかは謎だ。
 その風が運ぶ香りに、これまでにない緑の匂いが僅かに漂い始める。


「クンクンッ……。おぉ? そろそろ出口も近いんじゃね?」

「なに? なんか良い匂いでもしたの?」

「いい匂いっつーか、なんか草の匂い?」

 犬のように鼻をヒクヒクとさせた龍之介が言うと、咲良も鼻を利かせてみる。

「そーお? 特になんも感じないんだけど」

「いーや、絶対そうだって。な、オッサン!」

「確かにそろそろ下に着きそうだぞぉ」

「うーーん、やっとかあ」


 信也達がレイドエリアに突入してから六日目の朝の事。
 朝食を終えた彼らは、昨夜キャンプした場所の近くにあった階段を、ひたすら下へと下りていた。
 レイドエリアではこれまで他の冒険者の姿を見かけることもなく、ひたすら魔物を倒しては先へ進み、また集まってきたのを倒しては先へと進み……を繰り返す。

 レイドシステムによって、一人一人の経験値の割り振り具合が少なくなっているとはいえ、大量に出てくる魔物を倒すことで、異邦人たちの経験値はどんどん蓄積されていく。
 流石に元のレベルが高く、『異界の来訪者』の称号を持たないロベルトらのレベルが上がることはなかったが、他は全員がレベルアップを果たしていた。

 そうして着実と成長を続けながら先を進んでいた信也達は、一時間以上は下り続けている十七層からの下り階段の出口へとたどり着く。


「うわあぁ……」


 長い下り階段の先に待ち受けていた風景を見て、思わず慶介が感嘆の声を上げる。
 そこには外の風景と何ら変わりない、大自然が広がっていた。
 降りてすぐのあたりは草原となっていて、遠くには森や川などが静かに佇んでいる。
 どこからか聞こえてくる鳥の囀り。抜けるような青空。草原を走る爽やかな涼風。

 ロベルト兄妹はどうなのか不明だが、他にもフィールドエリアを経験した事のある異邦人たちであっても、何度味わってもこの得も言われぬ情動は色褪せることなく彼らの心に感動をもたらす。

「やっぱり、フィールドエリアに通じる階段ってのはどこも長いんだなぁ」

「そうね。実際ここの天井の高さがどれ位あるか分からないけど、大分下まで下りてきてたしね」

 双子を除く『プラネットアース』の面々としては、ここが二番目に訪れたフィールドエリアになるが、『サムライトラベラーズ』はここで三番目となる。
 鉱山エリアの先に、どこまでも森が続くフィールドエリアがあるのだ。

 そこでも下の階層に下りるには長い下り階段を下りる必要があった。
 ただ下りる途中で弧を描いている構造になっていて、どうも重なるようにして連なっている真下の階層に下りているのではなく、上の階層とはズレるようにして空間が設けられているようだった。

「あ、あそこに迷宮碑ガルストーンがあります」

「じゃあ早速〈ソウルダイス〉で位置情報を登録しよう」

 同じレイドエリアであっても、階層の特性が変わる節目の階層であるためか、入り口付近には迷宮碑ガルストーンが設置されていた。
 そこで早速信也と北条は、それぞれのパーティー登録した〈ソウルダイス〉を迷宮碑ガルストーンに順番に嵌め込んでいく。

「エリアの特性が変わったって事は、出てくる魔物も大分変化してそうね」

「そッスねえ。こっから先の情報はほとんど無いんで、最初は慎重に行ったほうがいいッス」

 事前に調べた情報では、ここから内装が変わるという事と迷宮碑ガルストーンが配置されているという事。それから、二十一層までは少なくともこのフィールドエリアは続いているという事しか判明していない。

 二十一層というのは、今のところ申告された中では最深の階層だ。
 なんでもCランクとDランクのパーティーが二つずつ、Eランクのパーティーが一つの、フルレイドパーティーで挑んだらしい。
 Eランクパーティーは戦力というより、もっぱら荷物持ちとして加わったようだ。
 Cランクパーティーが二組いたとは言え、それでも二十一層までいけたのだから、そこまでやばい敵が出てる事はないのだろう。

 結局この日は迷宮碑ガルストーンを中心に周囲を探索し、この階層の魔物についても傾向が見えてきた。
 まず、ひとつ前の未灯火洞窟タイプの時からの続投で、ゴブリンがこちらでも顔を覗かせていた。
 もっとも、ひとつ前のエリアではケイブゴブリン種だったが、こちらではただのゴブリン種へと変わっている。

 他にはファイアウルフ、ウォーターウルフなどの属性系のウルフ種も出てきた。
 狼らしく集団戦は得意なようだったが、北条や咲良の範囲魔法がウルフ達の集団戦術を蹴散らした。
 なお、確認されたウルフは火、水、風、土の四大属性だけであり、マンジュウの種族であるサンダーウルフを見かける事はなかった。

 そして最後にアーミーアントという、巨大なアリの魔物の群れとも交戦をしている。
 こちらはレイドエリアに限らず、フィールドで出現した場合でも大きな群れで襲ってくる魔物として恐れられていた。
 しかし、元々魔物が大挙して押し寄せるレイドエリアではそれが普通であり、特にこれといって気を付ける点はない。

 これら出現した魔物に関しては、北条が"解析"スキルを用いてメンバーにどんなスキルを所持しているのか。そしてそのスキルはどんな効果を持っているのかまで、詳しく説明をしている。

 通常であれば、一般の冒険者が魔物の能力を鑑定することは難しい。
 "鑑定"はスキル所有者も少ないし、魔法装置ではなく、持ち歩ける魔法道具サイズで鑑定出来るアイテムは、ダンジョン産のものしかない。
 北条の"解析"は、未知のエリアを探索するにあたって今後重要な役割となってくるだろう。




「おおーい。撤収するぞー」

 日が暮れ始め、周辺の探索を終えた信也達は、迷宮碑ガルストーンの傍まで戻ってきていた。
 どうやらこのフィールドエリアは外の時間と連動しているようで、朝~夜とちゃんと太陽と月が入れ替わるようになっているらしい。

 信也が声を掛けると、駄弁っていた由里香たちも話をやめて迷宮碑ガルストーンへと足を運び始める。

「そーいや、レイド組んでるんならわざわざ〈ソウルダイス〉でバラバラに転移しなくてもいーんじゃね?」

 信也と北条が〈ソウルダイス〉を取り出し、いざ転移しようとした所でふと思いついたように龍之介が言った。

「む……、確かにそうだな。〈ソウルボード〉に〈ソウルダイス〉を二つ嵌めたまま転移すれば、ばらける事もないか」

 レイドエリアを探索している事を、外部に知られたくないならバラバラに転移する方がいい。そうでないのなら、一緒に転移した方が同じ迷宮碑ガルストーンに転移されるから余計な手間も省ける。

 北条も「そうだなぁ」と言いつつ、信也へと〈ソウルダイス〉を渡す。
 そして全員が範囲内に収まったのを確認してから、転移を実行する。
 レイド単位での転移は初めて実行したが、問題なく転移は成功した。

 転移部屋にあるレイド対応の迷宮碑ガルストーンは、部屋の最奥にひとつだけだ。
 そこに信也達十二人とマンジュウが転移によって姿を現した。
 この最奥にある迷宮碑ガルストーンは、通常の転移も行う事は出来る。
 しかし、他の階層からこの転移部屋に転移する際には、他の十一個ある迷宮碑ガルストーンへと優先して転移される。

 なので、同時に十二組のパーティーが転移でも使用しない限り、この最奥の迷宮碑ガルストーンに冒険者が転移してくる事はない。
 ――レイドパーティーが転移してくる事を除けば。


 こういった特性から、最奥の迷宮碑ガルストーンへの転移は注目を浴びやすかった。
 最初期の頃とは違い、今や転移部屋にも冒険者や、少数ながら商人も屯している。

 ただそれはあくまで一部であり、ダンジョンに向かう冒険者たちの多くは、入り口前に整備されつつある広場で仲間を募集したり、待ち合わせに利用したりしている。
 こちらでは目端の利く商人が、冒険に必要なアイテムを割高で販売していたり、串焼きやらの屋台を営んでいる者がいたりと、それなりに賑わっていた。

 信也達は転移部屋にいる冒険者たちから注目を浴びつつ、ダンジョンの出口へと向かう。
 転移部屋から出口まではすぐ先だ。
 然したる時間もかからずにダンジョンから脱出し、帰路に就くことになった。



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