どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第十章

第245話 ドロップ利権

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「……もういいだろう。いい加減離れぃ」

 鬱陶し気に北条が命令を出す。
 すると、残念そうに北条の体に纏わりついていたアーシアがニュルニュルと離れていく。


 ここはダンジョンを出て、村へと向かう途中にある森の小道。
 周囲に自分たち以外の人の気配がないのを確認した北条が、アーシアを解き放っていた。

「ほんとアーシアちゃん、北条さんの事が大好きなのね」

 僅かに眉間に皺を寄せた咲良が言った。

 実はアーシアは行きの時も、北条にベッタリとくっついた状態でダンジョンへと入っていた。
 ダンジョン内では、"召喚魔法"で普通の魔物を呼び出すことはできるが、契約した魔物を【サモン】で呼び出すことが出来ない。
 だからといって、何故このようにしたかというと、それは北条の能力を隠蔽するためだった。

 ナイルズ辺りが認識している北条は、前衛であり魔法も使うといった程度だ。
 そこに更に魔物と契約を結んでいる、それも通常は契約不可能とされるスライムが相手となると、下手な注目を集めてしまう。
 まあ最悪、芽衣が召喚して使役していた事にすればある程度誤魔化しは効くが、見る人が見ればその魔物が誰と契約してるのかは分かってしまう。

 その為、アーシアには出来る限り小さくなってもらい、さらに北条の魔法やらスキルやらで徹底的に姿や気配を隠蔽させる。
 そうして空気と化したアーシアを身に纏わせ、北条は行き来をしたという訳だ。

「お前はもう森に戻っていいぞぉ。引き続き森の魔物を倒して、レベルアップを続けてくれぃ」

「ぷるぷるぷる……」

 北条のつれない言葉にアーシアが全身を震わせる。
 不思議なもので、ただのゼリーみたいなやつが動いているだけなのに、その動きからは悲しさという感情が伝わってくるようだ。

「…………」

 北条が無言でアーシアに手を向けると、数個の光る球体が生まれ、一斉にアーシアへと向かって飛んでいく。
 その光の球体を、アーシアは避けるどころか寧ろ自分から当たりに行くように素早く動く。
 全弾見事キャッチしたアーシアだったが、どうも満足していないようにも見える。


「うあぁぁ……」


 この光景を見て陽子はドン引きして思わず声を漏らす。
 他のみんなも似たような反応だ。
 最初こそ容赦のない北条に向けられていたその手の視線も、今では喜んで自分から攻撃を受けにいくアーシアに対しても注がれるようになっていた。

「ほらぁ、さっさと行けぃ」

 北条が再度促すと、アーシアは丸っこい体を時折人間がやるような振り返る仕草を見せながら、森へと向かっていった。

「……さっきのは【光弾】の魔法なのか?」

「いやぁ、あれは"光魔法"じゃあない。"神聖魔法"の【聖弾】だぁ」

「見た目は似てるが違うのか」

「ああ。"闇魔法"の【闇弾】と"暗黒魔法"の【暗黒弾】が似ているのと同じ感じだなぁ」

 かつて石田は、自身のスキルを"暗黒魔法"ではなく"闇魔法"だと偽っていた。
 その時は【闇弾】と言いつつも、実はこっそり【暗黒弾】と唱えていたのだ。
 石田が戦闘の際に【闇弾】しか使っていなかったのも、他の"闇魔法"を使えなかったからだった。

 石田が何を思ってそのようにしたかは謎だが、実はこれは世間一般でも度々行われている事でもあった。
 悪魔が使う魔法として有名な"暗黒魔法"は、"死霊魔法"程ではないがイメージが悪い。
 そこで、自分は"闇魔法"の使い手という事にして誤魔化す事があるのだ。

「でも確か、"神聖魔法"の攻撃魔法ってあんま威力ないんですよね?」

 自分も扱える魔法だけあって、気になる様子の咲良。

「そうだぁ。アンデッドや悪魔などの一部種族以外の相手には、ほとんどダメージが通らん」

「ああ、だから……」

 納得した様子の陽子。
 アーシアが魔法を全弾食らったのに満足してない理由が、陽子にも理解できたようだ。

「アーシアは俺がしこたま魔法をブッパしたんで、色々耐性がついてしまってなぁ。"神聖耐性"はまだついてないから、今後はあれをメインにするか」

 陽子や他のみんなが、ゲテモノ料理を食べる人を見るような表情を浮かべる中、芽衣だけはひとり考え事をしていた。


▽△▽


 それからも雑談を交えつつ村へと向かう一行。

 いつも以上に魔物と多数戦ったせいか、初めてのレイドエリア探索だったからか。
 話題がいつも以上に多いようで、終始誰かしらの声が聞こえていた。

(あの二人も大分馴染んだようだな)

 信也の視線の先には、ロベルトとカタリナの兄妹が映っている。
 ロベルトは何やら今回のドロップについて、北条らと話をしているようだった。

「じゃあ、ホージョーさんは十八層の魔物の情報をギルドに報告して、ドロップも全部売っぱらうんッスか?」

「そのつもりだぁ。まあギルドに報告して貰える情報料は、小銭程度だろうがぁ、貰えるもんは貰った方がいいだろぅ」

「んー、まあそッスね」

「何か気になるのかぁ?」

「いえ、二十一層まで行った人たちは、魔物の情報もドロップの売却もしてないんッスよね? そうなると恨みに思う奴もいるかもしれないッス」

「……そんなのぁー、早いもん勝ちじゃあないのかぁ?」

「基本はそれでいいと思うッス。ただ今回十八層から出てきた属性ウルフ達のドロップは結構需要があるッス」

「需要ぅ? ……そう言えば、ファイアウルフの毛皮を加工すれば火属性の耐性がつくんだったなぁ」

「そッス。だから、先達パーティーもドロップや魔物情報を隠したんだと思うッス」

「情報を公開してレイドエリアに人が増えないように……か」

 何とは無しに話を聞いていた信也も話に加わって来る。
 そこにしか出ない魔物ドロップを独占出来れば、しばらくは美味しい思いが出来る。
 いずれは供給が追い越して値段は下がるだろうし、放っていてもそのうち他の冒険者がレイドエリアにやってくる事になるが、それまでは稼ぎ時だ。

 このレイドエリアでは、最初の未灯火洞窟タイプの方でもダークウルフが出てくる。
 こいつの毛皮も闇耐性がつくので注目を浴びているし、いまんとこ唯一のレイドエリアであるという点だけでも話題の的でもあった。
 二十一層までたどり着いたパーティーも、また近いうちに属性ウルフの素材を集めに来る可能性は高そうだ。


「ううむ。俺らの目的は金稼ぎよりも先へ進む事だがぁ……今回は十八層のドロップ売却はよしておくかぁ」

「それは構わないが、いつまでそうするつもりなんだ?」

「まあ、そんなに拘ることもないだろう。次の探索の後は普通に売却しちゃってもいいと思うぞぉ」

「そうか。まあ、そんなところか」

「ああ、それとぉ、今回手に入れた魔石の一部だがぁ、拠点の設備用にある程度の量確保させてもらうぞぉ」

「設備?」

「下水道にはあちこち【フィルター】やら【水操作】などの魔法を刻んでいるがぁ、それらの作成や維持などに、魔石が結構必要になってきている」

「うあぁ、なんか凄いッスね。そんな本格的なの、王都でも一部しかやってないと思うッス」

 他にも今後拠点を改築していくに当たって、色々と生活に役立つようなちょっとした魔法道具を作っていくつもりの北条。
 それにはエネルギー源として魔石が必要となってくる。

「そういう事なら構わないんじゃないか? 生活が便利になるなら俺としても望む所であるし」

 信也がそう言うと、具体的にどれくらいの魔石を残して、どれくらいを売り払うのかについての話に移る。
 そうした話をしている内に、信也達は拠点へと帰還を果たした。



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