どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第十章

第246話 伝言

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 拠点へと帰還を果たし、一息つく間もなく北条と信也はギルドへと向かっていた。ドロップの売却と、常設依頼の報告のためだ。
 この新村地区が稼働し始めて以来、ダンジョンの魔物から手に入る品の収集依頼が常に掲示されるようになっている。

 特に需要の高いものは、常設依頼として常に掲示されていた。
 この村や《鉱山都市グリーク》だけでなく、その近辺や少し離れた場所などにもそれらの物品が出回っていくことになるので、そうそう需要が下がる事もない。


「買い取りと常設依頼の査定を頼む」

 時間的には日も大分暮れている頃で、冒険者ギルドが一番賑わいを見せ始める時間帯だ。これから二時間くらいは多くの冒険者がこの建物に訪れる。
 信也達が並んだ時はまだその初期段階であったので、それほど待たずに済んだのは幸いだった。

「分かりました。……それでお品の方はどちらに?」

「ああ、量があるんでここでは全部出せない。大口買取りの専用の場所があると聞いたのだが」

「はい、それでしたら隣の建物へとそのままお持ちください。荷車ごと入れるように、大きな扉があるのですぐ分かるかと思います。次からは直接そちらへお持ち頂いて結構です」

「そうか。ではそちらに向かわせてもらおう」

 ダンジョンから冒険者が持ち帰る事の出来る荷物の量は、通常あまり多くはない。
 予備の装備や必要な道具。そして何より水や食料も余裕を持って確保しておきたいので、帰り際でも余分に持てる荷物は少ないのだ。

 中にはポーターを雇って荷物を持たせる事もあるが、その分料金は嵩むし、そもそもポーターというのもそんなに数が多くない。
 人数に余裕のあるパーティーにポーターを加えるのなら問題ないが、大抵はフルパーティーに一人別枠としてついていく事になる。

 ポーターなので戦闘はしなくてもいいが、積極的に守ってもらえる訳でもない。
 それに魔法やスキルには、パーティー専用のものが幾つかある。
 パーティーメンバーに治癒魔法が届いても、ポーターには届かない事もあるのだ。

 更にポーター自身が行先の迷宮碑ガルストーンに登録していないと、まずついていく事すら出来ない。
 こういった背景があり、専用のポーターというのは少ない。

 余裕のある冒険者パーティーは、あらかじめポーター専用の人員を用意して育成させたりもしている。
 特に大人数で結成された冒険者の集まり『クラン』ではよく行われている事だ。
 それだけ"アイテムボックス"や、魔法の収納アイテムの所持者が少ないという事でもある。


「よう兄ちゃん。なんの用だい?」

 信也達が隣の建物の大きな扉をくぐり、中へと入ると、そこは大きな倉庫のような場所だった。
 其処彼処に木箱などが置かれており、奥には先ほど入ってきたのと同様の大きな両開きの扉も見える。あちらからも出入りできるようだ。

 声を掛けてきたのは入り口から少し入った所にある、部屋状に区切られた場所にあるカウンターの奥にいた人物だった。
 その男は逞しい肉体と、体毛がもじゃもじゃと生えた、獣寄りのネコ科の獣人だと思われた。
 隣の建物のギルド受付嬢とは違い、現場の作業員のようなノリだ。

「買取を頼む。それと常設依頼に入っている闇狼の毛皮の査定もだ」

「あいよ! 荷物は外か? 重いようなら人手を貸すが」

「そいつぁ必要ない。これに収めてあるんでなぁ」

 そう言って北条が腰にぶら下げていた〈魔法の小袋〉を外す。
 この建物内は、隣の本館とは違って倉庫となっているので、冒険者はほとんどいない。
 とはいえ、以前は人前で見せるのを避けていた〈魔法の小袋〉を公に見せたのは、大分レベルが上がってきたからだ。

 北条はもとより、他のメンバーも急激にレベルが上がって強くなってきている。
 それに万が一〈魔法の小袋〉を狙って襲ってくるような輩がいれば、徹底的に相手をねじ伏せて見せしめにしてやろうと、北条は考えていた。
 そもそも、大きな荷物を運ぶのにいちいち荷車を用意するのが面倒だ。というのも大きな理由だった。

「おおう。マジックバッグか? なら、ブツはこっちに出してくれ」

 そういって男が指示したのは、カウンターの一段低くなっている所だ。
 そこはかなりたくさんのものが置けるような広さが取られていて、縁の部分に物が落ちないように囲いがされている。

 これなら大丈夫そうだ。と判断した北条は、〈魔法の小袋〉の口を開き、そこから出しているかのように見せかけつつ、"アイテムボックス"の方から魔石をじゃらじゃらと放出し始めた。
 魔石だけならともかく、闇狼の毛皮なども含めるととても〈魔法の小袋〉だけでは容量が足りなかったのだ。
 なお、あらかじめ売却や常設依頼に出すアイテムだけを仕分けしてある。

「おおう、おう! こいつは結構狩ってきたもんだな!」

 そう言って男は目を瞠る。
 とはいえ、マジックバッグを持っているような冒険者であれば、これくらい持ち込んでも何らおかしくはない。

「とりあえず魔石はこんなもんだぁ。あとはドロップ品になる」

 ざらーっと数百個もの魔石を放出した北条。
 この数でも獣人の男は驚いた様子を見せているが、実はこれでも千個ほど拠点設備用に抜いてあった。
 そうとは知らない男は、幾人かの名前を叫ぶ。すると近くで働いていたらしい作業員が集まってきた。

「おめえら、そこにある魔石の判別作業頼むぞ。それで、他にドロップ品もあるって話だが」

 途中から北条へと話の矛先を変え、男が尋ねてくる。

「そうだなぁ。まずはゴブリン系のドロップからいくぞぉ」

 そう言って北条が次々とアイテムを出していく。
 中にはレアドロップであるゴブリン装備シリーズも含まれていた。
 これらは魔石のように無造作に出すのではなく、ひとつひとつ手で取りだされていく。
 しかしその手の動きがなかなか止まらないので、獣人の男も「おいおい……」とつい声が漏れる。

「っと、こんなもんだぁ。お次は……」

「ちょ、ちょっと待て。先にこいつを少し片づけてからだ」

 男が少し慌てたように言う。
 「これなら最初から専用カウンターにするべきだったぜ」などと言いながら、更に人を呼んで今しがた出したドロップの査定を指示する。
 指示を受けた作業員によって、ゴブリン系のドロップが次々と持ち運ばれていった。

「よおし、これでスペースが空いたな。ちなみに後どれくらいあるんだ?」

「多分あと半分くらいじゃないかぁ? じゃあいくぞぉ」

 北条が残りのドロップ品を出していくと、男に納得の表情が浮かぶ。

「そうか。アンタら、レイドエリアに行ってきたんだな。道理で数が多い訳だ」

 ドロップ品の内容を見て、どの階層に行ったのかをすぐに悟った様子の男。
 「流石はギルドの職員だ」と言いたい所だが、今のところ闇狼の毛皮をドロップするダークウルフは、レイドエリア以外で確認されていない。
 このドロップだけでも場所を特定することは出来るだろう。

「ふう、こいつはちょいと査定に時間がかかりそうだ」

「どれくらいかかる?」

「そうだな。今は他に大きな仕事もないから、一時間ほどあれば終わると思うぜ」

 男の言葉を聞いて、信也は無言で北条へと振り返る。
 
「俺ぁ、本館の方で軽食でもとりながら待つのでもいいぞぉ」

「では俺も一緒に待つとしよう」

「おう、そうか。そいじゃあ、こいつを渡しとくぜ。受け取りの際はそいつを提示しな」

 そういって木で出来た交換札を手渡される。
 北条はそれを〈魔法の小袋〉へと仕舞うと、「じゃあ後でまた来る」と言って、さっさと本館の方へと歩き始める。
 信也もそのあとを追い、二人で本館にある軽食スペースで軽く注文を取る。
 これから寮に帰って夕食もあるので、二人とも軽くつまめるものを頼んだ。


「…………」

 注文していたメニューが運ばれてくると、二人して黙々と料理を食べる。
 信也は何か言いたいことがあるかのように、時折口を開きかけるがその先が続かない。
 一方北条の関心はギルド内にいる冒険者たちへと向けられており、珍しい・・・スキルを持っているものがいないか、隅々までチェックを行っていた。

 そんな折、北条が信也の方へと向き直る。
 信也はこれがチャンスだと口を開こうとするのだが、この時北条が見ていたのは信也ではなく、その奥にいた冒険者の女だった。

「あ、その……」

 そうとは知らず、信也が北条へと話し始めようとした矢先。


「あの、ホージョーさん……ですよね?」


 信也の機先を制するように、一人の女性が話しかけてきた。
 制服を着ていることから、冒険者ギルドの職員である事が窺える。

「そうだがぁ、何か用かぁ?」

「は、はい。あの、アウラ様より伝言を賜っております。『父の予定が決まったので、ダンジョンより戻ったら連絡してくれ』との事です」

「む……。分かった、伝言は確かに受け取ったぁ」

 北条がそう言うと、職員の女性はそそくさと立ち去っていく。

「こいつぁ、次の探索は少し先に伸びるかもしれん……」

 北条としては不本意であるが、これも仕方がない。
 結局信也は話しかけるタイミングを失い、その後となりの建物に金を受け取りに行くまでの間、二人無言で過ごす事になるのだった。



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