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第十章
第247話 補強工事
しおりを挟む真夏の暑い日差しの中。
作業に明け暮れる男と、それを観察する女の姿があった。
男は先ほどから、"土魔法"を用いて延々と壁を強化している。
女はそれを飽きる様子もなく見続けていた。
そして、女も見様見真似で男の魔法を使ってみる。
最初は上手く発動していなかったが、昨日からの繰り返しの練習で大分様にはなってきていた。
「……アウラぁ。お前さん、昨日から俺の所に張り付いているがぁ、仕事は大丈夫なのかぁ?」
二人の男女は、壁の補強工事をしている北条と、それを見つめるアウラだった。
近くには従者であるカレンとマデリーネの姿もある。
流石にこの暑さのせいか、護衛でもあるマデリーネだが金属鎧を身に着けてはいない。
どころか、革鎧すらも身に着けておらず大分軽装だった。
「問題ない……と言い切れる程ではないが、心配いらん。それよりも、お前の魔法を身に着ける事の方が、今後の事を考えるとより重要だ」
「ふむ。さっきの【アースダンス】は、ほとんど問題ない位にはなっていたぞぉ」
「そ、そうか!? これで私一人でも壁の強化が行えるようになったか」
「えっこいせ! 【アースダンス】。ふぅ、これで俺の仕事の方も完了っだぁ」
「なっ……」
新たな魔法を身に着けた感慨を味わってるアウラに、依頼された分の仕事が完了した事を告げる北条。
それを聞いて絶句してしまうアウラ。
自分でも【アースダンス】を使えるようになったからこそ分かる事がある。
それは、一面の壁を強化するのに、どれだけの魔力を消費するのかという事だ。
《鉱山都市グリーク》にある"実家"に比べれば、今後アウラの住まいとなるこの建物の大きさは月とスッポンだ。
しかしそんな邸宅でも、【アースダンス】でアウラがこの家の外壁を全面強化しようと思ったら、恐らくはひと月以上かかると思われた。
それも毎日魔力を限界まで駆使して、だ。
だというのに、北条は昨日から今日にかけての二日間で、壁を全面強化し終えてしまった。
以前、複数の属性を使えるので魔力が多いという話を聞いてはいたが、どうやら話に聞いていた以上に膨大な魔力を持っているようだ。
北条としては、魔力の多さを隠すためにチマチマと時間を掛けたくはない。
ちゃっちゃと終わらせて、早く拠点の工事やら自分の訓練をしたいと思っていた。
「と、いう訳で、報酬を頂いたら帰らせてもらうぞぉ」
「……少々お待ちください。用意をして参ります」
アウラが北条の魔力量について考えている間に、傍らにいたカレンが言う。
マデリーネの方は特に何か口にする事はなかったが、北条が帰ると告げて眉を少しピクンとさせる。
少しすると、カレンが皮袋を手に戻ってくる。
北条がそれを受け取って中をちらと確認すると、中にはパノティア金貨が入っていた。
「確かに受けとったぁ」
「枚数を数えなくていいのですか?」
「他の人間ならともかく、アウラなら心配はないだろう」
そう言って北条は、無造作に腰のベルトに金貨入りの袋を吊るす。
「信用してくれるというのは何よりだ。五日後もまたよろしく頼む」
「ああ。そちらこそ例の約束をよろしく頼むぞぉ」
「無論だ。改めて父には確と伝えておこう」
「ではまたなぁ」
そういって北条は新村地区の北にある、建築中の町長の邸宅を後にする。
北条がアウラと交わした約束というのは、北条がこの壁の補強工事を請ける際に条件として出したものだ。
それはグリーク辺境伯家に後ろ盾になってもらいたい、というものだった。
今後冒険者として活動していけば、色々とトラブルに見舞われる事もあるだろう。
特に厄介なものひとつに、貴族とのもめ事というのがある。
これは普通の冒険者ならそこまで気にすることではない事だ。
なぜなら、わざわざ自分から接近しない限り、貴族が一冒険者相手に何かしてくる事などはないからだ。
しかし北条は自身の能力の事なども鑑みて、先に貴族問題に対して手を打っておきたかった。
それには、民からの評判も頗る良いグリーク辺境伯家はもってこいと言えた。
しかも折よく悪魔討伐という大きな手柄も上げているし、その前にはアウラの救出にも一役買っているのだ。
北条は今はまだDランクの冒険者でしかないが、庇護を求めるに当たり、状況は整っていると言えた。
「さあて、仕事はちゃちゃっと終わらせたし、拠点作りの続きといこうか」
能力を隠すことなく使うようになってから、より拠点作りの意欲が高まっている北条。
下水道の工事はほぼ終わっているが、まだ上水道の方には着手していない。
と言っても、飲み水などに関しては何か所か予備用の井戸を掘りはするが、基本は魔法道具を使う予定だ。
スイッチを押せば水が出てくるような、そんな魔法道具を今後作られていく建物に設置していけば、あとは下水道まで配管してしまえばそれでいい。
魔法道具の中でもこうした飲み水を生み出すものや、調理用のコンロなどの四大属性を使ったものは、迷宮産に頼る必要がなく作り出せているので、貴族などの家ではそこそこ普及している。
なお運用するには定期的に魔石が必要になるので、一般民が利用する事はほとんどない。
そういった理由で上水に関しては基本問題はないのだが、北条は趣味で拠点内に小さな小川を作る計画を建てている。
拠点内に設置した魔法装置から常に一定量の水が流れ続け、小川を通じてそれはやがて下水道へと落ちていく。
その後は、現在は空堀となっている堀に排水させて空堀を水堀へと変える。
完成予想図を想像するだけで、北条は頬の筋肉が緩むのを感じた。
「あ、北条さーーん。お帰りっすぅぅぅーー!」
「おおう、ただいまぁー」
北条が西門から拠点内に入ると、左手側にある訓練場にいた由里香が大きな声で挨拶をしてくる。
彼女は今拠点内に残されていたアーシアが、"分裂"によって生み出し、"眷属服従"で従わせていたスライムの一体と、模擬戦をしている所だった。
北条は、先日アウラよりグリーク辺境伯が来訪する日程を聞かされていた。
それは、もう一度ダンジョンに潜って戻って来るには微妙な間だ。
そこで北条たち『サムライトラベラーズ』は拠点に留まる事とし、信也達『プラネットアース』だけがダンジョンに向かっていった。
彼らが今回目指すのは、鉱山エリアの奥だ。
今は前までのパーティーを元に、仮のパーティーを編成して組んでいるが、今後レイドエリアで実力がついてきたら、その時にもう一度各自の役割を踏まえてパーティー編成を練り直す予定だ。
それには、両パーティーの間で登録した迷宮碑をなるべく揃えておいた方が都合がいい。
そのために、今回は経験値稼ぎや地図の空白埋めはせずに、北条たちの作った地図を見て、ひたすら鉱山エリアを下へ下へと先を目指す。
鉱山エリアはこれまで『サムライトラベラーズ』が発見した分岐が、三つ確認されている。
ギルド側では未だに十九階層の隠し扉の先――由里香がトラウマになった、猿の魔物がいるエリア――についての情報はないようなので、一歩先んじている。
これは未だに五層の北東にある〈金の鍵〉を使った扉の先――〈フロンティア〉についても同様だ。
もちろん北条たちのように、発見してはいるが報告はしていないという可能性もあるが。
なんにせよ鉱山エリアは、五層にある三つの分岐先から続く、本道と言えるようなルートでもあるので、信也達も迷宮碑の登録は早めにしておくが吉だ。
こうしてグリーク辺境伯が訪れるまでの間、北条は趣味の拠点作りという名の魔改造を行い、他の『サムライトラベラーズ』のメンバーはいつも通りに過ごす。
『プラネットアース』の方は順調に鉱山エリアを進み続け、あっという間に五日は過ぎていった。
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