どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
278 / 398
第十章

第247話 補強工事

しおりを挟む

 真夏の暑い日差しの中。
 作業に明け暮れる男と、それを観察する女の姿があった。
 男は先ほどから、"土魔法"を用いて延々と壁を強化している。
 女はそれを飽きる様子もなく見続けていた。

 そして、女も見様見真似で男の魔法を使ってみる。
 最初は上手く発動していなかったが、昨日からの繰り返しの練習で大分様にはなってきていた。


「……アウラぁ。お前さん、昨日から俺の所に張り付いているがぁ、仕事は大丈夫なのかぁ?」

 二人の男女は、壁の補強工事をしている北条と、それを見つめるアウラだった。
 近くには従者であるカレンとマデリーネの姿もある。
 流石にこの暑さのせいか、護衛でもあるマデリーネだが金属鎧を身に着けてはいない。
 どころか、革鎧すらも身に着けておらず大分軽装だった。

「問題ない……と言い切れる程ではないが、心配いらん。それよりも、お前の魔法を身に着ける事の方が、今後の事を考えるとより重要だ」

「ふむ。さっきの【アースダンス】は、ほとんど問題ない位にはなっていたぞぉ」

「そ、そうか!? これで私一人でも壁の強化が行えるようになったか」

「えっこいせ! 【アースダンス】。ふぅ、これで俺の仕事の方も完了っだぁ」

「なっ……」

 新たな魔法を身に着けた感慨を味わってるアウラに、依頼された分の仕事が完了した事を告げる北条。
 それを聞いて絶句してしまうアウラ。
 自分でも【アースダンス】を使えるようになったからこそ分かる事がある。
 それは、一面の壁を強化するのに、どれだけの魔力を消費するのかという事だ。

 《鉱山都市グリーク》にある"実家"に比べれば、今後アウラの住まいとなるこの建物の大きさは月とスッポンだ。
 しかしそんな邸宅でも、【アースダンス】でアウラがこの家の外壁を全面強化しようと思ったら、恐らくはひと月以上かかると思われた。
 それも毎日魔力を限界まで駆使して、だ。

 だというのに、北条は昨日から今日にかけての二日間で、壁を全面強化し終えてしまった。
 以前、複数の属性を使えるので魔力が多いという話を聞いてはいたが、どうやら話に聞いていた以上に膨大な魔力を持っているようだ。

 北条としては、魔力の多さを隠すためにチマチマと時間を掛けたくはない。
 ちゃっちゃと終わらせて、早く拠点の工事やら自分の訓練をしたいと思っていた。

「と、いう訳で、報酬を頂いたら帰らせてもらうぞぉ」

「……少々お待ちください。用意をして参ります」

 アウラが北条の魔力量について考えている間に、傍らにいたカレンが言う。
 マデリーネの方は特に何か口にする事はなかったが、北条が帰ると告げて眉を少しピクンとさせる。
 少しすると、カレンが皮袋を手に戻ってくる。
 北条がそれを受け取って中をちらと確認すると、中にはパノティア金貨が入っていた。

「確かに受けとったぁ」

「枚数を数えなくていいのですか?」

「他の人間ならともかく、アウラなら心配はないだろう」

 そう言って北条は、無造作に腰のベルトに金貨入りの袋を吊るす。

「信用してくれるというのは何よりだ。五日後もまたよろしく頼む」

「ああ。そちらこそ例の約束をよろしく頼むぞぉ」

「無論だ。改めて父には確と伝えておこう」

「ではまたなぁ」


 そういって北条は新村地区の北にある、建築中の町長の邸宅を後にする。

 北条がアウラと交わした約束というのは、北条がこの壁の補強工事を請ける際に条件として出したものだ。
 それはグリーク辺境伯家に後ろ盾になってもらいたい、というものだった。

 今後冒険者として活動していけば、色々とトラブルに見舞われる事もあるだろう。
 特に厄介なものひとつに、貴族とのもめ事というのがある。
 これは普通の冒険者ならそこまで気にすることではない事だ。
 なぜなら、わざわざ自分から接近しない限り、貴族が一冒険者相手に何かしてくる事などはないからだ。

 しかし北条は自身の能力の事なども鑑みて、先に貴族問題に対して手を打っておきたかった。
 それには、民からの評判も頗る良いグリーク辺境伯家はもってこいと言えた。

 しかも折よく悪魔討伐という大きな手柄も上げているし、その前にはアウラの救出にも一役買っているのだ。
 北条は今はまだDランクの冒険者でしかないが、庇護を求めるに当たり、状況は整っていると言えた。

「さあて、仕事はちゃちゃっと終わらせたし、拠点作りの続きといこうか」

 能力を隠すことなく使うようになってから、より拠点作りの意欲が高まっている北条。
 下水道の工事はほぼ終わっているが、まだ上水道の方には着手していない。

 と言っても、飲み水などに関しては何か所か予備用の井戸を掘りはするが、基本は魔法道具を使う予定だ。
 スイッチを押せば水が出てくるような、そんな魔法道具を今後作られていく建物に設置していけば、あとは下水道まで配管してしまえばそれでいい。

 魔法道具の中でもこうした飲み水を生み出すものや、調理用のコンロなどの四大属性を使ったものは、迷宮産に頼る必要がなく作り出せているので、貴族などの家ではそこそこ普及している。
 なお運用するには定期的に魔石が必要になるので、一般民が利用する事はほとんどない。

 そういった理由で上水に関しては基本問題はないのだが、北条は趣味で拠点内に小さな小川を作る計画を建てている。

 拠点内に設置した魔法装置から常に一定量の水が流れ続け、小川を通じてそれはやがて下水道へと落ちていく。
 その後は、現在は空堀となっている堀に排水させて空堀を水堀へと変える。

 完成予想図を想像するだけで、北条は頬の筋肉が緩むのを感じた。


「あ、北条さーーん。お帰りっすぅぅぅーー!」

「おおう、ただいまぁー」

 北条が西門から拠点内に入ると、左手側にある訓練場にいた由里香が大きな声で挨拶をしてくる。
 彼女は今拠点内に残されていたアーシアが、"分裂"によって生み出し、"眷属服従"で従わせていたスライムの一体と、模擬戦をしている所だった。

 北条は、先日アウラよりグリーク辺境伯が来訪する日程を聞かされていた。
 それは、もう一度ダンジョンに潜って戻って来るには微妙な間だ。
 そこで北条たち『サムライトラベラーズ』は拠点に留まる事とし、信也達『プラネットアース』だけがダンジョンに向かっていった。

 彼らが今回目指すのは、鉱山エリアの奥だ。
 今は前までのパーティーを元に、仮のパーティーを編成して組んでいるが、今後レイドエリアで実力がついてきたら、その時にもう一度各自の役割を踏まえてパーティー編成を練り直す予定だ。

 それには、両パーティーの間で登録した迷宮碑ガルストーンをなるべく揃えておいた方が都合がいい。
 そのために、今回は経験値稼ぎや地図の空白埋めはせずに、北条たちの作った地図を見て、ひたすら鉱山エリアを下へ下へと先を目指す。


 鉱山エリアはこれまで『サムライトラベラーズ』が発見した分岐が、三つ確認されている。
 ギルド側では未だに十九階層の隠し扉の先――由里香がトラウマになった、猿の魔物がいるエリア――についての情報はないようなので、一歩先んじている。

 これは未だに五層の北東にある〈金の鍵〉を使った扉の先――〈フロンティア〉についても同様だ。
 もちろん北条たちのように、発見してはいるが報告はしていないという可能性もあるが。

 なんにせよ鉱山エリアは、五層にある三つの分岐先から続く、本道と言えるようなルートでもあるので、信也達も迷宮碑ガルストーンの登録は早めにしておくが吉だ。


 こうしてグリーク辺境伯が訪れるまでの間、北条は趣味の拠点作りという名の魔改造を行い、他の『サムライトラベラーズ』のメンバーはいつも通りに過ごす。
 『プラネットアース』の方は順調に鉱山エリアを進み続け、あっという間に五日は過ぎていった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

処理中です...