347 / 398
第十二章
第305話 鍋料理
しおりを挟む「さ、着きました! ここです、ここ!」
「んー? ここは食堂、かぁ?」
ゴーレムの核を受け取る為に、咲良の付き合ってもらいたい場所まで移動した二人。辿り着いたのは、新しく出来たと思われる食堂を経営する店だった。
「はい。新しくオープンした店なんですけど、ここでは鍋に色々な具材を入れて煮込む料理が美味しいらしいんですよ」
「鍋料理かぁ。季節的にも美味しい時期だなぁ」
「ですよね!? 肉を主体にした鍋料理みたいなんですけど、肉も柔らかくなるまで煮てあるそうですよ」
「ほおう。そいつぁ楽しみだぁ」
時間的には既に正午はとっくに過ぎていて、三時のおやつの時間といった所だ。
そのせいか、北条と咲良が店に入った時には店内はさほど混んでおらず、すぐに席に付くことが出来た。
「あ、私この『ウサギ肉とエストールの煮込み鍋』をお願いします。それと水も」
「んー、じゃあ俺も同じのを頼むぅ」
「は~い、わかりました~。パンも一緒に注文するといいですよ~」
「じゃあ、パンも頼むぅ」
「は~~い」
注文を取りに来た給仕の女性に、壁に掲げてあった看板に書かれたメニューを指さし、注文する咲良。北条もそれに倣う。
受付の女性はおっとりとした声で注文を承ると、厨房の方に注文を伝えに行く。
「雰囲気は悪くないですね」
「そうだなぁ。時間のせいなのか、冒険者の数が少ないみたいだからそのせいだろう」
この新しくオープンした食堂は、大通りからは少し外れた場所にあるが、冒険者ギルドからは比較的近い場所にあった。
咲良は偶然この辺りを歩いている時にこの店を見つけたらしいが、今の所冒険者の間では知る人ぞ知る店、といった感じでこっそり繁盛しているらしい。
ただ咲良も店に入るのは今回が初めてなので、どんな料理が出てくるのか期待に胸を膨らませていた。
「は~い、まずはお水とパンをお持ちしました~」
先ほど注文を取りに来た女性が、トレイに木製のコップと水差し。それからパンを載せたトレイを持ってくる。
そしてトレイに乗っていたものを北条らの座るテーブルの上に置くと、即座に厨房へと引き返していき、今度は両手いっぱいの大きなトレイで、深皿によそったスープを二人分持ってくる。
そして最後に野菜や豆、肉を一緒に煮込んだ具材がたっぷりと載せられた皿を配膳すると、
「注文は以上です~。ごゆっくりどうぞ~」
と言って厨房へと引き返していく。
「これは……」
「このスープは、こちらの具材を煮込んだ時のものみたいだなぁ」
「鍋料理っていうから、土鍋みたいなのが出てくるかと思ったんですけど、どうやら違うみたいですね」
「というか、こっちに来てからそういう日本っぽい鍋料理の話は聞いたことないなぁ。……ふむ。〈エストール〉というのはこのたくさん入っている豆の事みたいだぞぉ」
「あ、これですか。なんか日本の煮豆みたいな感じですね」
肝心の味の方は素のままでも十分いけたのだが、しっかり料理人に"料理"スキルがあるのか、さらにそこに美味しさがプラスαされていた。
「これは、結構長時間煮込んだんじゃないかぁ? 手間もかかってるぞぉ」
「流石北条さん。料理に関しても詳しいですね」
「いや、これくらいはなんとなくわかるだろう?」
「ふふ、そうかも」
そんな風にとりとめもない会話などを交えながら、食事を楽しむ二人。
終始にこやかな表情で食事を楽しんでいた咲良は、時が経つのを忘れてしまう程だった。
「そろそろ、店を出るかぁ」
「あ……、そうですね」
給仕の女性の言ったように、ゆっくりと食事の時間を楽しんだ二人は、食堂を後にする。
「それでゴーレムのか――」
「あ、北条さん! どうせだから、ついでにこっちの露店通りの方に行ってみませんか?」
「ん、むっ。まぁ、そうだなぁ。もしかしたらそっちでもゴーレムの核が見つかるかもしれん」
「そうですよ! それに他に掘り出し物もあるかもしれないですし。北条さんの"解析"ならバッチリですよ!」
実際北条はゴーレムの核のうち、幾つかは町中で仕入れていた。中には露店で売られていたものも、その中にはある。
北条の隣を歩きながら、どこかソワソワとしている咲良。その視線は、左側を歩いている北条の右腕に注がれていた。
そちらの方に意識が集中していたせいだろうか。
咲良は後ろから早歩きで歩いてきた男性にぶつかってしまう。
「きゃっ……」
その男性に押されたせいで、思わず北条の右腕に縋りつくように捕まってしまう咲良。
幸い先ほどの男性はスリなどではなかったようで、北条もこの件について触れることはなかった。
「あ、あの……」
思わず北条の腕にしがみついてしまった咲良は、顔を真っ赤にしてしどろもどろだ。
対して北条の方はこれといった反応を示していない。
(むうう~~……)
自分ばかりはしゃいでいるような気がして、少し恨めし気な顔で北条を見上げる咲良。
そこで咲良は、北条が別の事に気を取られている事に気づいた。
(ん……? 何か前方で人だかりができてるわね)
「……ちょっと様子を見ていこうかぁ」
「え、は、はい」
見れば、先ほど早足で咲良にぶつかった男性も、人だかりの外周部分で興味深そうに様子を窺っているようだった。
北条たち二人も、吸い寄せられるように人だかりの方へと移動していく。
するとそこでは一人の男を中心に、周りに人が集まっている事が分かった。
男は人の注目を更に呼び集めるかのように、大きな声で聴衆に語り掛けている。
「……つまり、グリーク様はあの悪魔が化けていた神官と親密な関係だったらしいんですよ」
「でもそれって、グリーク様も悪魔が化けていたって気づかなかっただけじゃねーの?」
「いやいや、それがですね。とある人から聞いた話では、グリーク様は悪魔が化けていた司祭から、金銀財宝を受け取っていたようでしてね……」
「とある人って誰よ?」
「それはその人も命の危険があるので、名前を上げる訳にはいかないんですがね。さる貴族様に仕えてる従僕の方でしてね。たまたま主と共に登城した際に、うっかり聞いてしまったらしいんですよ」
「うーん……」 「グリーク様が、そんなまさか……」 「お貴族様なんてやっぱそんなもんなのかよ」
「ま、正体を知っていたかどうかなんて、あっしらには分かりませんがね。件の悪魔司祭とグリーク様が、時折お会いになられてた事は確かですよ」
「…………」
「あ、ちょっと、北条さん!」
黙って男の話を聞いていた北条は、無言でその男の方へと歩いていく。
後を追おうとした咲良に、後ろ手で「そこで待っててくれ」という合図を出す北条。
「あっ……」
それを見て、咲良はその場で立ち止まり様子を見守る事にする。
「中々興味深い話をしてるなぁ?」
「っ! そうですよね。まさかあのグリーク様が悪魔と手を組んでいたなんて――」
「いやいやぁ? 俺が言ってるのはその事じゃあない。まったくのデマで民衆を扇動している、"悪意"に満ちたお前さんの正体の事だぁ」
「な、何を言ってるんですか。私はただ本当の事を言ってるだけですが」
「なら何故それをこのような目立つ場で大声で話してるんだぁ? 『とある人』とやらの事も、なんだかんで話してしまっているし、そんな人物本当はいないんじゃあないかぁ?」
「そんな事はありません。それは言いがかりというものですよ」
「言いがかりはどっちだろうなぁ。最初にこんな場所でグリーク卿に、"言いがかり"を付けていた奴が言えるセリフじゃあないぞぉ」
「ふぅ、アナタはどうしても私を悪者に仕上げたいようですね?」
「悪者ぉ? 別にそこまではぁ言ってないだろぉ。ただ親交のある人物を貶められていたので、それを正したかっただけの事だぁ」
「親交のある、人、物?」
そこで北条は腰のベルトの袋からワッペンのようなものを取り出す。ドラゴンとハルバードを基調としたものだ。
それは一般市民の間にも知れ渡っているような紋様。この地を治めるグリーク家の家紋である。
つまり北条が取り出して見せつけたのは、ただのワッペンなどではなく、グリーク家から授けられる勲章であった。
「俺ぁ、グリーク卿より直々に悪魔を退治して欲しいと頼まれ、これを討った。確かに本性を表す前は、司祭として活動していたのだから、グリーク卿と接触する事もあっただろう。だが、手を組んでいたならば、俺にわざわざそのような頼みはしない!」
「なっ、お、お前は!?」
「俺は『サムライトラベラーズ』の北条。悪魔の話をしてたんだぁ。悪魔殺しの名くらい、知っているだろう?」
そう言って、北条は男に鋭い視線を送るのだった。
0
あなたにおすすめの小説
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる