どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第十二章

第305話 鍋料理

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「さ、着きました! ここです、ここ!」

「んー? ここは食堂、かぁ?」

 ゴーレムの核を受け取る為に、咲良の付き合ってもらいたい場所まで移動した二人。辿り着いたのは、新しく出来たと思われる食堂を経営する店だった。

「はい。新しくオープンした店なんですけど、ここでは鍋に色々な具材を入れて煮込む料理が美味しいらしいんですよ」

「鍋料理かぁ。季節的にも美味しい時期だなぁ」

「ですよね!? 肉を主体にした鍋料理みたいなんですけど、肉も柔らかくなるまで煮てあるそうですよ」

「ほおう。そいつぁ楽しみだぁ」

 時間的には既に正午はとっくに過ぎていて、三時のおやつの時間といった所だ。
 そのせいか、北条と咲良が店に入った時には店内はさほど混んでおらず、すぐに席に付くことが出来た。


「あ、私この『ウサギ肉とエストールの煮込み鍋』をお願いします。それと水も」

「んー、じゃあ俺も同じのを頼むぅ」

「は~い、わかりました~。パンも一緒に注文するといいですよ~」

「じゃあ、パンも頼むぅ」

「は~~い」


 注文を取りに来た給仕の女性に、壁に掲げてあった看板に書かれたメニューを指さし、注文する咲良。北条もそれに倣う。
 受付の女性はおっとりとした声で注文を承ると、厨房の方に注文を伝えに行く。

「雰囲気は悪くないですね」

「そうだなぁ。時間のせいなのか、冒険者の数が少ないみたいだからそのせいだろう」

 この新しくオープンした食堂は、大通りからは少し外れた場所にあるが、冒険者ギルドからは比較的近い場所にあった。
 咲良は偶然この辺りを歩いている時にこの店を見つけたらしいが、今の所冒険者の間では知る人ぞ知る店、といった感じでこっそり繁盛しているらしい。
 ただ咲良も店に入るのは今回が初めてなので、どんな料理が出てくるのか期待に胸を膨らませていた。

「は~い、まずはお水とパンをお持ちしました~」

 先ほど注文を取りに来た女性が、トレイに木製のコップと水差し。それからパンを載せたトレイを持ってくる。
 そしてトレイに乗っていたものを北条らの座るテーブルの上に置くと、即座に厨房へと引き返していき、今度は両手いっぱいの大きなトレイで、深皿によそったスープを二人分持ってくる。
 そして最後に野菜や豆、肉を一緒に煮込んだ具材がたっぷりと載せられた皿を配膳すると、

「注文は以上です~。ごゆっくりどうぞ~」

 と言って厨房へと引き返していく。

「これは……」

「このスープは、こちらの具材を煮込んだ時のものみたいだなぁ」

「鍋料理っていうから、土鍋みたいなのが出てくるかと思ったんですけど、どうやら違うみたいですね」

「というか、こっちに来てからそういう日本っぽい鍋料理の話は聞いたことないなぁ。……ふむ。〈エストール〉というのはこのたくさん入っている豆の事みたいだぞぉ」

「あ、これですか。なんか日本の煮豆みたいな感じですね」

 肝心の味の方は素のままでも十分いけたのだが、しっかり料理人に"料理"スキルがあるのか、さらにそこに美味しさがプラスαされていた。

「これは、結構長時間煮込んだんじゃないかぁ? 手間もかかってるぞぉ」

「流石北条さん。料理に関しても詳しいですね」

「いや、これくらいはなんとなくわかるだろう?」

「ふふ、そうかも」

 そんな風にとりとめもない会話などを交えながら、食事を楽しむ二人。
 終始にこやかな表情で食事を楽しんでいた咲良は、時が経つのを忘れてしまう程だった。

「そろそろ、店を出るかぁ」

「あ……、そうですね」

 給仕の女性の言ったように、ゆっくりと食事の時間を楽しんだ二人は、食堂を後にする。

「それでゴーレムのか――」

「あ、北条さん! どうせだから、ついでにこっちの露店通りの方に行ってみませんか?」

「ん、むっ。まぁ、そうだなぁ。もしかしたらそっちでもゴーレムの核が見つかるかもしれん」

「そうですよ! それに他に掘り出し物もあるかもしれないですし。北条さんの"解析"ならバッチリですよ!」

 実際北条はゴーレムの核のうち、幾つかは町中で仕入れていた。中には露店で売られていたものも、その中にはある。

 北条の隣を歩きながら、どこかソワソワとしている咲良。その視線は、左側を歩いている北条の右腕に注がれていた。
 そちらの方に意識が集中していたせいだろうか。
 咲良は後ろから早歩きで歩いてきた男性にぶつかってしまう。

「きゃっ……」

 その男性に押されたせいで、思わず北条の右腕に縋りつくように捕まってしまう咲良。
 幸い先ほどの男性はスリなどではなかったようで、北条もこの件・・・について触れることはなかった。

「あ、あの……」

 思わず北条の腕にしがみついてしまった咲良は、顔を真っ赤にしてしどろもどろだ。
 対して北条の方はこれといった反応を示していない。

(むうう~~……)

 自分ばかりはしゃいでいるような気がして、少し恨めし気な顔で北条を見上げる咲良。
 そこで咲良は、北条が別の事に気を取られている事に気づいた。

(ん……? 何か前方で人だかりができてるわね)

「……ちょっと様子を見ていこうかぁ」

「え、は、はい」

 見れば、先ほど早足で咲良にぶつかった男性も、人だかりの外周部分で興味深そうに様子を窺っているようだった。
 北条たち二人も、吸い寄せられるように人だかりの方へと移動していく。

 するとそこでは一人の男を中心に、周りに人が集まっている事が分かった。
 男は人の注目を更に呼び集めるかのように、大きな声で聴衆に語り掛けている。

「……つまり、グリーク様はあの悪魔が化けていた神官と親密な関係だったらしいんですよ」

「でもそれって、グリーク様も悪魔が化けていたって気づかなかっただけじゃねーの?」

「いやいや、それがですね。とある人から聞いた話では、グリーク様は悪魔が化けていた司祭から、金銀財宝を受け取っていたようでしてね……」

「とある人って誰よ?」

「それはその人も命の危険があるので、名前を上げる訳にはいかないんですがね。さる貴族様に仕えてる従僕の方でしてね。たまたま主と共に登城した際に、うっかり聞いてしまったらしいんですよ」

「うーん……」 「グリーク様が、そんなまさか……」 「お貴族様なんてやっぱそんなもんなのかよ」

「ま、正体を知っていたかどうかなんて、あっしらには分かりませんがね。件の悪魔司祭とグリーク様が、時折お会いになられてた事は確かですよ」



「…………」

「あ、ちょっと、北条さん!」

 黙って男の話を聞いていた北条は、無言でその男の方へと歩いていく。
 後を追おうとした咲良に、後ろ手で「そこで待っててくれ」という合図を出す北条。

「あっ……」

 それを見て、咲良はその場で立ち止まり様子を見守る事にする。

「中々興味深い話をしてるなぁ?」

「っ! そうですよね。まさかあのグリーク様が悪魔と手を組んでいたなんて――」

「いやいやぁ? 俺が言ってるのはその事じゃあない。まったくのデマで民衆を扇動している、"悪意"に満ちたお前さんの正体の事だぁ」

「な、何を言ってるんですか。私はただ本当の事を言ってるだけですが」

「なら何故それをこのような目立つ場で大声で話してるんだぁ? 『とある人』とやらの事も、なんだかんで話してしまっているし、そんな人物本当はいないんじゃあないかぁ?」

「そんな事はありません。それは言いがかりというものですよ」

「言いがかりはどっちだろうなぁ。最初にこんな場所でグリーク卿に、"言いがかり"を付けていた奴が言えるセリフじゃあないぞぉ」

「ふぅ、アナタはどうしても私を悪者に仕上げたいようですね?」

「悪者ぉ? 別にそこまではぁ言ってないだろぉ。ただ親交のある人物を貶められていたので、それを正したかっただけの事だぁ」

「親交のある、人、物?」

 そこで北条は腰のベルトの袋からワッペンのようなものを取り出す。ドラゴンとハルバードを基調としたものだ。
 それは一般市民の間にも知れ渡っているような紋様。この地を治めるグリーク家の家紋である。

 つまり北条が取り出して見せつけたのは、ただのワッペンなどではなく、グリーク家から授けられる勲章であった。


「俺ぁ、グリーク卿より直々に悪魔を退治して欲しいと頼まれ、これを討った。確かに本性を表す前は、司祭として活動していたのだから、グリーク卿と接触する事もあっただろう。だが、手を組んでいたならば、俺にわざわざそのような頼みはしない!」

「なっ、お、お前は!?」

「俺は『サムライトラベラーズ』の北条。悪魔の話をしてたんだぁ。悪魔殺しデーモンスレイヤーの名くらい、知っているだろう?」

 そう言って、北条は男に鋭い視線を送るのだった。



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