どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第十三章

第343話 クラン

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「クランかあ。そういえばゼンダーソンさんも言ってたよね」

「ああ、俺たちみたいに二つのパーティーで行動してるなら、クランを組んでおいたほうがいいみたいだな」

「さっきの話だと金貨一枚で登録できるみたいだし、次ギルドに寄った時にでも登録します?」

「俺ぁそうするつもりでいる。そしてメンバーを追加していきたい」

「メンバーを追加って……。すでにうちは十二人でフルパーティーが二つ出来てるけど」

 北条の提案に陽子が疑問の声を上げる。
 そんな陽子の疑問に、北条は今後の展望について語りだした。

「俺のこれまでの行動指針の一つに、なるべく目立たず、能力についても隠蔽していく、というものがあったぁ。しかし、今では俺らは大分目立ってしまっているし、俺の能力についても一部知られてしまっている」

 それらは大体が悪魔事件の時が原因ではあるが、冒険者として活躍していく以上、遠からず同じような事態にはなっていただろう。

「そこで、考え方を少し変える。そもそもさっき上げた行動指針は、自分の身を守るためのものだぁ。しかし、それがすでに機能しなくなってきている以上、大っぴらに動いて戦力を増強したい」

「戦力って……。一体相手は誰を想定してるのよ?」

「……こないだのシルヴァーノのような奴がまた現れないとは言い切れん。なので、この世界のあらゆる理不尽を排除できるような、そんな戦力を築き上げる」

「な、なんかソーダイな話になってきたッス」

 そうは言いつつも、ロベルトとしても味方が増えるのは悪くない事だと思っている。
 由里香や信也など、シルヴァーノに直接襲撃された者たちは特にそうした思いが強い。

「俺もゴーレムを配置したり、契約した魔物を森に放ってレベル上げをさせてるがぁ、それでは数が足りん。あの拠点には戦えない者もいるし、防衛力をもっと上げておきたい」

 今のところ冒険者や盗賊による被害はないが、何分目立つ建物なので、よからぬことを企むものも今後出てくるかもしれない。
 そうなるとツィリルやロアナ、それとゴーレムなどだけでは広い拠点の範囲をカバーすることが出来ない。

「でも冒険者をメンバーに加えても、普段はダンジョンに潜っちゃうんじゃないかな?」

「咲良の言う通りだがぁ、冒険者パーティーが四つとか五つとかになってくればぁ、どっかしらのパーティーが拠点に駐留する可能性は高まる。それと、メンバーを増やすのは、今後のレイドパーティーの事も考慮しての事だぁ」

 今の所、『サムライトラベラーズ』と『プラネットアース』。それから北条と芽衣の召喚した魔物で探索できているレイドエリアだが、今後もそう上手くいくとは限らない。

「なるほど。俺としても仲間が増えるのなら心強い。拠点はまだまだ空き地があるしな。だが、肝心なのは人選だと思うのだが……」

「その辺は、今後話し合って決めていくしかないなぁ。加入条件として、お互いに情報を漏らさないという、例の"契約"を受け入れられる者。加えて……まずは俺らとも付き合いのある連中に誘いを掛けてみるのがいいんじゃないかぁ?」

「っつーと、ムルーダやキカンスとかか?」

「そうだなぁ。この際レベルなどは考慮しないでいいだろう。いざとなれば、レイドエリアに連れて行って、パワーレベリングするという方法がいけるかもしれんし」

「あの~、それって大分前に話してましたけど~、確かそれだと貢献度が得られないとか言ってませんでしたか~?」

 芽衣が言っているのは、まだダンジョンに本格的に潜る前の事。
 ジョーディと一緒にダンジョンの確認に来た時の事だ。

「あー、そうだったなぁ。そうなると数をこなすべきかぁ? あとはー……」

 芽衣の指摘に考え事を始めた北条の視線が、陽子を捕らえた瞬間、小さく「あっ」と声を上げる。

「え、な、何?」

「そうだぁ。陽子の使ってる〈雷鳴の書〉。あれならレベルの低い奴を後衛に下げても、戦力になるなぁ」

「ちょ、私のアレを貸し出すの?」

「ああ、いやぁ。そこは俺がちょちょいと作ればいい。魔石とちょっとした素材があれば、使い捨ての攻撃魔法の魔法道具くらい作れるだろう」

 魔法道具を作るための"刻印魔法"と、発動させる魔法の効果を刻むための、大元となる"火魔法"などの魔法。
 北条のスキルチートと豊富なMPがあれば、魔法道具を量産する事も可能だ。

 そして、それは北条の"刻印魔法"や"魔法道具創造"のスキル訓練にもなるし、そうして作られた魔法道具を使う事で、使用した者の魔法の熟練度が加算され、ムルーダらに魔法スキルが生えてくる事もあるかもしれない。

 これは金持ちの貴族や、大商人の子供などが時折用いる魔法の修行方法だが、この方法ではかなりの資金が必要になる。
 しかし、表沙汰に出来ない北条のチートスキルを活用すれば、資金的な問題はほとんどない。


「へー、確かに悪くなさそうね」

 最初は自分のとっておきを貸し出すのかと用心していた陽子も、話を聞くうちに理解の色が広まっていく。

「オレとしても、あいつらと組むのは望むところだぜ! ……あっ、待てよ。そーなると、ルーの奴も拠点に居座る可能性があんのか!?」

 『獣の爪』の猫獣人ルーティアは、あれからも変わりなく龍之介への猛アタックを続けていた。
 お互いに冒険者活動をしているので、なかなか出会う機会も少ないのだが、その分偶然出会った時はその想いが暴発しがちだ。

 この間もキカンスらと飲んでいた龍之介は、ルーティアと熱烈なベロチューを交わしてしまっていた。
 この調子だと、朴念仁であった龍之介が陥落する日もそう遠くないかもしれない。

「ま、その辺は奴らが誘いに乗った場合の事だぁ」

「うーーむ、俺もそろそろ覚悟を決めるべきか? でもこんな感じで決めちまっていいのか?」

 何やら龍之介が将来設計について考え初め、ブツブツと独り言を言いだし始める中、クランに関する話が終息していく。

「分かった。では俺の方からも、彼らと出会った時に声を掛けてみるとしよう。細かい条件の打ち合わせも必要になるだろうが、基本的に加入した者を拠点に迎えるので構わないか?」

「ああ、その辺は任せるぞぉ。最終的には俺の"契約魔法"の出番なので、こちらでも再度相手の意思や条件の確認は出来るからなぁ」

「じゃあ、まずはクランを作るところからですね!」

「うむ。まあ、今回の探索を終えてからでもいいだろう」


 話の着地点が見つかり、クランの話についての話題はここで終了する。
 そうして歩きながら話している間にも、すでにサルカディアまで後少しという所まで到達していた。
 その辺りで新たに出た話題は、芽衣のちょっとした疑問から始まった。

「そういえば~。北条さんは先ほど、契約した魔物を森に放ってると言ってましたが~、それっとどんな魔物なんですか~?」

 同じ"召喚魔法"を使用する者として、ぽろっと北条の口から洩れた事を気に留めていた芽衣。
 召喚出来る最大数は北条の方が多いというのに、契約して連れ歩いているのがアーシアだけというのが、気になっていたらしい。

「あー、それは色々だなぁ。どうも魔物の召喚は一度戦った相手……もしくは一度目にした魔物しか呼び出せんからぁ、新種と出会った後は時折その魔物を呼び出して契約してたぞぉ」

「えっ? でも~、最初にレイドエリアを探索した時は、十体位まで呼び出せるって言ってませんでした~? そんな次々と契約していたら、十体も呼び出せないんじゃ~?」

「ああ。確かそん時は、契約していた魔物がすでに何体もいたはずだがぁ、それを含めて更に十体位は召喚出来たって事だぁ。契約済のを合わせれば、同時召喚出来る数は二十体以上はいくと思うぞぉ」

「に、二十体……」

 未だにマンジュウらを含めて最大同時召喚数が七体の芽衣からすると、三倍以上も召喚出来るという事になる。
 そのことに軽いショックを受ける芽衣。

「その辺に放ってるって、この森の中をうろついてんのか? それって冒険者に出会ったら狩られちまうんじゃね?」

「一応連中には冒険者を見かけたら逃げろって言ってあるし、ダンジョンへの通り道であるこの道付近には、なるべく近づかないようにさせてある」

 そういった命令を与えつつも、森にいるフィールドの魔物を狩ってレベルを上げるようにも命令していた北条。
 最近では北条の契約した魔物の影響か、森から魔物の数が減少していた。
 ダンジョンの魔物とは異なり、フィールドの魔物は危険があったらわざわざそこに近寄ろうとはしないものだ。

「そのせいで、最近はちょっと遠くまで出張ってるみたいだなぁ。あ、そういえば以前ルカナルが襲われてたのを、ストライクホークが助けた事もあったなぁ」

 あの時は丁度北条も拠点にいたので、"召喚魔法"の【視覚共有】で状況を知った北条が、慌てて彼らの方へと助けに向かった。

「まあルカナルを襲ってた魔物は、ストライクホークが倒してくれたけどな。あれは丁度俺が防具の製作を依頼してた頃だったがぁ、思えばあれからルカナル製品に鷹のマークが付くようになってたな……」

「あー、あの空から飛びかかって襲い掛かってくるみたいな奴っすね!」

 そう言う由里香の身に着けているレザーアーマーにも、その鷹のマークは意匠されている。
 印章故に、サイズは小さめではあるが、しっかりとした躍動感もあって、利用者からは概ね好感触だ。




「お、見えてきたな」

 話をしながらも歩みを進めると、景色が大きく変化する。
 北条の視線の先には、森の中に広がる大きな泉――サルカディアの泉と、その先に広がる小さな集落のようなものが映っている。

 シルヴァーノ問題でしばらくダンジョン探索を休止していた彼らは、こうして久々のダンジョンへと乗り込んでいくのだった。
 

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