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第一章 追放と告白

第2話 はじめてスライムを倒す

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 昨日のマチルダさんの言葉が頭から離れない。
 確かにマチルダさんはこう言った。
 僕がスライムを倒したら、お祝いのキスをしてくれると。

 この日の朝は気合の入り方が違った。
 何としてでもスライムを倒し、魔石をゲットしてやる。

 僕はいつものようにステイタスを見た。
───────────────
冒険者マルコス LV1
【攻撃力】 1
【魔力】  0
【体力】  3
【スキル】 レベル1
【スキルランク】 S
【スキル能力】
・体を輝かせる
───────────────
 何度見ても変わらない。
 最弱の攻撃力にスキルレベル1。
 この能力でスライムを倒せる方法はないのか?
 ない頭で考える。
 小型スライムの体力は15ほどある。
 僕の攻撃力ならダメージは1しか与えられない。つまり15回攻撃する必要がある。
 体力のない僕は、その間にスライムの攻撃を受け逃げ帰ることしかできない。
 何か突破口はないのだろうか?
 スライムの電撃攻撃さえ防げば、なんとかなりそうなんだが。
 攻撃を防ぐにはどうすれば……。
 僕の持っているスキルは役に立たない『ライト』だけ。
 スライムの前で体を輝かせても意味がない。
 意味がない?
 本当にそうなのだろうか?
 何かこのスキルを使って上手くスライムの攻撃を防ぐことができないだろうか?
 今まではこんなヘボスキル、役に立たないとスライム相手に使ったことなかったが、一度試してみる価値はあるのでは?
 一つの単語が思い浮かんだ。
 目潰し! ライトを使った目潰し攻撃!
 やってみる価値がありそうな気がした。

 そんなことを考えていると、あっという間にスライムの森に到着した。
 やるしかない。
 こんなことを永遠に繰り返すわけにはいかない。
 今日は何としてでもスライムを倒してやる。
 古道を進むとすぐに青い半透明の物体が現れた。
 小型のブルースライムだ。
 今日こそは、今日こそはやってやる。
 なにせ、スライムを倒せば、あのマチルダさんとキスができるのだから。

「ハッ!」
 僕は短く声をあげると思い切ってスライムとの距離をつめた。
 できるだけ至近距離で『ライト』を発動したかったのだ。
 至近距離ならスライムの目がくらみ、攻撃ができなくなる。その間に、僕がスライムを攻撃し続ければ勝てるはずだ。

 スキル『ライト』!
 心のなかでそう唱えると、僕の体が輝きはじめた。

 さあ、これで、これでスライムは眩しさのあまり攻撃を仕掛けられないはずだ。
 その間にこちらが……。

 そう思っているとき、予想外のことが起きた。

「わっ!」

 僕の体が後ろに弾き飛ばされた。
 そ、そんな……。
 そうだった。
 僕は今、スライムの電撃攻撃を受けたのだった。
 ライトで攻撃できないと思っていたスライムが、何事もなかったかのように攻撃してきたのだった。
 まさか。
 まさか、目潰し攻撃は意味がなかったのか。
 やはり、僕のスキル『ライト』はまったくのヘボスキルだったのか。

 いや、もう一回やってみよう。
 次は目潰し作戦がうまくいくかもしれない。

 なけなしの勇気を振りしぼり、僕はもう一度スライムとの距離をつめた。今度は先ほどよりももっと前に出る。

 スキル『ライト』!

 体が輝き出した。

「わっ!」

 またもや僕の体は後ろに弾き飛ばされる。
 やはり駄目だった。
 僕の体は無駄に光っているだけで、スライムの目潰効果など、まったくなかったのだ。

 もう体力が1しか残ってない。
 やはり今日も逃げ帰るしかないのか……。

 そう思っている時、思いもよらぬことが起こった。

 頭の中で明るいメロディーが流れ出したのだ。
 なんだ?
 この音楽は何なのだ?

 僕は混乱しながら、とりあえずスライムとの距離をとった。

 確かに今、頭の中でメロディーが鳴ったぞ。
 何かが起こっている。
 でもそれが何かわからない。

 あっ!
 気づくことがあった。
 そういえば、こんな話を聞いたことがある。

『レベルアップするときって、なぜか頭の中で音楽が鳴るんだよね』

 僕は今までレベルアップなどしたことがなかった。
 なので、頭の中で音楽など鳴ったことがない。
 けれど。
 そうだった。今、僕の頭の中で音楽が鳴った。

 もしかして、レベルアップ……?

 急いで自分のステイタスを確認する。
───────────────
冒険者マルコス LV2
【攻撃力】 3
【魔力】  0
【体力】  5
【スキル】 レベル2
【スキルランク】 S
【スキル能力】
・体を輝かせる
・回避
───────────────
 おおっ!
 僕が、マルコスが、LV2になっている!
 攻撃力や体力も上がっている!
 しかも、スキルレベルが2になっているじゃないか。

 でも。

 いくらスキルレベルが2になっていても、体を輝かせるだけの能力じゃ、なんの意味もないんだけどね。

 ……。
 ちょっと待てよ。
 スキル能力が?
 スキル能力が一つ増えている。
 『回避』と出ているけど……、『回避』って何だろう?
 何かを回避するのかな。

 そんなことを考えていると、先ほどのブルースライムが目の前に迫ってきていた。
 しまった!
 また電撃攻撃を受けてしまう。
 上限は上がったけれど、今の僕に残されている体力は1しかない。
 もう一度攻撃を受けると、死んでしまうではないか。
 ただ、もう逃げるにもスライムが近距離で電撃攻撃を放つ寸前だった。

 もうやけくそだった。
 とりあえずできることをしようと思ったのだ。
 もしかしたら、今度は目潰しが効くかもしれないし。

 スキル『ライト』!

 僕はスキルを発動させた。
 体が輝き始める。
 しかし。
 やはり、ライトはヘボスキルだった。
 スライムはひるむ様子もなく攻撃を仕掛けてきた。

 ああ、もうダメだ!
 僕の人生はこんなところで終わってしまうのか……。

 そう覚悟した時。

 うん?

 どうしたんだ?

 スライムの攻撃をくらったはずなのに、全くダメージを受けていないぞ。

 スライムは続けて電撃攻撃を行ってきた。

 ええい、こちらももう一度だ。

 そう思いながら僕はスキルライトを発動する。

 すると、やはりスライムの攻撃にダメージを全く受けずにすんでいる。

 とりあえずチャンスだ。
 僕はそう思い、もらい物の剣でブルースライムを攻撃した。
 攻撃力が上がっているためか、相手に与えるダメージが今までの三倍になっている。

 すごい。
 これなら、勝てるかも。

 スライムの攻撃はスキルライトでしのぎ、攻撃を繰り返すこと6回、ついにブルースライムの体が蒸気を発するようにその場から消えた。
 消えた場所に、ころりと一つの玉が転がっていた。
 魔石だった。スライムを倒して得られる魔石が地面に転がっていたのだ。

 やったー!
 僕は、ついに、スライムを倒すことに成功したんだ!

 気がつけばその場で小躍りしている自分がいた。
 興奮をしずめ、地面から魔石をつかみ取る。
 ひんやりとした感触が手に伝わってきた。
 これが、これが初めて手にする魔石の感触か!
 これを見せれば、みんな驚くだろうな。
 特に、受付のマチルダさん、喜んでくれるよな。
 それに、そうだった。
 スライムを倒せば、ご褒美にマチルダさんがキスしてくれる約束をしていたんだ。
 ということは、僕は、あの高嶺の花だったマチルダさんと、キスすることになるのか!
 キスなんかしたら、そのまま二人は恋人同士になってしまうんじゃないのか!

 うれしさのあまり、いろいろなことが頭に思い浮かんでくる。

 けれど、冷静になり少し考えた。
 なぜ、僕はスライムの攻撃を避けることができたのだろう。
 スキルを発動すると、相手の攻撃から全くダメージを受けずにすんでいた。

 なぜだ?
 そう考えている時、あることを思い出した。
 そうだ、僕はスライムとの戦闘中にレベルアップしたんだ。
 そして、【スキル能力】の項目が一つ増えていたんだ。
 その増えた項目は『回避』となっていた。

 『回避』?
 まさか、敵の攻撃を回避するって意味ではないのか?
 もし、そうだとしたら、とんでもなくぶっ飛んだスキルだけど。

 でもきっとそうだ。
『回避』とは、相手の攻撃を回避する能力なんだ。
 そんなレアなスキル能力を授かるなんて。

 僕は今まで忘れていた一つの事実を思い出した。

 たしか、僕の【スキルランク】って、『S』なんだよね。

 なにかの間違いくらいに思っていた『S』ランクが、僕の中で重い意味を持ちはじめた瞬間だった。
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