スライム倒し人生変わりました〜役立たずスキル無双しています〜

たけのこ

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第二章 レッドドラゴンの角

第11話 クローの禁術

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 冒険者ギルドの建物の中に入ると、僕はすぐに受け付けへと目を向ける。
 いつもならそこにマチルダさんがいるはずだった。
 けれど、今日は誰の姿もない。
 前にもこんなことがあった。
 そう、あの時マチルダさんはクローと二人っきりで話していた。そしてマチルダさんは泣いていたんだ。
 まさか今日も……。
 マチルダさん、どこにいるんだ?
 僕はあわてて周囲に目をやる。

 あっ!

 ギルドボードに人だかりができている。その中にマチルダさんの姿もあったのだ。
 よかった。クローと一緒ではなかったんだ。
 それにしても、今日もマチルダさんは輝いているなぁ。

 僕もみんなが集まる場所へと足を向ける。
 みんなは壁に張り出してある何かを見ている。
 なんだろう?

 そう思っていると、冒険者の一人が僕の姿に気づきこう言ってきた。
「マルコスじゃねえか。お前、すごいことになっているぞ!」

 すごいこと?
 どういうことだろう。

「よう、マルコス、やったな!」
 他の冒険者もそう声をかけてきた。

 なんだなんだ?

 僕はみんなが見ているものに目を向ける。

 これは!

 そこにあったのは冒険者ランキング表だった。
 全国の冒険者がポイント順に並んでいるものだ。

「マルコス!」

 この声は。
 聞き間違えるわけがない。

「マルコス、これを見て!」
 そう話しかけてきたのはマチルダさんだった。

 マチルダさんが、うれしそうな表情で僕に話しかけてくれている。
 それだけで僕は幸せな気分になる。

「マルコス、ランキングをちゃんと見て!」

 そう言われて僕は、自分の名前を探すため下から順に名前を追っていく。
 いつもは8000番台にいるんだけど。
 最下位クラスに名前があるはずだから、すぐに見つかるはずだ。

 あれ?
 ない。

 なぜか、周囲にいる冒険者たちは、僕をじっと見ている。僕が順位を確認する姿を見守ってくれているような感じだ。

 ランキング表の文字は結構小さい。
 僕は自分の名前を飛ばしてしまったんではないかと、もう一度最下位あたりに目を向ける。
 するとマチルダさんがこう言った。
「マルコス、そんなところにあなたの名前はないわよ。もっと上よ」

 もっと上?
 どういうことだろう。
 あっ、そうか。
 僕は一人でゴブリンキングを倒したんだ。それがポイントに入っているから、順位が上がっているんだ。
 だったら、5000番台辺りかな。

 じっと名前を探す。

「マルコス、どこ見ているのよ」
 しびれを切らしたようなマチルダさんの声。
「ベスト300に入っているわよ」

 ベスト300!
 300位以内と言えば、多くの冒険者が目標としている憧れのラインだ。ランキング表の名前も300位までは、大きな文字で書かれている。

 マチルダさんの言葉で、僕は目を上に向ける。
 あった!
 僕の名前があった!
 見間違えではないか何度も見直すが、そこにあるのは間違いなく僕の名前だった。

 マルコス・ポーター、僕の名前が298位の位置に書かれていたのだった。

 僕がぼう然と表を眺めていると、どこからか拍手してくれる人がいた。その拍手が広がりはじめ、周囲の冒険者たちみんなが僕のランキングを祝福してくれる。

 みんな知っているんだ。
 スライムも倒せなかった僕がどんなに悔しい思いをしてきたのかを。
 同じ冒険者だから、その時の僕の気持ちが手にとるように分かっていたんだ。
 ちらっと、マチルダさんを見てみる。
 マチルダさんもみんなと同じようにうれしそうな顔で僕に拍手を送ってくれている。

 みんな良い人だな。
 こんな人たちに囲まれ、僕は幸せ者だ。

 ランキング298位。
 おそらくこのギルドにいる冒険者で300位以内は数えるほどしかいないはずだ。
 その中に僕が入っているなんて。
 そう考えると、なんだか自分が偉くなったような気がする。

 今だったら……。
 今だったら、マチルダさんは僕のことを好きになってくれるかも。友達ではなく恋愛の対象として考えてくれるかも。
 だってマチルダさんは、強い男が好きと言っていたんだから。
 ランキング298位は、間違いなく強い部類に入っているだろう。

「マチルダさん、ちょっと話があるんですが、二人っきりになれませんか?」
 変な自信がついているのか、僕はそうマチルダさんに話しかけた。

「ええ、業務中だけど、少しくらいなら大丈夫よ」

「じゃあ、こっちに」
 僕はギルドの外に出るようにマチルダさんを促した。

 ギルドの裏手にある木材が積まれた場所で足を止める。

「マチルダさん、298位の僕は強い冒険者と言ってもおかしくないですよね」

「ええ、もちろんよ」

「だったら、僕と、友達なんかではなく、恋人として付き合っていただくことはできませんか?」

「それは、前にも言ったはずよ。私は今誰ともお付き合いするつもりはないの」

「まだクローのことが忘れられないのですか?」

「……」

 そんな会話をしているとき、背中から声が飛んできた。

「おい、マルコス、こんなところにいたのかよ!」

 振り向くまでもない。声の主はクローだった。

「貴様にはとんでもない借りができてしまったな。今それを返しに来たぞ」

 借りを返す?
 嫌な予感がする。

「きゃー!」
 マチルダさんが僕の背後に視線を合わせ、叫び声をあげた。

 僕は素早く体を反転させ、クローと向き合う。

 すると、小型の鳥獣モンスター、キレートが突っ込んできた。

『ライト』!

 僕はキレートの突進を回避する。
 が、鳥獣は僕を通り過ぎるとすぐさま方向を修正し、またもや僕へと突撃してくる。

 すごいスピードだ!
 あのくちばしに刺されたらひとたまりもない!

『ライト』!
 間一髪で回避する。

 けれど。
 すぐに、キレートは僕に照準を定めてくる。

 僕はハガネの剣を抜く。
 抜くが、キレートのあまりの素早さに斬ることができない。
 僕は、攻撃できないまま回避で相手を避け続けるしかなかった。

 どうしてだ?
 どうして、鳥獣キレートは僕だけを狙ってくるんだ?
 なぜ、クローに向かわないんだ?
 もしかして、鳥獣はクローに操られている?

 そんな考えがよぎりながらも、僕は高速で向かってくるキレートの攻撃を避け続けた。
 これでは、何かのミスでいつかは僕がやられてしまうのでは。

 そんな僕の思いが伝わったのだろう。
 クローの笑い声が響いた。

「ハハハ、どうだマルコス! いくら逃げ足の早いお前でも、この攻撃をかわし続けるのは至難の技だろう!」

「どうして、どうしてキレートは僕ばかりを狙ってくるんだ?」
 僕は疑問を口にした。

「ふん、冥土の土産に教えてやる。このキレートは魔術マヤカシをかけてある。つまり俺にコントロールされているモンスターだ」

 魔術マヤカシ……。
 聞いたことがある。
 モンスターや人の心を自在に操る禁術魔法だ。

「それと、もう一つ良いことを教えてやる。魔術マヤカシはマチルダにもかけてある。だからいくらお前がマチルダのことを好きになっても、この女は俺のことを忘れられないんだよ」

「ま、マチルダさんにマヤカシをかけているだって!」
 僕の頭に血がのぼる。
「マヤカシは、人に対しては使っていけない禁術だぞ!」

「ふん、知ったことか!」

 あまりの怒りに体中が震えてくる。
 その時だった。
 あっと思った。
 キレートの攻撃に『ライト』のタイミングが遅れた。

「うっ!」
 鳥獣のくちばしが僕の左上腕をかすめていく。
 一瞬何が起こったかわからなかった。
 しばらくすると、左腕から血がドクドクとあふれ出し、地面にしたたり落ちていった。

 しまった!
 クローの言葉に気を取られていた。
 やつは僕を揺さぶるために禁術の話をしているんだ。
 今はこの鳥獣を倒すことに集中しなければ。
 
 逃げることを繰り返していてもいつかはやられてしまう。
 ここは回避を使わず、矢のように飛んでくるキレートを剣で叩き斬るしかない。
 失敗すれば命を失ってしまうが、やるしかないのだ!
 震える心を押さえながら、僕は迫りくるキレートに照準を合わせ、右手一本でハガネの剣を振り上げたのだった。
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