スライム倒し人生変わりました〜役立たずスキル無双しています〜

たけのこ

文字の大きさ
22 / 39
第三章 マチルダさんの好きな人

第22話 角の粉を飲んでもらわなければ

しおりを挟む
 レッドドラゴンの角を手に入れた僕は、その足でマチルダさんの元へと向かった。

 少しでも早く禁術マヤカシを解かなければ。

 道具屋の主人がこう言っていたから。

 マヤカシは、時間が立ってしまうとその術が固まってしまいどうすることもできなくなると。

 早く、早く!

 僕の気持ちは焦って仕方がない。

 首都コマルでミルヴァさんと別れてからは、いっそう足を早めて故郷のノースに向かう。

 そういえばミルヴァさんと分かれる際、僕はとんでもないものを彼女から頂いた。
 なんと稀有の名剣、オリハルコンの剣を頂いたのだ。

「この剣は、あなたが持っていた方が良いような気がする」

 そう言ってミルヴァさんは惜しげもなくその名剣をくれたのだった。

 大切に使わしてもらおう。
 僕はそう心に決め、ありがたくその剣を腰に携えた。

 本当は、ミルヴァさんにはいろいろ聞きたいこともあった。

 例えば、なぜ女性なのに男のふりをしているのか?
 何か事情があると言っていた。

 聞いてみたいけど……。

 でも、今は急がなくては。
 その問いは、また会えたときにすればいい。

 心残りはたくさんあったが、僕は首都コマルでミルヴァさんと別れ、生まれ故郷のノースへと向かった。
 途中、うまく馬車に乗せてもらうことができたこともあり、ノースへは思ったより早くに到着した。

 慣れ親しんだ故郷。
 空気までもがなつかしい。

 すぐにでもマチルダさんの元へと飛んで行きたかったが、その気持をぐっとこらえて、僕は道具屋へと向かった。

 道具屋の主人はその仕事がらあらゆることに知識が豊富だ。
 しかも、いつも僕の味方になってくれるような人だ。
 まずは、せっかく手に入れたレッドドラゴンの角をどうすればいいのか聞く必要がある。
 単に砕いて飲めば良いのか。それとも何か術式が必要なのか。

 僕は、道具屋の扉を開けた。
 ドアのきしむ音が以前と変わっていない。

「こんにちは」
 はやる気持ちを押さえて挨拶をする。

「よう、マルコス、少し見ないうちにたくましい顔つきになったな」
 店主は僕の顔を見るなりそんなことを言った。

 ただ、世間話をしている暇はない。
 マチルダさんの禁術マヤカシを一刻も早く……。

「店主、レッドドラゴンの角を取ってきました」

「はあ?」

「レッドドラゴンの角を取ってきたんです」

「おいマルコス、冗談言っちゃいけないよ。言っただろ、あんなものランキング1位の剣士でも取ってこれない代物だと。お前が取ってこれるわけないだろ」

「それが、この通り、ここにあるんです」
 僕はアイテムボックスから角を取り出し、金色に輝く尖った物体を店主に見せた。カウンターには置ききれる大きさではなかったので、そのまま角は床へ置いた。

「こ、これは!」
 店主は目を丸くして角を見ている。
「本物を見るのは初めてだが、文献で読んだことがある。レッドドラゴンの角は切り取られた後も金色に輝き続けていると。まさに、この角が……」

「これで、マチルダさんの禁術マヤカシは解けますよね」

「ああ。だが、ちょっと待て、どうやってこの角を手に入れたんだ?」

「どうやってって。レッドドラゴンと戦って手に入れたんです」

「レッドドラゴンと戦った? マルコスがか?」

「はい」

「つい最近まで、スライムも倒せなかったマルコスが、レッドドラゴンと戦って、角を取ってきただって!」
 店主は信じられないといった顔つきで僕の顔を見つめている。
 そしてこんなことを言ってきた。
「それが本当ならマルコス、お前はすごい力を秘めていたんだな。もしかすると、お前は伝説の勇者になれる逸材かもしれないな」

 また、出てきた、この言葉。僕が勇者なわけないじゃないか。
 そう思いながら、今の気持ちを述べた。

「店主、僕は勇者なんてどうでもいいんです。僕はマチルダさんを救いたいんです。この角をどうすれば良いのか、早く教えて下さい」

「わかった」
 店主はそう言うと、レッドドラゴンの角を使い禁術を解く方法を教えてくれた。
 僕は、単に粉を飲ませればそれで全てが解決すると思っていたが、話を聞くとどうやらそういうわけでもなさそうだった。
 これはちょっと厄介だな。僕はそう思った。

「レッドドラゴンの角の粉末を飲むだけでは駄目なんだ」
 道具屋の店主は僕に説明した。

 飲むだけでは駄目?
 せっかく苦労して手に入れたレッドドラゴンの角だが、それだけでは何か足りないのだろうか?

「まだ、他に必要な物があるのですか?」

「いや、物はもう必要ない」

「じゃあ、どうすれば……」

「禁術マヤカシをかけられているのは、確かマチルダさんといったな」

「はい」

「そのマチルダさんだが、角の粉末を飲んだだけでは術は解けない。もう一つ必要なことがあるんだ」

「何なんですか?」

「粉末を飲み、その後、マチルダさんが本当に好きになれる男と巡り会えた時、禁術は初めて解けるんだ」

「マチルダさんが本当に好きになれる男と巡り会えた時……」

 なんだぁ。
 じゃあ、簡単なことだ。
 僕が、マチルダさんに好かれるような男になればいいだけの話じゃないか。
 マチルダさんは言った。
 強い男が好きと。
 今や僕は、ランキング1位の冒険者でも倒せないレッドドラゴンを倒せる剣士になったんだ。
 僕より強い冒険者などいないということだ。
 きっとマチルダさんは僕のことを好きになるに違いない。
 きっと……。

  ※ ※ ※

 道具屋の主人との話を終えた僕は、その足でノース冒険者ギルドへと向かった
 馴染みのある扉を開く。

「あっ、マルコス、久しぶりね」
 カウンターにいるマチルダさんが声をかけてくれる。
 こうして見るとマチルダさんが禁術マヤカシにかけられているなんて、まさかと思ってしまう。
 でも。
 そこがマヤカシの恐ろしいところである。
 普通に接する分には、誰もその人が術にかけられているなんて思えない。
 本人でさえ、術にかけられていることは気づけないものだ。

 でも、かけられている人の心は間違いなく操られてしまっている。
 人を好きになれず、ある特定の男だけに恋心を抱くようにプログラムされてしまっている。
 マチルダさんが、そんな術にかけられてしまっているなんて。
 クローのやつ、絶対にゆるせない。

「こんにちはマチルダさん。お変わりありませんか?」

「もちろん変わりないわよ」
 マチルダさんの笑顔が輝いている。
 けれど、彼女の心はクローに捕らわれてしまっているんだ。
 禁止されている術をかけられて……。
 僕が、マチルダさんを救う。
 そして、僕自身が、マチルダさんの本当に好きだと思える男になってみせるんだ。

「マチルダさん、実はあなたに飲んでもらいたい粉があるんです」
 僕はいきなり本題に入っていった。

「粉?」
 マチルダさんはキョトンとした顔をしている。
 こんな顔も素敵だ。

「そうです。粉です。マチルダさんに飲んで貰う必要があるんです」
 そう言って僕はレッドドラゴンの角を砕いた金色の粉をマチルダさんに見せた。
 ちなみにこの粉は、オリハルコンの剣で削り砕いたものだ。

「何言っているのマルコス。そんな怪しい粉を私に飲めというの?」

「ええ、これはマチルダさんが自分らしく生きるために必要な粉なのです」

「マルコス、意味がわからないわ。得体のしれない粉を飲めと言われて飲めるわけないじゃない。悪いけどお断りよ」

 確かにそうだ。
 よく考えれば簡単に飲んでもらえるわけない。
 でも、禁術マヤカシを解くためにはどうしてもこの粉を飲んでもらう必要がある。
 どうすればいいのだろうか?
 マチルダさんがこの金色に輝く粉を、口に入れてもらえる良い方法はないのだろうか?
 僕は、無い知恵をしぼりはじめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥
ファンタジー
ある世界、ある時代、ある国で、一人の若者が領地を取り上げられ、誰も人が住まない僻地に新しい領地を与えられた。その領地をいかに発展させるか。周囲を巻き込みつつ、周囲に巻き込まれつつ、それなりに領地を大きくしていく。 ざまぁっぽく見えて、意外とほのぼのです。『新米エルフとぶらり旅』と世界観は共通していますが、違う時代、違う場所でのお話です。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

処理中です...