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第二章 レッドドラゴンの角
第21話 レッドドラゴンとの約束
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倒れているレッドドラゴンの頭部に近づいた時、何とも言えない張り詰めた空気になった。
それもそのはずだ。
魔石になっていないこのモンスターは、まだ生きているのだから。
気を抜けば、また攻撃してくるかもしれないのだ。
いつでもライトを発動できるようにしながら一歩一歩レッドドラゴンの角へと近づいていく。
この角を持って帰れば……。
マチルダさんの禁術が解けるんだ。
クローから開放されたマチルダさんは、また自由に人を好きになれるんだ。
そして、僕は立候補しよう。
勇気を出して、マチルダさんと付き合いたいと告白しよう。
もし駄目でも、それはそれで仕方がない。
けれど、マチルダさんが自由に人を好きになれることを想像すると、飛び跳ねたいくらいに嬉しい気持ちになってくる。
人は自分の意志で動くものなんだ。
決して、誰かに操られるべきではないんだ。
だから、クローの禁術をしっかり解いてあげないと。
「やっ!」
恐る恐る角まで接近した僕は、思い切ってオリハルコンの剣で角を叩いた。
一太刀で斬り落とせると思ったが、剣は角半分まで刺さったところで止まってしまった。
大丈夫なのか?
こんなことをして、レッドドラゴンは復活したりしないのか?
そう心配したが、最強モンスターはピクリとも動かない。
やっぱり、もう死に絶える寸前のようだ。
早く角を切り落とさないと。
このままでは魔石に変化してしまうぞ。
そう思った僕は、あたらめて剣を角へと振り下ろした。
腕にしっかりとした手応えが伝わってきた。
次の瞬間、ずっしりとした金色の角が、切り落とされ地面に転がる。
「やった!」
僕は思わず叫んだ。
「マルコス、気を抜くのは早いわよ。レッドドラゴンを見て」
ミルヴァさんの言葉でドラゴンを見る。
すると、体中から蒸気を発し、その姿が薄れてきている。
「魔石に戻ってしまうわ。急いで! 急いでヒールをかけて!」
僕は言われるがままに『ライト』発動させ、輝いた手をレッドドラゴンにかざした。
これで、レッドドラゴンは復活するのか?
こんなことで、死に絶える寸前のモンスターがよみがえるのか?
僕は不安でいっぱいになりながらヒールをかけ続けた。
しかし。
心配は杞憂に終わった。
しばらくすると消えかけていたレッドドラゴンの体ははっきりと輪郭を取り戻した。そして、最強モンスターの目が、ぱっちりと開いたのだった。
「さあ、逃げましょう」
ミルヴァさんが言った。
その通りだ。
レッドドラゴンの角は手に入れた。
あとは、この場から逃げ帰ればいいだけだ。
僕はスキル『ライト』があるので、レッドドラゴンの攻撃をかわすことができる。
けれど。
ミルヴァさんにはそんな能力はない。
レッドドラゴンの怒涛の攻撃を避けきることができるのだろうか?
そんな不安が頭によぎったが、考えているひまなどない。
とりあえずは逃げるしかないのだ。
僕とミルヴァさんはレッドドラゴンを背にして駆け出そうとしたその時、思いもよらないことが起こった。
「待て、待ってくれ!」
誰かがそんな声を発した。
待てって誰が? 誰が僕たちに話しかけているんだ?
ここにいるのは、僕たちとレッドドラゴンしかいないはず……。
ということは……。
僕は逃げようとしていた体を止め、恐る恐るレッドドラゴンに顔を向けた。
「待ってくれ!」
やはりそうだった。僕たちに声をかけているのはレッドドラゴンだったのだ。
しかし、最強モンスターに待てと言われて、待つ冒険者なんているだろうか。
やっぱり、さっさと逃げよう。
そう思って、あらためて走り出そうとしたその時、またレッドドラゴンが話しかけてきた。
「角などくれてやる。だから待ってくれないか」
なんだ、なんだ?
「是非、お前に助けてもらいたいんだ」
そんなことをレッドドラゴンは言ってきた。
助ける?
「助けるとはどういうことですか?」
僕の代わりにミルヴァさんが口を開いた。
「私の仲間が、魔王に捕らわれている。救い出してくれないか。お前ならできる」
「魔王から仲間を救う?」
いったい何を言っているのだ。
「ちょっと待ってください。僕はレベル3の冒険者です。魔王なんかに勝てるわけありません。それに、今は魔王よりも大切なことがあるんです」
そうだ。
魔王なんかよりずっと大切なこと。
マチルダさんの禁術を解いてあげないと。
「魔王より大切なことだと! 魔王を放っておくことはできないぞ。魔王はこの世界の征服を企んでいるのだからな」
「魔王のことは、僕なんかよりもっと強い冒険者に任せます。悪いけど今日は帰らせてもらいますね」
「もっと強いというが、お前より強い冒険者などいるのか?」
そりゃ、いるだろう。
僕は心の中で思う。
なにしろ、僕のランキングは298位なんだから。
うん?
でもランキング1位はここにいるミルヴァさんなんだよね。
ミルヴァさん、レッドドラゴンに勝てなかったよね。
ということは、僕はミルヴァさんより強いってこと?
ランキング1位より強いってことなの?
ばかばかしい、そんなはずは……。
「お前の名前はなんと言うんだ?」
レッドドラゴンは僕にたずねる。
「マルコスです」
「そうか、マルコス、お前はきっといつの日か魔王と戦うときがやってくるはずだ。その時は、どうか魔王に捕らわれている私の仲間を救ってくれ」
「わ、わかりました。万が一、魔王と会うようなことがあったら、一応魔王にお願いしてみます」
僕は適当にそんな返事をした。
早くマチルダさんのところに帰らないと。
「そうか、たのんだぞ。約束だからな」
レッドドラゴンはそう言い残すと、滝の中へと姿を消したのだった。
それもそのはずだ。
魔石になっていないこのモンスターは、まだ生きているのだから。
気を抜けば、また攻撃してくるかもしれないのだ。
いつでもライトを発動できるようにしながら一歩一歩レッドドラゴンの角へと近づいていく。
この角を持って帰れば……。
マチルダさんの禁術が解けるんだ。
クローから開放されたマチルダさんは、また自由に人を好きになれるんだ。
そして、僕は立候補しよう。
勇気を出して、マチルダさんと付き合いたいと告白しよう。
もし駄目でも、それはそれで仕方がない。
けれど、マチルダさんが自由に人を好きになれることを想像すると、飛び跳ねたいくらいに嬉しい気持ちになってくる。
人は自分の意志で動くものなんだ。
決して、誰かに操られるべきではないんだ。
だから、クローの禁術をしっかり解いてあげないと。
「やっ!」
恐る恐る角まで接近した僕は、思い切ってオリハルコンの剣で角を叩いた。
一太刀で斬り落とせると思ったが、剣は角半分まで刺さったところで止まってしまった。
大丈夫なのか?
こんなことをして、レッドドラゴンは復活したりしないのか?
そう心配したが、最強モンスターはピクリとも動かない。
やっぱり、もう死に絶える寸前のようだ。
早く角を切り落とさないと。
このままでは魔石に変化してしまうぞ。
そう思った僕は、あたらめて剣を角へと振り下ろした。
腕にしっかりとした手応えが伝わってきた。
次の瞬間、ずっしりとした金色の角が、切り落とされ地面に転がる。
「やった!」
僕は思わず叫んだ。
「マルコス、気を抜くのは早いわよ。レッドドラゴンを見て」
ミルヴァさんの言葉でドラゴンを見る。
すると、体中から蒸気を発し、その姿が薄れてきている。
「魔石に戻ってしまうわ。急いで! 急いでヒールをかけて!」
僕は言われるがままに『ライト』発動させ、輝いた手をレッドドラゴンにかざした。
これで、レッドドラゴンは復活するのか?
こんなことで、死に絶える寸前のモンスターがよみがえるのか?
僕は不安でいっぱいになりながらヒールをかけ続けた。
しかし。
心配は杞憂に終わった。
しばらくすると消えかけていたレッドドラゴンの体ははっきりと輪郭を取り戻した。そして、最強モンスターの目が、ぱっちりと開いたのだった。
「さあ、逃げましょう」
ミルヴァさんが言った。
その通りだ。
レッドドラゴンの角は手に入れた。
あとは、この場から逃げ帰ればいいだけだ。
僕はスキル『ライト』があるので、レッドドラゴンの攻撃をかわすことができる。
けれど。
ミルヴァさんにはそんな能力はない。
レッドドラゴンの怒涛の攻撃を避けきることができるのだろうか?
そんな不安が頭によぎったが、考えているひまなどない。
とりあえずは逃げるしかないのだ。
僕とミルヴァさんはレッドドラゴンを背にして駆け出そうとしたその時、思いもよらないことが起こった。
「待て、待ってくれ!」
誰かがそんな声を発した。
待てって誰が? 誰が僕たちに話しかけているんだ?
ここにいるのは、僕たちとレッドドラゴンしかいないはず……。
ということは……。
僕は逃げようとしていた体を止め、恐る恐るレッドドラゴンに顔を向けた。
「待ってくれ!」
やはりそうだった。僕たちに声をかけているのはレッドドラゴンだったのだ。
しかし、最強モンスターに待てと言われて、待つ冒険者なんているだろうか。
やっぱり、さっさと逃げよう。
そう思って、あらためて走り出そうとしたその時、またレッドドラゴンが話しかけてきた。
「角などくれてやる。だから待ってくれないか」
なんだ、なんだ?
「是非、お前に助けてもらいたいんだ」
そんなことをレッドドラゴンは言ってきた。
助ける?
「助けるとはどういうことですか?」
僕の代わりにミルヴァさんが口を開いた。
「私の仲間が、魔王に捕らわれている。救い出してくれないか。お前ならできる」
「魔王から仲間を救う?」
いったい何を言っているのだ。
「ちょっと待ってください。僕はレベル3の冒険者です。魔王なんかに勝てるわけありません。それに、今は魔王よりも大切なことがあるんです」
そうだ。
魔王なんかよりずっと大切なこと。
マチルダさんの禁術を解いてあげないと。
「魔王より大切なことだと! 魔王を放っておくことはできないぞ。魔王はこの世界の征服を企んでいるのだからな」
「魔王のことは、僕なんかよりもっと強い冒険者に任せます。悪いけど今日は帰らせてもらいますね」
「もっと強いというが、お前より強い冒険者などいるのか?」
そりゃ、いるだろう。
僕は心の中で思う。
なにしろ、僕のランキングは298位なんだから。
うん?
でもランキング1位はここにいるミルヴァさんなんだよね。
ミルヴァさん、レッドドラゴンに勝てなかったよね。
ということは、僕はミルヴァさんより強いってこと?
ランキング1位より強いってことなの?
ばかばかしい、そんなはずは……。
「お前の名前はなんと言うんだ?」
レッドドラゴンは僕にたずねる。
「マルコスです」
「そうか、マルコス、お前はきっといつの日か魔王と戦うときがやってくるはずだ。その時は、どうか魔王に捕らわれている私の仲間を救ってくれ」
「わ、わかりました。万が一、魔王と会うようなことがあったら、一応魔王にお願いしてみます」
僕は適当にそんな返事をした。
早くマチルダさんのところに帰らないと。
「そうか、たのんだぞ。約束だからな」
レッドドラゴンはそう言い残すと、滝の中へと姿を消したのだった。
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