スライム倒し人生変わりました〜役立たずスキル無双しています〜

たけのこ

文字の大きさ
26 / 39
第三章 マチルダさんの好きな人

第26話 マチルダさんが家に来る

しおりを挟む
 僕は迷っていた。
 これでいいのだろうかと。

 明らかにマチルダさんの目が違っている。
 僕に熱い視線を送ってきている。
 普段なら、これほど嬉しいことはない。
 けれど、違うんだ。
 マチルダさんの僕に対する熱視線は、決して僕本来の魅力に惹かれているからではないんだ。
 そう、僕の新しいスキル能力『ハーレム』がそうさせているだけ……。
 マチルダさんは、決して僕のことが好きなのではない。
 これじゃあ、僕はクローとやっていることが同じじゃないか。禁術マヤカシでマチルダさんの心を操っていたクローと、僕のスキル『ハーレム』とどこが違うというのだ。

 こんなことしていたら駄目だ。
 早く、マチルダさんを元の状態に戻さないと。
『ハーレム』を解かないと!

 でも。
 どうやって解けばいいんだ?
 そのやり方がわからない。

 そんなことを考えているうちに、周囲の冒険者達がマチルダさんの様子を見て騒ぎはじめた。

「おい、マチルダが急にマルコスのことを好きだと言い出したぞ」
「どういうことだ? いったい何が起こっているんだ?」
「まさか、マルコス、お前、禁術を使ったんじゃないだろうな」

「禁術なんて使ってません。そんな術、僕が使えるはずないじゃないですか」
 僕は慌てて否定する。

「そうだな。お前は魔力ゼロだからな。禁術なんか使えるはずないか。だったら、このマチルダの変わりようは何なんだ」

 まずい。
 こんなところに長居をすると、ろくなことがなさそうだ。
 そう思った僕は、マチルダさんに話かける。

「マチルダさん」

「何?」
 うっとりとした顔でマチルダさんが僕を見る。

 だめだ。
 好きな人からこんな目で見られると……。

「マチルダさん、ちょっと僕と一緒に外に出ましょう」
 とりあえず皆からマチルダさんを引き離したいと思った僕は、それだけ言うとマチルダさんをギルドの外に連れ出した。

 マチルダさんは仕事中だったが、もうそんなことは言っていられない。なにしろ、僕のハーレムがマチルダさんを変えてしまっているんだから。この状態をなんとかしなければ。

 ギルドのドアを開け、外に出たら澄み切った空気が僕の頬をなでてくれた。
 この外気に触れれば、マチルダさんの様子も変わるかも。
 でも駄目だった。
 マチルダさんは変わらず眩しい目で僕を見つめている。

「ねえ、どこに行くの?」

「い、いえ」
 特にどこに行こうとも考えてなかった僕はしどろもどろしてしまうだけだった。

「だったら私、行きたいところがあるの」

 マチルダさんが、行きたいところ?
「どこですか?」

「マルコスの家に行ってみたい。あなたのお母さんに会わせてくれる」

「僕の母にですか?」

「そう。あなたのお母さんに会いたい」
 なぜかマチルダさんはそう言ったのだった。

 僕の母は病気で寝込んでいることが多い。
 そんな母に会っても……。

「とりあえず行きましょう」
 マチルダさんがそう言うので、行くあてもなかったもなかった僕は、流れるままに自分の家へと足を向けたのだった。

 僕の家はお世辞にも立派とは言えない。
 当たり前だ。僕はパーティーを首になるような冒険者だし、母は病気で寝込んでいるし。
 簡単にいえば、うちにはお金がなかったのだ。

「ただいま」
 小さな玄関のドアを開け、僕は母が聞こえるように声を出した。

 しかし。
 なぜか、家の中からの返事はない。

 どうしたんだろう?

 僕はマチルダさんを招き入れ、二間しかない部屋へと入る。

「おかあさん」
 声を出す。

 けれど返事はない。

 母が寝ているはずのベッドを見ると、そこには誰もいない。布団がきれいに畳んであり、枕もきっちりとその布団の上に置かれてある。

「お母さん、どうしたのかしら?」
 ベッドの様子を見て、マチルダさんがつぶやいた。

「うん、出掛けているんだ。いつものことだよ」

「出掛けているの? いつものこと?」
 マチルダさんは意外そうに言う。
「だって、マルコスのお母さんって病気で寝込んでいるんでしょ」

「そうなんだけど……。不思議な病気なんだ。ほとんどは寝込んでいるんだけど、時々元気になって、出歩くことができるんだ」

「ふーん、じゃあ今は元気になって出歩かれているのね」

「そうだと思う」

「病気で寝ているお母さんの話し相手にでもなれればと思って、家に来てみたんだけど……、今日はそんな必要ないみたいね」

 そうなんだ。
 マチルダさん、僕のお母さんの話し相手になってくれようとして……。
 やっぱり、やさしい人なんだ。

 そう思ってあらためてマチルダさんへ顔を向ける。
 すると、マチルダさんは目を見開きこちらを見ている。

 誰もいない狭い部屋にマチルダさんと二人っきり。

 キスしたい。
 また、マチルダさんとキスしたい。
 今なら、間違いなくキスできる。
 いや、キスだけではない。
 マチルダさんの柔らかい肌にも触れたい。ぎゅっと抱きしめてみたい。
 でも。
 そんなの駄目だ。
 僕のなけなしの理性がそう言ってくる。
 マチルダさんは僕の『ハーレム』効果でこうなってしまっているだけなんだから。
 欲望に負けてはいけない。
 今はなんとかして、マチルダさんのハーレムを解くようにしないと。

 そうは思っていても、僕もただの男だった。
 ごめんなさい、マチルダさん。誘惑に負けてしまいます。
 僕はやっぱり、マチルダさんのそのくちびるにどうしてもキスしたくなってしまった。

「マチルダさん、キスしてもいいですか」
 欲望に負け、僕はストレートに言ってしまった。ハーレムにかかっているマチルダさんに。

「ええ、もちろんいいわよ」
 当然のごとく、マチルダさんがそう返事をする。

「では」
 そんな言葉とともに、僕は自分の顔をマチルダさんへと近づけていく。

 そうしていると。

「ただいま!」
 玄関から声が聞こえてきた。

 えっ!
 僕は慌てて、マチルダさんへと近づけていた自分の顔をストップさせた。

「ただいま! お客さんかい?」
 玄関からまた声が聞こえてきた。

 そう、その声は、間違いなく僕の母だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥
ファンタジー
ある世界、ある時代、ある国で、一人の若者が領地を取り上げられ、誰も人が住まない僻地に新しい領地を与えられた。その領地をいかに発展させるか。周囲を巻き込みつつ、周囲に巻き込まれつつ、それなりに領地を大きくしていく。 ざまぁっぽく見えて、意外とほのぼのです。『新米エルフとぶらり旅』と世界観は共通していますが、違う時代、違う場所でのお話です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

処理中です...