蒼い夏

ペリハチ

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「……んねぇえ、アイス食べたいぃぃ」
「はぁ…?」

 ミチルは脈絡もなく、ダルく絡まるように言う。

「アイスったって、購買にはないだろ」
「コンビニ行こ、コンビニ」

 オレの意見を伺うこともなく、ミチルはすっくと立ち上がり、早く早く! と言いながら手際よく窓とカーテンを閉め、点けたばかりの冷房のスイッチも切って、軽やかな足取りで廊下に出た。

「な、なんなんだよ、ここで待ち合わせしたと思ったらコンビニ行くのかよ」

 オレ、何のために制服着て学校に来たわけ? 夏休みなのに……。


 真っ昼間にも関わらず教室に挟まれた廊下は薄暗くて、蒸し蒸しとした空気も相まってまるで現実じゃないような、別世界に紛れ込んでしまったような不思議な感覚がある。ところどころ各教室から漏れ出てる陽の光が、ダンジョンの道標になっているような……ゲームのし過ぎかな。
 そんな廊下の先の方でミチルは、スカートをヒラヒラさせながら、早くー! とオレを呼ぶ。逆光でシルエットしかわからないような見た目が、なんだかミチルじゃない別の誰かのようだ。


 ダンジョンのような廊下を抜けて、オレが溶けていた渡り廊下を歩く。さっきとは違って、さわさわと風が吹き抜けて涼しい。

「あぁ~、涼しいねぇ!」
「あぁ、涼しいな」
「ねぇ知ってた? この向きから見える街の景色、秘密があるんだよ」
「……秘密ぅ~?」

 渡り廊下を挟んで、片方はグラウンド、反対側は校庭、そしてその向こうには街の景色が広がっている。学校は少し高いところにあって、見晴らしが良い。

 オレらの街は大きな街じゃないけど、住宅地があって、ショッピングモールがあって、商業街があって、学校の近くは郊外で田んぼや畑とか、緑も広がっている。商業街には三つの高いビルがあって、街のランドマークになっている。オレはこの街、景色が好きだ。何も考えずにぼーっと眺めるだけで、癒やされる。

 だから秘密があるとか、考えたことなかったけど……どういうことなんだ?

「秘密って、なによ」
「やあっぱ知らなかったんだぁ」

 ミチルはニヤニヤといやらしく笑いながら、腰を屈めて下からオレの顔を覗き込む。……なんかムカつく。

「めんどくせーな、いいから早くコンビニ行こうぜ」

 オレは両手をスラックスのポケットに突っ込んで、ミチルが追いつかないような早さでスタスタと先を歩いた。待ってよ~、なんて慌てたような甘えたようなミチルの声がしてるけど、そういうのはオレの足を更に早めるだけだ。

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