脱走王子と脱獄王女

狐島本土

文字の大きさ
25 / 30

勝手にスライムと呼んでる

しおりを挟む
 太陽が二つ落ちた夕方に宿に到着する。

 部屋に荷物を運び込んだ後、奴隷用の部屋に連れて行かれる。ルーヴァを王女として歓待している状況下では、その奴隷であるオレも高貴な身分の人物の持ち物としてそれなりの扱いを受ける。前世で言えばビジネスホテルぐらいの、要するに贅沢を望まなければ悪くはない部屋だった。

 自由に行動していい訳ではないのは違うが。

「やっぱ窮屈だな」

 顔に巻いた包帯をやっと取れる開放感はある。水瓶から桶に水を移してまず顔を洗い、その水で包帯も洗う。精霊界の水は潤沢だが、奴隷が自由に使えるというものでもない。

 上下水道の普及率はそれほどでもない。

 それでも精霊樹が汚水も吸い上げてしまうらしく、綺麗な水が容易に手に入るのは、前世の環境を考えるとありがたいことだ。泥水を啜るところまではちょっと覚悟が出来てない。

「風呂は貴重だった」

 マリの屋敷でちゃんと入れれば。

「ヨニがいると思って言ってます?」

「言ってる」

 ボロ布で身体を拭いてる背後からこっそりと入ってきた人間と魔族のハーフ少女に気づかない訳がない。風呂場ではリラックスしすぎて意識できなかったが、ピンクの肌からは少し甘い匂いがしている。例の眠らせる魔力の関係だろう。

「よばれたから」

 メイド姿のヨニはなにやらモジモジしている。

「ヨニのからだがめあてです?」

「違う」

 そのつもりなら父親のついでにどうにかした。

「売り飛ばした子供の行方を調べようと思う」

「テオ……」

 ヨニは目を丸くした。

 少し嬉しそうだ。

「言っておくが、ヨニのためじゃない」

 だが、オレは努めて冷ややかに言った。

 希望を持たせる気はない。

「予想ではほとんど死んでる。運良く見つかったとしても、その子供はお前を恨んでいるだろう。そしてオレはお前の肩は持たない」

 間違っても、この少女の罪悪感を軽減するための行動ではない。

 オレが魔王になり、奴隷を解放していくと考えたときに、人身売買は間違いなく敵であるというだけだ。力のない今ではなにもできないかもしれないが、実体は把握して置かなきゃいけない。売られる側だけでなく、売る側や買う側についてもだ。

 マリに言われたことももちろんあるが。

「うん」

「けれど、別に子供同士で殺し合えとは思っていない。ヨニにも事情はあったことは理解している。見つかったとして、無理矢理に会わせる気もないし、謝罪する必要もないと思ってる。それで気を楽にするのは売られた側より売った側だ」

「……」

 オレの言葉にヨニの表情は暗くなる。

 自分でも年端もいかない子供に酷なことを言ってるとは思うが、オレたちに同行して楽しく生きられると思ってもらっても困る。ルーヴァは姉妹を敵に回す覚悟であり、ランナは少なくとも過去の仲間を敵に回す寝返りだ。言うまでもなく茨の道を進んでる。

 そしてオレは人間の敵かもしれない。

 ずっと苦悩しろとは言わないが、やったことを悔やむこともしなくなったら終わりだ。そして自分を納得させられる生き方を見つけてほしいと思う。偉そうだが、まぁ、保護者を引き継いでしまったようなものだ。

 オレも自分を律していかないといけない。

「それじゃ、全員の名前と人相を教えてくれ。当然、忘れちゃいないだろ? 忘れてるなら思い出すところからだが」

「わすれてません」

 ヨニは頷いて五人の子供の名前と特徴を紙に書きはじめた。全員が魔族であるようで、個性があるのは探す意味ではありがたいが、対峙することを考えるとただの人間としては不安もある。

「……よし、じゃあ、戻っていいぞ」

「あの、ヨニもさがすのを」

「お前にはランナの様子を見張ってもらいたい」

 手伝うと言い出すのはわかっていたので、オレは先回りして指示を出す。獣車に掴まりながら使うということについて考えた結論だ。

「みはる?」

「ルーヴァはオレの心配ばかりしているけど、むしろ狙われるのは魔王になるかもしれない人間の男より、実際に魔王を選べる娘であるルーヴァの方だ。わかるよな」

「……」

 ヨニはオレの言葉に頷いた。

「ランナがオレに共感した、その言葉を疑ってる訳でもないが、人の心がどう変わるかはわからない。周りが魔族だらけのこの国では大丈夫だろうが、これから先は精霊騎士の力を利用しようとする存在も出てくるかも知れない」

 これも獣車で考えていたことだ。

「ヨニにはランナと親しくなってもらう。いざとなれば、魔力も使えるその身体はオレよりも役に立つだろう。そしてルーヴァを守るために行動してくれ。変化があれば報告だ」

「わかりました」

 ヨニは少し考えて、そう言った。

「母親のことは辛かったと思うけど、どうしようもない過去も、人生の糧の内だ。オレもそうしてる。お互い、なんとか生き延びよう」

 オレはそう言って握手を求めた。

「はい」

 ヨニは両手でそれに応じた。

 子供だが、子供のままではいられない。

 奴隷としてのオレがそうであったように、ヨニも過酷な生き方を避けられないだろう。約束はできないが、それがいつか報われると思いたい気持ちはある。人間と魔族の間に生まれることが特別視されないような穏やかな世界になれば。

「……」

 ヨニが出て行ってからしばらく、オレは硬いベッドに横たわってなんか偉そうな説教をしたことの恥ずかしさに悶える。またイケメン病が出た感じだ。なに言っても説得力が出る顔ってのは本当に問題だと思う。

 自分の存在感が一人歩きしてる。

「あーあ」

 魔王になるって大変だ。

 ヨニが言っていたことによると、今夜、ルーヴァはなんか領主と会うらしいし、歓迎されたからと言って、旅が楽になる訳でもないみたいだ。そりゃ政治利用もされる立場なんだろうが。

 包帯が乾くのを待って顔に巻き、部屋を出る。

 すっかり夜になっていた。

 もちろん宿側が奴隷を逃がさないように部屋の外側から鍵をかけて閉じこめている訳だけれども、だから出られないというものでもない。換気用の小窓に身体を滑り込ませて、建物の石壁を這うぐらいのことはできる。

 魔族の国だからこそ、人間を軽んじてる。

 一端外に出て、それから宿内に潜り込み変装用の服を拝借することにする。奴隷の姿で歩くのは流石に目立ちすぎるからだ。宿の従業員は制服らしきものを来ていたので、私服がどこかにあるはずだ。

「……」

 更衣室を探して鍵を開け。

「あ、だめっ、そんなことっ」

「いいんだろ。ほら、もうこんなになってる」

「……」

 こっそりと入ろうとしたら逢瀬の真っ最中だった。どこのエロ本だと他人事のようには言えないが、なんかうねうねとした魔族がニ体絡み合っている。人間型同士でないので、なにがこんなになってるのかよくわからない。

 勝手にスライムと呼んでるタイプの魔族。

「へっへ」

「ふぅふぅ」

 ねちょねちょねとねちょ。

 泥みたいな色のと、パンみたいな色の、透明感がない液体生物が重なってる。地面に落ちた鏡餅的な状態。男の方はわりと良い声してるのが微妙に腹立つな。女の方はちょっとおばちゃん臭いが。

「……」

 どうしようか。

 どこに目があるかもわからないが、没頭しているようなので思い切って中に入ってみる。あの魔族はRPGの雑魚敵よろしく、精霊界でも魔族の中では下に見られてる口だ。どの客の持ち物であるにしても宿が預かっている奴隷にいきなり攻撃はしてこないだろう。

「孕めっ! 孕めぇっ!」

「孕むっ! 孕むぅっ!」

 なんかきたない色のスライムが産まれそう。

 そんなことを思いながら、木製のロッカーを物色していく。ほどなく人間型の魔族のものと思われる服を発見する。ぐちゃぐちゃと交尾の音がうるさいのでここで着替えてしまう。

「おううっ!」

「あうううっ!」

 そしてさっさと更衣室を後にしようとした。

「待てよ」

 だが、ぐったりしたように見えた泥色のスライムがぐぐっと大きくその面積を広げて、ドアを塞いでくる。面積が広がると核らしき輝きがその内側に見て取れた。

「タダ見か?」

「……」

 口調にちょっとイラっとくるものがある。

 なんだろうこの感じ。

 スライム界のイケメン気取り?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす
ファンタジー
 女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――? ――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語―― 『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』 五大国から成る異世界の王と たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー ――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。 この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。 ――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして…… その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない―― 出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは? 最後に待つのは幸せか、残酷な運命か―― そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

処理中です...