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ヒマ(変態)
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デートは二人で行くことにした。
「え?」
ナルセンは同じワンピースを着て並んだわたしとおにいの顔を交互に見て混乱している。どっちが来ると思ってたんだろう。
「どっちを抱いたかわからない?」
「わーっ!」
わたしが言うとナルセンは口を押さえておにいを見る。その視線が熱っぽいのがすこし気持ち悪いけど、可愛いから仕方がない。
わたしそっくりで可愛い。
「デートの約束をしたのはリツですから」
おにいが言う。
「それはそうかもしれないけれども」
「まーまー、注目集めちゃうから車に乗ろー」
ナルセンの手をくぐって、わたしはさっさと助手席に座る。学校に乗ってきてる車とは違うスポーティな車だけど、たぶんレンタカー。
「ボクはもうセン君だけでも……」
運転席に座ったナルセンが言う。
「それはオレも言ったんですけどね」
ちょっと狭い運転席側の後部座席に座って、恋人みたいに耳元でささやくおにい。男として喋ってるのに変な色っぽさがあってムカつく。
「えー? 成田先生が男子生徒とコーモンセイコーしてるってどっかに書き込めばいーんですか!? 教育委員会ですかー?」
こんなおにいをナルセンに独占させない。
「ちょ、リツさん、声が大きいっ!」
ナルセンはアクセルを踏み、発車させた。
「いやー、あらましは昨日聞きましたけどー、女の子と会おうと思って、相手が男の子だったけど可愛いから抱いちゃったって変態過ぎません?」
「そ、それは……」
わたしの言葉にハンドルを握る手を震わせながら、バックミラーをちらりと見て、おにいとアイコンタクトをかわす。
なにその通じ合ってる感。
「色々あったって言っただろ」
「男色男色の色々?」
「あのな? 前々から思ってたけど、リツの下ネタは男どん引きだからな? なんでそう躊躇なく言うんだよ。ねえ、先生」
「ボクは今まであまり聞いたことなかったから」
「……」
納得がいかない。
わたしの初体験があんなで、おにいも望まぬ男同士だから、双子そろって酷かったね、って話だと思ったら、話を聞くと充実してたっぽいのだ。日頃の行いの差だと言われたけど。
わたしの行いよりおにいの方が酷い。
「下ネタがなに? わたしになろうとしてたはずなのに、自分でお尻を開発してたってそれ目的違うじゃん。気持ちよくなろーとしてるじゃん」
「リツさん?」
ナルセンの顔色が悪い。
「リツになれば、男に惚れられるのは想定内だ。遅かれ速かれ、男に抱かれる覚悟はあった。それがリツになるってことだからな。成田先生が優しい人で良かったのは確かだが」
「セン君?」
兄妹喧嘩になれてないと不安なのか。
「まー、わたしは男に抱かれてませんけど?」
「それはリツが変態だからだろ?」
「おにいには言われたくないねー」
「二人とも、どっちもどっちだから」
「「生徒に手を出す教師が言うな!」」
わたしたちの声が揃った。
「いーよ。ナルセンが素人童貞で、わたしだと思ってた相手がおにいだったから泣いちゃって、慰められてる内にいー雰囲気になったとかはさ?」
男同士でなにやってんのとは思うけど。
「セン君、喋りすぎじゃないかな?」
ナルセンがバックミラーを睨む。
「オレがゲイだと思われるのもちょっと違うかなって感じなんで。事実は事実でしょう?」
おにいは小さく頭を下げる。
「ボクだってゲイじゃない。好きになった相手と同じ姿の男なんて普通は存在し得ないんだ。男同士だけにツボがわかっているから、こう……」
「うーわ、ゲイカップルだよー、くさいよー」
わたしは言った。
「「レズビアンがなにを!?」」
すっごい不毛だ。
「わたしはレズじゃないよ。昨日だって公園で小さい男の子捕まえておちんちん握ったし」
「なにやってんだバカか!?」
「犯罪だよそれは!?」
ハンドルがぶれて車が揺れる。
「それでその子の母親に見つかって怒られて反省して、こーしてちゃんと先生に罪の告白をしてるんじゃん。こんなわたしですけど、どーしたら真人間になれます?」
「まず真人間がわかるかどうかが問題かな」
ナルセンはぽつりとつぶやく。
「おーい。あなたが告白した美少女ですよー」
学校で会うより失礼だな、この教師。
「中身を知って好きってのはよっぽどの物好きですよ。言っとくけどリツ、オレは美化してるからね。オレの理想を作ってるからね」
「おーい。肖像権の侵害で訴えるぞー」
わたしの姿で男性教師と逢い引きしてるのはもう名誉を害するややこしい中傷なんじゃないかと思う。法律の専門家の意見が欲しい。
「ところで、三人で行く予定ではなかったのだけど、実際これからどうするつもりなのかな?」
ナルセンはちらちらとナビを見てる。
「あー、予約のお店とか?」
この辺りだと定番の海コースのようだ。深海魚とかが目玉の水族館に行って、新鮮な魚を食べる、楽しみつつ食欲に繋げて、あとは海を見てたら夜が遅くなって性欲にも繋がるパターン。
寄せては返す波はピストン運動。
「いーですよ。わたしたちで食べるんで。先生はハンバーガーでも食べて待ってくださーい」
「え?」
ナルセンは思いっきりよそ見運転。
「バカ」
おにいがわたしの頭を叩いた。
「った」
わりと拳骨なんだけど。
「心配しないでください。オレがハンバーガーでも食べて待ちますんで。ずっとリツの声真似をして食事するのはちょっとつらいんで」
「い、いや、セン君が食べてくれないと」
「だってさ、おにい。わたしと食べよーよ」
「「……」」
二人が無言になった。
「あれ? なにその感じ?」
わたしだって空気ぐらいは読める。
二人の無言の視線がなにを言いたいかぐらいはわかる。誘われた側なのになぜかデートの邪魔してる感じになってるのがだれなのかも。
「わかりました」
仕方がない。
「ナルセンにわたしの男のはじめてをあげますっ。だからおにいとご飯を食べさせて!」
「なにがわかったんだバカ」
「ったーい」
さらに拳骨が尖ったんだけど。
「三人でデートするんだから、ナルセンだって期待してるでしょ。井岡兄妹サンドイッチ」
「え? なに?」
わりと本気で怪訝な顔をされた。
「だーかーらー? ナルセンがわたしとセージョーイ。そのお尻をおにいがコーモンセイコー。美少女二人に挟まれてハフーン? でしょ?」
「……」
おにいも言葉がなかった。
「「ない」」
二人は声を揃える。
「ないって! ナルセン、わたしとしたくないの!? おかしくない? もー完全にゲイってこと? コーモンか! おにいのコーモンがいーのか! 水戸光圀か! 水戸光圀総受けか!」
「ボクのお尻はそういう場所じゃない」
「オレだって男の尻には興味がない」
二人の趣向は一致していた。
「んん」
ここまで息ピッタリだと悔しい。
「そーか! わかった! わたしとおにいがセージョーイで、おにいのお尻をナルセンがコーモンセイコーすればっ!」
妙案閃く。
「「近親相姦だよ、それ」」
二人の意見は一致していた。
「そーゆーと思った!」
仕方がないので水族館の後、おにいのお金でお寿司を食べることで妥協した。日曜日の昼間に美少女を一人寿司においやる男たちってどうかと思うんだけど、一万円くれたので許す。
「セン君、お金ならボクが」
「先生、妹のワガママですから」
なんかイチャイチャしてるのがムカつくけど。
美少女の面倒をつい見てしまうのが男。
「ふふっ」
わたしは微笑むことにする。
結局のところ、わたしという存在なくして、この二人の関係もないのだ。ワガママを拒否することもできず、この美しさの前に振り回される、愚かな男たちをこうして見つめるだけでも気持ちいいのは確かなのだから。
「あとで小遣いから引いてもらうから」
おにいは言った。
「え?」
「当たり前だろ」
「り、リボ、リボ払いはある!?」
一万円はキツい。
「バイトしろ。ヒマだから変態になるんだ」
「変態だからバイトしてるくせにっ!」
デートは騒がしくはじまった。
「え?」
ナルセンは同じワンピースを着て並んだわたしとおにいの顔を交互に見て混乱している。どっちが来ると思ってたんだろう。
「どっちを抱いたかわからない?」
「わーっ!」
わたしが言うとナルセンは口を押さえておにいを見る。その視線が熱っぽいのがすこし気持ち悪いけど、可愛いから仕方がない。
わたしそっくりで可愛い。
「デートの約束をしたのはリツですから」
おにいが言う。
「それはそうかもしれないけれども」
「まーまー、注目集めちゃうから車に乗ろー」
ナルセンの手をくぐって、わたしはさっさと助手席に座る。学校に乗ってきてる車とは違うスポーティな車だけど、たぶんレンタカー。
「ボクはもうセン君だけでも……」
運転席に座ったナルセンが言う。
「それはオレも言ったんですけどね」
ちょっと狭い運転席側の後部座席に座って、恋人みたいに耳元でささやくおにい。男として喋ってるのに変な色っぽさがあってムカつく。
「えー? 成田先生が男子生徒とコーモンセイコーしてるってどっかに書き込めばいーんですか!? 教育委員会ですかー?」
こんなおにいをナルセンに独占させない。
「ちょ、リツさん、声が大きいっ!」
ナルセンはアクセルを踏み、発車させた。
「いやー、あらましは昨日聞きましたけどー、女の子と会おうと思って、相手が男の子だったけど可愛いから抱いちゃったって変態過ぎません?」
「そ、それは……」
わたしの言葉にハンドルを握る手を震わせながら、バックミラーをちらりと見て、おにいとアイコンタクトをかわす。
なにその通じ合ってる感。
「色々あったって言っただろ」
「男色男色の色々?」
「あのな? 前々から思ってたけど、リツの下ネタは男どん引きだからな? なんでそう躊躇なく言うんだよ。ねえ、先生」
「ボクは今まであまり聞いたことなかったから」
「……」
納得がいかない。
わたしの初体験があんなで、おにいも望まぬ男同士だから、双子そろって酷かったね、って話だと思ったら、話を聞くと充実してたっぽいのだ。日頃の行いの差だと言われたけど。
わたしの行いよりおにいの方が酷い。
「下ネタがなに? わたしになろうとしてたはずなのに、自分でお尻を開発してたってそれ目的違うじゃん。気持ちよくなろーとしてるじゃん」
「リツさん?」
ナルセンの顔色が悪い。
「リツになれば、男に惚れられるのは想定内だ。遅かれ速かれ、男に抱かれる覚悟はあった。それがリツになるってことだからな。成田先生が優しい人で良かったのは確かだが」
「セン君?」
兄妹喧嘩になれてないと不安なのか。
「まー、わたしは男に抱かれてませんけど?」
「それはリツが変態だからだろ?」
「おにいには言われたくないねー」
「二人とも、どっちもどっちだから」
「「生徒に手を出す教師が言うな!」」
わたしたちの声が揃った。
「いーよ。ナルセンが素人童貞で、わたしだと思ってた相手がおにいだったから泣いちゃって、慰められてる内にいー雰囲気になったとかはさ?」
男同士でなにやってんのとは思うけど。
「セン君、喋りすぎじゃないかな?」
ナルセンがバックミラーを睨む。
「オレがゲイだと思われるのもちょっと違うかなって感じなんで。事実は事実でしょう?」
おにいは小さく頭を下げる。
「ボクだってゲイじゃない。好きになった相手と同じ姿の男なんて普通は存在し得ないんだ。男同士だけにツボがわかっているから、こう……」
「うーわ、ゲイカップルだよー、くさいよー」
わたしは言った。
「「レズビアンがなにを!?」」
すっごい不毛だ。
「わたしはレズじゃないよ。昨日だって公園で小さい男の子捕まえておちんちん握ったし」
「なにやってんだバカか!?」
「犯罪だよそれは!?」
ハンドルがぶれて車が揺れる。
「それでその子の母親に見つかって怒られて反省して、こーしてちゃんと先生に罪の告白をしてるんじゃん。こんなわたしですけど、どーしたら真人間になれます?」
「まず真人間がわかるかどうかが問題かな」
ナルセンはぽつりとつぶやく。
「おーい。あなたが告白した美少女ですよー」
学校で会うより失礼だな、この教師。
「中身を知って好きってのはよっぽどの物好きですよ。言っとくけどリツ、オレは美化してるからね。オレの理想を作ってるからね」
「おーい。肖像権の侵害で訴えるぞー」
わたしの姿で男性教師と逢い引きしてるのはもう名誉を害するややこしい中傷なんじゃないかと思う。法律の専門家の意見が欲しい。
「ところで、三人で行く予定ではなかったのだけど、実際これからどうするつもりなのかな?」
ナルセンはちらちらとナビを見てる。
「あー、予約のお店とか?」
この辺りだと定番の海コースのようだ。深海魚とかが目玉の水族館に行って、新鮮な魚を食べる、楽しみつつ食欲に繋げて、あとは海を見てたら夜が遅くなって性欲にも繋がるパターン。
寄せては返す波はピストン運動。
「いーですよ。わたしたちで食べるんで。先生はハンバーガーでも食べて待ってくださーい」
「え?」
ナルセンは思いっきりよそ見運転。
「バカ」
おにいがわたしの頭を叩いた。
「った」
わりと拳骨なんだけど。
「心配しないでください。オレがハンバーガーでも食べて待ちますんで。ずっとリツの声真似をして食事するのはちょっとつらいんで」
「い、いや、セン君が食べてくれないと」
「だってさ、おにい。わたしと食べよーよ」
「「……」」
二人が無言になった。
「あれ? なにその感じ?」
わたしだって空気ぐらいは読める。
二人の無言の視線がなにを言いたいかぐらいはわかる。誘われた側なのになぜかデートの邪魔してる感じになってるのがだれなのかも。
「わかりました」
仕方がない。
「ナルセンにわたしの男のはじめてをあげますっ。だからおにいとご飯を食べさせて!」
「なにがわかったんだバカ」
「ったーい」
さらに拳骨が尖ったんだけど。
「三人でデートするんだから、ナルセンだって期待してるでしょ。井岡兄妹サンドイッチ」
「え? なに?」
わりと本気で怪訝な顔をされた。
「だーかーらー? ナルセンがわたしとセージョーイ。そのお尻をおにいがコーモンセイコー。美少女二人に挟まれてハフーン? でしょ?」
「……」
おにいも言葉がなかった。
「「ない」」
二人は声を揃える。
「ないって! ナルセン、わたしとしたくないの!? おかしくない? もー完全にゲイってこと? コーモンか! おにいのコーモンがいーのか! 水戸光圀か! 水戸光圀総受けか!」
「ボクのお尻はそういう場所じゃない」
「オレだって男の尻には興味がない」
二人の趣向は一致していた。
「んん」
ここまで息ピッタリだと悔しい。
「そーか! わかった! わたしとおにいがセージョーイで、おにいのお尻をナルセンがコーモンセイコーすればっ!」
妙案閃く。
「「近親相姦だよ、それ」」
二人の意見は一致していた。
「そーゆーと思った!」
仕方がないので水族館の後、おにいのお金でお寿司を食べることで妥協した。日曜日の昼間に美少女を一人寿司においやる男たちってどうかと思うんだけど、一万円くれたので許す。
「セン君、お金ならボクが」
「先生、妹のワガママですから」
なんかイチャイチャしてるのがムカつくけど。
美少女の面倒をつい見てしまうのが男。
「ふふっ」
わたしは微笑むことにする。
結局のところ、わたしという存在なくして、この二人の関係もないのだ。ワガママを拒否することもできず、この美しさの前に振り回される、愚かな男たちをこうして見つめるだけでも気持ちいいのは確かなのだから。
「あとで小遣いから引いてもらうから」
おにいは言った。
「え?」
「当たり前だろ」
「り、リボ、リボ払いはある!?」
一万円はキツい。
「バイトしろ。ヒマだから変態になるんだ」
「変態だからバイトしてるくせにっ!」
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