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トイレ(深海魚)
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「おいしそー」
エビを見て。
「これ食べられる?」
タコを見て。
「これはムリだー」
ムシっぽいのを見て。
水族館で即物的なことばかり言ってたら、おにいもナルセンもわたしを無視して二人で楽しみはじめた。行ってみて気づいたけど、わたし、あんまり海の生き物に興味ない。
本気でデートだったら退屈してたな。
「これはヤドカリって名前だけど、一緒に成長するから引っ越しはしないんだ」
ナルセンは子供みたいに目を輝かせて、生き物のひとつひとつを説明する。ぶっちゃけ聞き手を見ていない。完全に自分の趣味だ。
それはそれだけど。
「いいですね。イガクリホンヤドカリ」
おにいと二人でキャッキャしながらヒトデだのドンコだのトリノアシだの、わりと薄気味悪い系深海生物をじっくり見てる姿は男子二人に戻っちゃっててもうデートでもなんでもない。
男の世界に入ってるじゃん。
「テヅルモヅル!」
「テヅルモヅル!」
興奮するポイント意味わかんない。
「ヌタウナギ」
わたしは白い長い粘液を吐いて窒息させる生き物を見つめながら、おにいのおちんちんを思い出していた。ぜんぜんちがうんだけど、一緒にシャワーを浴びて、なんかいざとなったらじっくり見なかったことを後悔してる。
キスしちゃったから。
「……」
凄かった。
ミコシーやヒロヒロとしたのとは違って、本当に唇を重ねただけだったけど、わたしはもうなにも考えられなくなってた。すぐ終わっちゃって、すっごい物足りなくて、たまらなくなってる。
やっぱおにいを犯そう。
脱いだらおにいは引き締まってた。
いつ調べたのかわからないけど、わたしの体重に合わせたら体脂肪率が10%を切ったらしい。腕が隠せる長袖の季節まで女装を待たないと、ちょっとゴツく見えるとかなんとか。
男のカッコでいればいいのに。
「この貝は柔らかくて割れやすいらしいよ?」
「繊細そうな形ですもんね」
女装して、わたしの仕草で、水槽の底をのぞき込んでるおにいのお尻を凝視する。実はバッグにペニスバンドを入れてきている。どこかでチャンスを見計らって使おう。ナルセンだけに独占はさせない。
キスをすぐ終わらせた理由はわかってる。
おにいも気持ちよかったからだ。
あのままつづけてたら自制心を失いそうだから、わたしから逃げようとしてる。それこそゲイカップルになってでも逃げようとしてる。そんなの双子だからわかっちゃう。わかっちゃうのだ。
たぶんスカートの下、パンツの中は。
「リツ」
不意に、おにいが振り返ってわたしを見る。
様子が変だ。
「ちょっと、頼みたいことが……」
「!」
ピンと来た。
「「トイレ」」
声が揃ってしまう。
流石に、井岡センという存在が知られてないこの観光施設の男子トイレを使っては、わたしへの問題が生じるということを思い出したらしい。
おにいにしてはうっかりミスだ。
「悪いんだけど、女子トイレの中を確認してくれ、他の利用客がいないタイミングで入りたい。いやもう、なんというか」
小声で言いながらおにいは俯く。
「素知らぬ顔して入った方がいやらしくないと思うけどねー。意識してる時点で、もー期待しちゃってんじゃん。変態なんだからー」
わたしはからかう。
「言うなよ。さっと済むから、男だから」
薄暗い水族館の中にひっそりと佇むトイレ、日曜日だけあって利用客は多いが、それほど大きな水族館でもないので比較的空いてるようだ。
チャンス。
「見てくるねー」
わたしは邪な笑みを浮かべながらトイレをチェック、利用客はいない。清掃中の立て札が掃除用具ロッカーに入っていることを確認、待たせているナルセンが不審に思おうとも、女子トイレは女子の聖域である。
「だれもいないよー」
「悪いっ」
おにいは小走りにトイレに走る。
「ふふっ」
わたしは後から追いかけて、入り口のそばまで持ってきていた清掃中の立て札を出し、ゆるりと中に入る。そこそこちゃんとした施設なので個室はちゃんと個室だ。
「リ、っ!?」
しばらく待って出てきたところを、中に押し込む。すぐさま鍵をかける。なんでも経験しておくものだ。スムーズにことが進む。まさきの時と違うことはひとつ、相手も高校生だってこと。
判断力のない子供相手じゃない。
「おい、なにやって……」
「声を出さない方がよくない?」
わたしが一方的に悪者にはならない状況。
「あ、のな? 家じゃないんだ」
おにいは小声で言う。
「見つかったらオレも終わりだけど、リツだって無事って訳にはいかないんだからな。水族館で双子の兄妹がなんて、重大事件がなきゃ全国ニュースだぞ? 先生にだって迷惑が」
「キスして」
わたしは言った。
「そしたらすぐ出てっていーよ」
「リツ、オレはそういう冗談は好きじゃ」
おにいが真顔になった。
「しないなら、お尻にこれを挿したまま」
間髪入れずにバッグをまさぐる。
「します」
冗談じゃないことはよく伝わったようだ。
「ん」
わたしはドアを背にして目を瞑る。
「なんなんだ。まったく」
納得はしてないようでぶつぶつ言いながらも、おにいはわたしに顔を近づける。触ろうとしないのは手を洗ってないからか、触ると止まれないからか、後者であってほしいと思う。
だって、わたしは今すぐしゃぶれる。
でも我慢だ。
「あ」
粘膜と粘膜が触れ合った瞬間、頭の上に飛び出した歓喜にわたしの身体は深海生物みたいに圧迫された。もう真っ暗な砂の上を歩く魚になってもいい。大好き、大好きすぎ。
「これで、いいだろ」
おにいはぶっきらぼうに言った。
「うん」
わたしは素直にドアを譲る。
「時間をおいて出ろよ。混乱させるから」
「トイレしてく」
わたしは満足していた。
強引に結果だけを求めちゃいけない。ひとつひとつ、小さな要求をおにいに実行させる。それが最後の一線へと繋がっていく。お互いにわかっているはず。
「えはぁ」
便座の蓋をあけて、おにいの残り香を嗅ぐ。
「溶けるぅ」
ヤバい。
もう完全にヤバい。
歯止めが効かない。わたしの身体に残ってる異物感をおにいでリライトしたい。ナルセンになんかやらない。他のだれにもやらない。
わたしのだ。
わたしのおにいで、おにいはわたしなんだ。
それからおにいにペッタリとはりついて水族館を回った。外見上は女の双子だからベタベタしててもそれほど奇異には見えない。男女の双子として育ったからやったことなかったけど、これは素晴らしい役得だ。
「……」
ナルセンは怪訝な顔をしてたけど。
「じゃ、昼、悪いけど」
「うん。いってらっしゃーい」
男二人はたっぷりと水族館を堪能したようで、ああでもないこうでもないと海の生き物トークで盛り上がりながら予約のお店に向かう。
中華料理らしい。
「ふぅ」
結果的には助かった。
「レンタカーのシートを汚すとまずいもん」
お寿司の前にパンツを履き替えないと。勝負用に予備を持ってきて良かった。うっかりしてたらペニスバンドで過ごすことになってた。それは流石に女子としてアウトだと思う。
しばらくはキスだけでもいいかな。
「……」
公衆トイレで手を洗いながら、わたしは自分のボヤッとしすぎた顔を見て思う。なかなか刺激が強い。うっかりすると純愛じゃなくて痴女の類だと思われてしまう。
美しい双子の恋にしなきゃ。
ムードが大事なんだ。
雰囲気を盛り上げないと、おにいの常識と理性の壁を打ち壊せない。でも心配はしてない。しっかりものほど、しっかりデキ婚するものだから。一度の過ちを一生背負ってくれる。
「ならんでるなー」
回転寿司だけど職人が握ってるお店の行列に並びながら、わたしは次の作戦を考える。トイレのチャンスはまだあるはず。だけど、場所的に変態度が高めで、ムードが弱い。
双子のメリットをもっと生かさねば。
しばらく考えていると、二十分ほどで行列の先頭まで来る。日曜日のお昼時、もっと待つかと思ったけど、客の回転も悪くないみたいだ。
いい値段のネタあるもん。
「三名様どうぞ」
「さん?」
あれ、わたし先頭じゃ。
「行きますわよ。リツさん」
「深海魚ネタあるって。リッちゃん」
「……」
両側から腕を組んで二匹の女豹が微笑んだ。
エビを見て。
「これ食べられる?」
タコを見て。
「これはムリだー」
ムシっぽいのを見て。
水族館で即物的なことばかり言ってたら、おにいもナルセンもわたしを無視して二人で楽しみはじめた。行ってみて気づいたけど、わたし、あんまり海の生き物に興味ない。
本気でデートだったら退屈してたな。
「これはヤドカリって名前だけど、一緒に成長するから引っ越しはしないんだ」
ナルセンは子供みたいに目を輝かせて、生き物のひとつひとつを説明する。ぶっちゃけ聞き手を見ていない。完全に自分の趣味だ。
それはそれだけど。
「いいですね。イガクリホンヤドカリ」
おにいと二人でキャッキャしながらヒトデだのドンコだのトリノアシだの、わりと薄気味悪い系深海生物をじっくり見てる姿は男子二人に戻っちゃっててもうデートでもなんでもない。
男の世界に入ってるじゃん。
「テヅルモヅル!」
「テヅルモヅル!」
興奮するポイント意味わかんない。
「ヌタウナギ」
わたしは白い長い粘液を吐いて窒息させる生き物を見つめながら、おにいのおちんちんを思い出していた。ぜんぜんちがうんだけど、一緒にシャワーを浴びて、なんかいざとなったらじっくり見なかったことを後悔してる。
キスしちゃったから。
「……」
凄かった。
ミコシーやヒロヒロとしたのとは違って、本当に唇を重ねただけだったけど、わたしはもうなにも考えられなくなってた。すぐ終わっちゃって、すっごい物足りなくて、たまらなくなってる。
やっぱおにいを犯そう。
脱いだらおにいは引き締まってた。
いつ調べたのかわからないけど、わたしの体重に合わせたら体脂肪率が10%を切ったらしい。腕が隠せる長袖の季節まで女装を待たないと、ちょっとゴツく見えるとかなんとか。
男のカッコでいればいいのに。
「この貝は柔らかくて割れやすいらしいよ?」
「繊細そうな形ですもんね」
女装して、わたしの仕草で、水槽の底をのぞき込んでるおにいのお尻を凝視する。実はバッグにペニスバンドを入れてきている。どこかでチャンスを見計らって使おう。ナルセンだけに独占はさせない。
キスをすぐ終わらせた理由はわかってる。
おにいも気持ちよかったからだ。
あのままつづけてたら自制心を失いそうだから、わたしから逃げようとしてる。それこそゲイカップルになってでも逃げようとしてる。そんなの双子だからわかっちゃう。わかっちゃうのだ。
たぶんスカートの下、パンツの中は。
「リツ」
不意に、おにいが振り返ってわたしを見る。
様子が変だ。
「ちょっと、頼みたいことが……」
「!」
ピンと来た。
「「トイレ」」
声が揃ってしまう。
流石に、井岡センという存在が知られてないこの観光施設の男子トイレを使っては、わたしへの問題が生じるということを思い出したらしい。
おにいにしてはうっかりミスだ。
「悪いんだけど、女子トイレの中を確認してくれ、他の利用客がいないタイミングで入りたい。いやもう、なんというか」
小声で言いながらおにいは俯く。
「素知らぬ顔して入った方がいやらしくないと思うけどねー。意識してる時点で、もー期待しちゃってんじゃん。変態なんだからー」
わたしはからかう。
「言うなよ。さっと済むから、男だから」
薄暗い水族館の中にひっそりと佇むトイレ、日曜日だけあって利用客は多いが、それほど大きな水族館でもないので比較的空いてるようだ。
チャンス。
「見てくるねー」
わたしは邪な笑みを浮かべながらトイレをチェック、利用客はいない。清掃中の立て札が掃除用具ロッカーに入っていることを確認、待たせているナルセンが不審に思おうとも、女子トイレは女子の聖域である。
「だれもいないよー」
「悪いっ」
おにいは小走りにトイレに走る。
「ふふっ」
わたしは後から追いかけて、入り口のそばまで持ってきていた清掃中の立て札を出し、ゆるりと中に入る。そこそこちゃんとした施設なので個室はちゃんと個室だ。
「リ、っ!?」
しばらく待って出てきたところを、中に押し込む。すぐさま鍵をかける。なんでも経験しておくものだ。スムーズにことが進む。まさきの時と違うことはひとつ、相手も高校生だってこと。
判断力のない子供相手じゃない。
「おい、なにやって……」
「声を出さない方がよくない?」
わたしが一方的に悪者にはならない状況。
「あ、のな? 家じゃないんだ」
おにいは小声で言う。
「見つかったらオレも終わりだけど、リツだって無事って訳にはいかないんだからな。水族館で双子の兄妹がなんて、重大事件がなきゃ全国ニュースだぞ? 先生にだって迷惑が」
「キスして」
わたしは言った。
「そしたらすぐ出てっていーよ」
「リツ、オレはそういう冗談は好きじゃ」
おにいが真顔になった。
「しないなら、お尻にこれを挿したまま」
間髪入れずにバッグをまさぐる。
「します」
冗談じゃないことはよく伝わったようだ。
「ん」
わたしはドアを背にして目を瞑る。
「なんなんだ。まったく」
納得はしてないようでぶつぶつ言いながらも、おにいはわたしに顔を近づける。触ろうとしないのは手を洗ってないからか、触ると止まれないからか、後者であってほしいと思う。
だって、わたしは今すぐしゃぶれる。
でも我慢だ。
「あ」
粘膜と粘膜が触れ合った瞬間、頭の上に飛び出した歓喜にわたしの身体は深海生物みたいに圧迫された。もう真っ暗な砂の上を歩く魚になってもいい。大好き、大好きすぎ。
「これで、いいだろ」
おにいはぶっきらぼうに言った。
「うん」
わたしは素直にドアを譲る。
「時間をおいて出ろよ。混乱させるから」
「トイレしてく」
わたしは満足していた。
強引に結果だけを求めちゃいけない。ひとつひとつ、小さな要求をおにいに実行させる。それが最後の一線へと繋がっていく。お互いにわかっているはず。
「えはぁ」
便座の蓋をあけて、おにいの残り香を嗅ぐ。
「溶けるぅ」
ヤバい。
もう完全にヤバい。
歯止めが効かない。わたしの身体に残ってる異物感をおにいでリライトしたい。ナルセンになんかやらない。他のだれにもやらない。
わたしのだ。
わたしのおにいで、おにいはわたしなんだ。
それからおにいにペッタリとはりついて水族館を回った。外見上は女の双子だからベタベタしててもそれほど奇異には見えない。男女の双子として育ったからやったことなかったけど、これは素晴らしい役得だ。
「……」
ナルセンは怪訝な顔をしてたけど。
「じゃ、昼、悪いけど」
「うん。いってらっしゃーい」
男二人はたっぷりと水族館を堪能したようで、ああでもないこうでもないと海の生き物トークで盛り上がりながら予約のお店に向かう。
中華料理らしい。
「ふぅ」
結果的には助かった。
「レンタカーのシートを汚すとまずいもん」
お寿司の前にパンツを履き替えないと。勝負用に予備を持ってきて良かった。うっかりしてたらペニスバンドで過ごすことになってた。それは流石に女子としてアウトだと思う。
しばらくはキスだけでもいいかな。
「……」
公衆トイレで手を洗いながら、わたしは自分のボヤッとしすぎた顔を見て思う。なかなか刺激が強い。うっかりすると純愛じゃなくて痴女の類だと思われてしまう。
美しい双子の恋にしなきゃ。
ムードが大事なんだ。
雰囲気を盛り上げないと、おにいの常識と理性の壁を打ち壊せない。でも心配はしてない。しっかりものほど、しっかりデキ婚するものだから。一度の過ちを一生背負ってくれる。
「ならんでるなー」
回転寿司だけど職人が握ってるお店の行列に並びながら、わたしは次の作戦を考える。トイレのチャンスはまだあるはず。だけど、場所的に変態度が高めで、ムードが弱い。
双子のメリットをもっと生かさねば。
しばらく考えていると、二十分ほどで行列の先頭まで来る。日曜日のお昼時、もっと待つかと思ったけど、客の回転も悪くないみたいだ。
いい値段のネタあるもん。
「三名様どうぞ」
「さん?」
あれ、わたし先頭じゃ。
「行きますわよ。リツさん」
「深海魚ネタあるって。リッちゃん」
「……」
両側から腕を組んで二匹の女豹が微笑んだ。
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