わたおに(家内円満)

狐島本土

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おにわた(マゾサド)

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「オレは、リツに嫌われたいんだ」

 わたしがなにかを言う間もなかった。

「嫌われないと、おかしくなる。いや、もうおかしいんだ。嫌われるために女装までしたのに、こんなんじゃいけないんだよ」

「はぅっ……」

 おにいはこっちを見て、腰を動かしはじめる。タケシが呻いたので、わたしはその口を手で押さえた。ちょっと邪魔だから。

「見ろ。ほら、気持ち悪いだろ? 男なんか好きでもないのに、こんなことして気持ち良くなってる。アナルセックス最高。そんなオレが双子の兄なんだぞ? リツ、嫌いだろ? そう言ってくれよ」

「……」

 わたしはなにも言わなかった。

「正直に告白するよ。リツのフリして成田先生のアレを握りながら、オレもイってた。なりきってるだけで、気持ち良すぎる。だから、本当は拒否だってできたのに受け入れた。今日だって、してきたんだぜ? 信じられるか? 男二人でラブホテルに行ってさ?」

「わたしだって女三人で行ったよ」

 なんの自慢にもならない。

「ぼもっ!」

 タケシが過剰反応したのでおしりに体重をかけて黙らせる。いいところなんだから、おちんちん勃てて黙ってればいいんだよ豚野郎。

 肉バイブなんだよ。

「あの、後か? なんでそんな? リツ、二人に犯されたんだぞ? なんでそんな普通に付き合ってるんだ? それじゃまるでビッチじゃないか? 異常だ。変態だ。そんな妹、オレはいやだ」

「この状況でわたしがビッチかどーか? おにいの正常も異常と変わんないよー? 男と繋がりながらなに言ってんの?」

「オレはリツを守るために」

「わかってるよ」

 わたしは頷く。

「わかってるから、こーやって、タケシを利用しておにいが正直になれるよーにしてんじゃん。わかんない?」

 バカなんじゃないかと思う。

「女装してたって、アナルセックス最高だって、それこそわたしをレイプした女をけしかけたって、おにいのことを嫌いになったりしない。そー言ってんの」

「……」

 おにいは首を振った。

「そこまで近親相姦が嫌なの? そこまで?」

 ずっと理解できない。

「わたしが仮にレズビッチなら、おにいがホモビッチだし、もー十分、世間がうんざりするぐらい変態で、そこに近親相姦が加わったからってなんなの?」

「リツ、オレは」

 おにいが反論しようとした。

 聞きたくない。

「その一線に意味ある? なにを守ってるの? なにが守れるの? わたしを守りたいなら、わたしだけを抱いてよ。わたしだけに抱かれてよ。最初からそーすれば良かったのに。最初からそーして欲しかったのに。なんでこんな遠回りをしてるの? なんでこんな遠回りをしなきゃいけないの? 教えてよ」

「わからない」

 おにいは静かに腰を回した。

「わからないって、ここまできて……」

「答えを濁してる訳じゃない。わからないんだ。変態であることは他人に迷惑をかけない限り許される。だが、許されない変態もいる。たとえばロリコンがそうだ。彼らは、もうその嗜好を持った時点で、社会から性的に弾かれてしまう。罪を犯さない限り、決して満たされることはない。だが、それはある意味で幸せなことだ」

「?」

 腰を振りながらなにを言ってるんだろう。

 セックス中に説教する人?

「近親相姦は、罪じゃない」

 おにいは静かに言う。

「少なくとも、それは単なる社会通念上の禁忌でしかない。許される変態が犯しているものと同じであるはずだ。だが、許されない。これはハッキリしてる。罪ではないはずなのに、人々はそれを許容できない。ほかの変態のように、いていいものとしては受け入れられないんだ」

「そーかなー?」

 わたしには納得できない話だ。

「でも、受け入れられないなら受け入れられないでいーじゃん。受け入れられる必要ないし、わたしたちが幸せになれば十分じゃん」

「オレは子供が欲しい」

 おにいは言った。

「両親には孫を抱かせてやりたい」

「産むよ、わたし」

 まったく同感だ。双子とか関係なく。

「そう言うだろうとは思ったよ。だが、産まれた子供が双子の兄妹が両親であることを受け入れられるか? 受け入れさせられるか?」

 おにいは真剣に見つめてくる。

「そー生まれちゃったら仕方ないじゃん」

 世間がどうとか言っても、両親が変態だったんだから仕方がない。わたしたちと一緒だ。そこになければ生まれえない命だった。まだ見ぬわたしたちの子供にとってそれはどうしようもない。

 運命とはそういうことのはずだ。

「健康体なら、それで済む」

 おにいは言う。

「だが、ひとつでも身体に問題が、それがたとえ花粉症であれ、ハゲであれ、脚の指の形が気に入らない、鼻の形が気に入らない、つむじの位置が気に入らない、そんなことがあれば、即座におれたちを恨むようになる」

「恨まれても」

 そんなこと言ったら、美少女か美少年に生まれもせず、美女か美男にも育たない世間の多くの一般人は親を恨んでいるとでも言うのだろうか。頭おかしいんじゃないだろうか。

「近親相姦は禁忌だ」

「それは聞いたよ」

「禁忌を犯した人間は、それとの関連の有無に関わらず、永久に禁忌から逃れられない。逮捕もされず、裁かれない異端者に安住の地などない。わかるか? 子供だけじゃない、仕事をしても、食事をしても、息をしても、死んでも、あらゆる人生の一瞬一瞬に、それがついてまわる、うっ」

 おにいは射精した。

 スカートに染みが広がる。

 わたしの下で、タケシがぐったりする。

 妹の目の前でこんなことしてて、この会話になんの説得力があるのかもはや意味不明だと思う。だけど、それでもおにいは喋るのをやめないみたいだった。その精神力がもう変態だ。マゾヒスティックだ。

「ァ、あ、ロリコンは逮捕される。だが、それが真実の愛であれば、彼には出所後にロリでなくなった相手と結ばれる道もある。かつてはロリでも、適法な年齢に達すればそれはただの恋愛だ。禁止されているのが幸せだと言ったのはそういう意味だ。償うことができる。許しも与えられる。近親相姦にはそれがない」

「別にいーじゃん」

 わたしは首を振った。

「許されなくったって。子供に恨まれたって。わたしたちの人生なんだから、わたしたちが幸せになることがユーセンでしょ? 逮捕されないんだしさー、罪も犯してないんだしさー、勝手に楽しく生きればいーじゃん」

 特に宗教でどうこうってこともない。

 日本の神様は最初から近親相姦だし、外国の神話だって似たようなものだ。アダムとイブだって肋骨かなんかなんだから自分としたようなもので、それが原罪だって信じてるだけのこと、イスラムに至っては近親婚ありのはず。

「自分をそう納得させてるだけだ」

 けど、おにいは頑なだった。

「オレには確信がもてない。わからない。怖いんだよ。普通の恋愛でもそりゃ後悔は起こる。別れだってある。でもさ? オレたちの間にそれが怒ったら、双子であることから全否定なんだ。想像してくれよ。なにもかもだ。生まれたことから、兄妹として育ったこと、そして結ばれたこと、そのすべてが、恋愛の失敗で、そして人生の失敗ですべて否定される。そんな関係は恐ろしいよ」

「……」

 わたしは無言でおにいを見つめた。

 タケシと繋がっていた部分がはずれて、おにいはすこしわたしに近づいている。匂いがする。少し前、おにいの部屋で嗅いだことのある匂いだ。これがそうだった。その匂いだ。

「うん。そーだね」

 決めた。

「わかってくれたか?」

 おにいが、少しホッとした表情をする。

「わかった」

 わたしは頷く。

「おにい、絶望して?」

 答えは出ていた。

「な」

「幸せになんなくてもいーや。うん。幸せになりたいから恋愛するとか、そもそも、そんな平凡なこと考えてなかったんだった。わたしが欲しいのは禁断の恋。おにいが後悔して不幸になるなら、それをちゃんと最後まで見ててあげる。ド・サドだから、そんなおにいでわたしは気持ち良くなる。それでいーんだよ」

 わたしは言いながら、おにいに抱きついた。

「ま、待て、なにもよくないぞ」

「おにいはマゾでしょ?」

 そしてわたしはサド。

 すべて丸く収まる。憂うことなんてない。
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