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第七章―梅雨時のたはむれ
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しおりを挟む昨日、都の菓子処で買った菓子を与一の部屋で食べながら、与一と左近は新作の合作仕掛け罠の設計談義に盛り上がりを見せていた。
完全に寝転がり、足をぱたぱたと上下させながら設計図を覗く二人の耳に、こちらに迫り来る荒い足音が聞こえてくる。
菓子箱をどこかへ隠している時間はない。与一が慌てて上衣を脱ぎ、傍に置いている菓子箱に被せた。
それと同時に戸が開き、何やらすでにご立腹の菊がゆらりと部屋に入ってくる。
二人はにへらと笑って誤魔化すものの、すぐに菓子の在り処に気づかれてしまった。
その後、四半刻程みっちりと正座で説教を受け、仕事に戻るという菊について食堂の方へとやって来た。
「まったく! 今度やったら本当に榊先生に言いつけるからね!?」
「えぇーっ」
「えーじゃない!」
雛達には、ある時は姉、またある時は母のように優しく親切なお菊も、同年代の左近達には昔から容赦というか遠慮がない。自然と口調も他よりも強いものになっていた。
食堂へ入る前に、左近がちらりと食堂の窓から中を覗き、準備が整っていることを確かめる。どうやら間に合ったようで、中では今か今かと皆が待ち構えている様子が窺えた。
「まぁ、落ち着いてよ。さ、中に入ろう」
「ほら早くー」
「ちょっと。押さないで」
左近がお菊の背を押し、与一と一緒に中へと足を踏み入れる。
そこには非番の八咫烏と雛達、そして手の空いている師達が集まっていた。
状況が掴めず、ぽかんとするお菊。
左近と与一はといえば、その隣でしてやったりとほくそ笑んでいる。
「せーの」
「「おきくさん、いつもありがとう!」」
「これからもよろしくお願いします!」」
わらわらと集まる雛達の大合唱が食堂内に響き渡った。
お菊は驚きで目を何度も瞬かせている。
「ど、どうしたの? これ」
「以之梅の宝探しに乗じてちょっとね。さ、君達」
左近に促された以之梅の子供達が、主水達が持ってきた花束や花冠、菓子箱をお菊に差し出した。
「これ、ぼくたちがつんできました!」
「おいしいごはんとかのおれい!」
「こっちは、せんぱいたちがかってきました!」
「俺達、来年には任務で里の外に出てしまうので、今までのお礼も兼ねて、です」
「もうしばらくしたら忙しくなるから、その前にと思って」
「あと、これからも里に戻ってきた時、美味しいご飯お願いします! ってことで」
「そう。……本当に、ありがとう。」
お菊がそれらを宝のように両手でそっと受け取り、とても嬉しそうに微笑む。
主水達や以之梅の子供達だけでなく、この場にいる全員がお菊が作る食事や洗濯、掃除など様々な恩恵に与っているので、お菊のこの喜びようは何よりのことであった。
しばらくすると、雛達は以之梅を残し、皆、講義や鍛錬に戻っていく。八咫烏や師達もそれぞれ自分達の役目があるからと、名残惜し気に立ち去っていった。
気づけば、食堂に残っているのは以之梅と宮彦、左近に隼人、団次にお菊だけとなっていた。
すると、この時を待っていたと言わんばかりの左近が、子供達に花冠を頭に乗せられている真っ最中のお菊に声をかけた。
「例の預けてたやつだけど」
「もういいの?」
「うん。これで宝探しはおしまいだから」
「「え!?」」
大変な問題もたくさんあったとはいえ、いざ終わってしまうとなると少し寂しいものがある。
とうとう迎える終わりに、子供達としても複雑な気持ちだった。
しかし、食堂の奥、お菊が普段就寝時に使っている小部屋から持ってきた物を見ると、その考えはたちまち吹き飛んでいったようだ。
「はい、これ。前に約束してたでしょう?」
「……これ、なんですか?」
「ほら、南蛮のお菓子だよ。金平糖って言うんだ。前に、学び舎まで走って帰れたら、異国渡りの菓子を作ってあげるって言ってたでしょう? 僕が作ったのじゃないけど、そこは勘弁して。それと、宝探しの宝の代わりも兼ねてるから……って、もう聞いてないか」
金平糖という言葉に、さっと表情を変えた隼人と団次、そしてお菊に、子供達は気づかない。
彼らは左近の話も半ばに、ありがとうございます!と元気な声でお礼を言って頭を下げ、めいめい座り込んでその小箱の中を覗き込んでいる。
恐る恐る小箱に入った一粒を掴み取り、一斉に口に放り込むと、途端に目を見張った。
「あまーい!」
「ちょっとごつごつしてるけど、おいしいね」
「なんこでもたべられそう!」
「ひとりでなんこもはだめだからな!?」
「みや、みやね、これすきっ」
すっかり金平糖の虜になっている子供達を見ていると、左近も取り寄せた甲斐があるというものだ。
「そうそう、今までの宝探しの紙は後でもらうからね?」
「「はぁーい」」
きっと今頃、宗右衛門と小太朗、利助の部屋には今までの問いが書かれた紙が大量に置かれていることだろう。三人に限って失くしてしまうなんてことはないとは思うが、早めに回収するに越したことはない。
それに、自分がいない間にどれくらい見て、聞いて、学んだかも知っておきたいところだ。
きちんと話を聞いているか怪しい子供達の生返事を聞いて、肩を竦めつつ自分も湯呑に口をつけた左近の周囲に、隼人ら大人達が集まった。
「南蛮菓子なんて高級品、どうしたんだ?」
子供達に聞かれないよう、隼人が声を潜めて尋ねる。その表情は酷く険しい。
それもそのはず。なにせ、たった一粒で金塊と交換できてしまうような代物なのだ。
南蛮菓子、それも砂糖をふんだんに使った金平糖は、それこそ自分達が仕える皇家や織田家などの大名への贈答品の中でも群を抜いた高級品。自分達のような者が個人的に手を出せるようなものでは到底ない。
隼人達の当然の疑問に、左近は薄い笑みを目と口元に浮かべた。
「ちょっと、前の任務先で色々あって。大丈夫だよ。正当な取引だったから」
眉を寄せたままの三人に、左近はそう言って子供達の方へと視線を逸らしてしまう。わざわざ任務先でと話したということは、それ以上語る気がないのだろう。
左近は掌こそ今までの鍛錬の証が見て取れるが、それ以外は元々筋肉がつきにくいらしく、細身で中性的でもある。本人もそれを昔から気にしているから誰も口にしないようにしているが、忍びとしての任務では目的のためなら手段も選ばない。
だからこそ、余計に勘ぐってしまうこともあるというに。
「……頼むから、あまり無茶はするなよ?」
「分かってる」
あからさまな拒絶に、隼人達もそれ以上は口を噤むしかなかった。
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