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第一章
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しおりを挟む約束した翌日。
薔薇園で考えていたダイエットメニューも含めたものの中からいくつか厳選し、紙にまとめたものを持って私は王宮を訪れていた。
顔馴染みの女官に案内された一室でベルナールを待つことになる。家から連れてきた侍女は続き部屋に通され、今この部屋にいるのは私一人きり。
部屋の窓際にある毛足の長い長椅子に腰かけて背を預け、少しの間、目を閉じることにした。
「……ふぅ」
二人とも痩せたらこの婚約は破棄する。
昨日、夕食を食べ終わってから談話室に移り、家族だけの時間を過ごしていた時。ふとお父様とお母様には先に話しておかなければと思い立ち、淡々と事実のみを説明した。お母様は驚きのあまり身体をよろめかせ、お父様の腕に支えられてやっと身体を起こしていた。一方のお父様はというと、じっと目を見つめてきた。
『後悔はしないんだね?』
『……えぇ。元々ベルナールは弟みたいなものだったし。お互いに運命の相手は別にいるのよ、きっと』
お父様とお母様はこの貴族社会において珍しい恋愛結婚だった。だから多少は理解してくれるのか、私の言葉にお父様は溜息をついて肩を竦ませ、好きにしなさいと言ってくれた。
まだ十二歳だし、ここで婚約破棄したとしても結婚適齢期はもう少し先だ。お互いが求めた上での破棄なので、今後の婚約にも影響がないと判断してくれたんだろう。後は娘可愛さであって欲しいけど、それならベルナールと婚約を結ぶときにその可愛がりっぷりで娘は誰にもやりません的なものを発揮してほしかったと思うのは今さらか。
確かにベルナールに対して愛情はあるけれど、それは家族愛に近いもので、間違ってもそれは男女間のソレではない。ヴィー、待って、と後ろをついてくるだけの天使はもうどこにもいないのだ。
たとえベルナールが健康的な体型になったとしても、もうあの頃の天使はいないし、何よりもう傍にはいられない。婚約破棄をするのだから、いつまでもこうやって王宮を訪れるわけにはいかないのだ。次の婚約者となる令嬢に失礼だし、なによりよく知る存在が誰かに愛を囁くのを聞くことになるかもしれないのは非常に気まずくて私も嫌だ。
私は目を開け、持ってきた紙の束の一番上の紙面をぼうっと流し見た。
一か月後に控えた伯爵家主催のお茶会。それには私もベルナールも招待されている。社交界の仲間入りができるデビュタントの平均年齢は十五、六と言われているけれど、昨今その年齢は徐々に引き下げられている。今は十三、四。周りの子供達より一足早くデビュタントを迎えたベルナールと私は一人での参加も認められていたため、ぜひにと送られてきた招待状も紛れて持ってきてしまっていた。
その伯爵家のご令嬢は現在八歳で婚約者はおらず、招待されているという面子を考えてこれは婿候補の選別の意味を多分に兼ねているのだと思う。一応まだ対外的には婚約者同士である私とベルナールが招待されたのは、ベルナールの側近候補となる歳上の男の子達が多く招待されているため、ベルナールと男の子達との相性も同時に知っておきたいという目論見が少なからずあるからだろう。私は最近公務以外では出不精になってきたベルナールを外に出すためのおまけだ。
「……ダメだ。体型だけじゃなくって、出不精なところもなおさなきゃ」
一緒に持ってきていたインクに羽ペンをひたし、紙の余白に忘れないように書いておく。その部分だけ破り取り、そっとポケットに押し込んだ。
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