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奥底に眠る記憶の残骸
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瑠衣さんの所から左に綾芽、右に子瑛さんを引き連れ、バタバタと駆け足で帰還。
「たっだいまー!」
出かける時とはまったく違う元気な叫び声を聞いて、皆がなんだなんだと顔を出してきた。
私はというと、そんなおじさん達は無視無視。玄関先で子瑛さんとはバイバイして、それ以上脇目も振らずに綾芽の手を引っ張り、夏生さんの部屋へ直行だ。
はいりまーす!からのスパーンと開け放たれた障子に、夏生さんの眉間に皺が寄った。すかさずお叱りが飛んでくるかと思いきや、私の横に綾芽が立っているのを見た夏生さんは黙って握っていた筆を置いた。
「ようやく落とし所がついたのか」
「まぁ、そんなとこですわ」
「馬鹿が。心配かけさせやがって」
夏生さんから飛んでくる言葉自体は罵倒でも、それに乗ってくる感情は温かい。それが酷く心地いい。
綾芽も肩を軽く竦めるだけで何も言わず、夏生さんの向かいに用意された座布団に腰を下ろした。
もちろん、部屋の隅っこから引っ張ってきたのはこの私。できる幼児、この、私! です! むふん。
私は夏生さんの隣に駆け寄り、すっと頭を差し出した。
私のその行動の理由がすぐには思いつかなかったのか、夏生さんが僅かに眉を顰めている。
それを空気で察した私はほんの少しだけ顔を上げた。
「なつきさん! わたし、がんばった!」
「あ? あー、そうだな。褒めてつかわす」
「ありがたきしあわせー……へへっ」
こんな軽口を叩きあえるのが本当に楽しい。
だから、そう。うん、頑張ったんだ。
にへらっと口角が緩む私を締まりがないと咎める者もなく、ただただ私の頭をわしゃわしゃと撫でる夏生さんの手に両手を当てた。
「まったく。これじゃどっちが保護者か分かったもんじゃねぇ」
「ん? だいじょーぶ。なつきさんいるから」
「……はぁー。なんで俺はまだ若いうちからこんなでけぇガキ二人を面倒見なきゃならんのか」
「それもだいじょーぶ! わたしたち、いいこでしょ? ね?」
「そや。夏生さん、こんなえぇ子ら、他にはおらへんやろ?」
「そんなえぇ子らはうちにもいねぇよ」
「え? ひっどいわぁ。目の前目の前」
夏生さんと綾芽がじゃれて遊んでいる間、それを黙って見てると、向かいの襖がほんの僅かに開いた。
二人も気づいてるだろうけど、どちらもそっちを見ようとはしない。代わりに私が親指を上向きで立ててあげておこう。
すぐに小さな小さな安堵の声がいくつも聞こえてきた。皆もとっても心配してたんだ。さもありなん。
ほら、私、代わりに報告できる子、いい子でしょ? ふふっ。
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