ひよっこ神様異世界謳歌記

おにはうち ふくもうち

3

「かなでさまー！」
「雅ちゃん！」


　広間で衣装を広げて見ていた奏様が立ち上がり、両手を広げてくれた。ちょっと高い位置にある奏様の懐ふところにジャンプして飛び込んだ。

　勢いを殺すようにクルリと回った奏様の横で優しそうな女の人が私達の行動を見て、可笑おかしそうにクスクスと口元を手で隠して笑っている。


「はじめましてー。わたし、みやびっていいます。よろしくおねがいします」
「ふふっ。音無響おとなしひびきです。よろしくね、雅ちゃん」


　響様は奏様に抱っこされた私の頭を優しく撫でてくれた。


「ひびきさまもげんろーいんのひと？」
「あ、ううん。私は違うの」
「響は私の従妹いとこで、私の家のことを彼女の父親と一緒に取り仕切ってもらってるの」
「へー！」


　奏様の従妹ってことは、響様も鬼なんだぁ。
　……全く見えん。誰だ、世間一般に通じる鬼の絵描いたのは。画伯がはくか。画伯だったんか。全然違うじゃあるまいか。

　奏様の美しさが薔薇ばらか牡丹ぼたんなら響様のソレは百合ゆりか菖蒲あやめだ。系統は違うけど、確かに言われると似た面影おもかげはある。

　……じゃなくって。

　響様も鬼ってことは、今回のことで気にしなきゃいけない人がもう一人できたってことで。

　うん？　だって、私、優しくしてくれる人は皆好き。

　それに、奏様も大切にしてるよね、響様のこと。

　大好きな人が大好きな人は私も大好き。

　つまりは、うん。そういうことだ。


「それじゃあ、衣装合わせを始めましょうか」
「あい」


　奏様に畳の上に下ろしてもらい、着ていた服をポイポイっと脱いでいく。

　羞恥しゅうち心？　そんなもの、とっくの昔に消え去っている。お風呂と違って素すっ裸ぱだかってわけでもなし。まぁ、お風呂でさえその羞恥心、割と早くお消えなさったんだが、これいかに。

　まぁ、それでも、お行儀ぎょうぎ良く脱いだものを畳たたむのは忘れない。


「響、その襦袢じゅばんを」
「はい。紐ひももこちらに置いておきますね」
「ん。さぁ、雅ちゃん。これに手を通して」
「はーい」


　本当は自分で着れるんだけど、いかんせんお手々がね。言うこと聞いてくれないんです。一人で着るには難しそうな衣装だし、見た目特権ってことで甘えちゃおう。


「古いにしえの大儺の儀を施行せこうするって言われた時は随分ずいぶんとまたと思っていたけれど、こんなに可愛い侲子しんしがいるなら、確かにやるしかないわね」
「えぇ。都槻様も来たい来たいと声を上げていらっしゃいましたし」
「ツッキーも？」
「えぇ。貴女に会いたがっていたわ」
「そっかー」


　年齢不詳の元老院のオネェさんは鳳さんの入院していた病院での騒さわぎしかり、元老院での滞在期間しかり、本当に良くしてくれている。ありがたや、ありがたや。


「……まぁ、今回はこの子込みでここに揃そろう彼らを見に来たいって言うのが本音に違いないんでしょうけどね」
「それは……そうかも、しれませんね」
「むぅ」


　と、とにかく、会いたいって思ってくれるって嬉うれしいことだよ！？

　こんなお喋しゃべりをしながらでも奏様と響様の息はピッタリで、着々と私に衣装を着せていく。

　今回用意してくれた衣装は青紺あおこん色の染料をベースに、金糸銀糸で蝶ちょうの柄がらが縫ぬわれている。一針一針が丹精たんせい込めて作られてるとても素敵すてきな衣装だ。


「せっかくだし、本当ならこのやり方でやってた当時の衣装を用意してあげたいのに、ごめんなさいね」
「えぇっ！？　とうじのいしょーあるの！？　……じゃなくて、これでじゅーぶんですよ！？」
「そう？　今回の雅ちゃんの役にぴったりそうなのがいくつかあったのに。あの子がほんの数百年前に着た後、整理してどこかにしまってしまったのよね。時間がもう少しあれば見つけられるんだけど」


　……おぅ。当時の衣装って、その時代って、もしかしなくても千年以上前、だよね。しかも、ほんの・・・数百年、とな。

　……そういえば、忘れてた。
　永遠の師匠である千早様から言われてたっけ。


『本人の意図は別として、奏は僕達からしてみればどちらかというと人間に沿ってはいるけど、その実、やはり人ナラザル者。しかも、相当の齢よわいを重ねているから、結構ぶっ飛んでたり、時間の概念がいねんがおかしい発言するから、適当てきとうに聞き流してね』


　こ、これかぁー。
　しかも千早様、さらに驚きなのは、奏様だけじゃなく、その発言を聞いた響様までもウンウンと頷いておられるところです。

　大丈夫！　私、これで大丈夫だから！　これが良いから！
　だから、帝様達に時間をもらえるよう進言してこようかなんて相談はノーセンキューだよ！