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湯けむり道中は珍道中?
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女の子は何でできてるの?
砂糖とスパイスとそれから。
「るいおねーちゃま、はやくはやくー!」
帝様が私達に湯治旅行をプレゼントしてくれるという日を明日に控えた週末。
瑠衣さんと私、そして荷物持ち兼護衛として抜擢された蒼さんと茜さんが、瑠衣さんのお店の近くにあるショッピングモールの駐車場に止めた車から降りたった。
「雅ちゃん、駐車場は危ないわ。手を繋ぎましょ?」
「はい」
いかんいかん。ついはしゃいでしまった。
最近、特に外見年齢に引っ張られている気がする今日この頃。
「まずはどこを回りますか?」
「そうね。とりあえず、服ね、服」
「子供服は……あっ、ありましたよ! ここです、ここ」
「じゃあ、まずはそこに行って、それから……」
入口にある地図を見ながら大人組が動線をどうするかで話し合い始めた。
私もなんとか会話に参加しようとするけれど、いかんせん地図の位置が高すぎる。首を上げるので精一杯。
しばらくすると首が痛くなってしまい、大人しく話が終わるのを待つことにした。
「お待たせ。じゃあ、行きましょっか」
「あい」
やっとですね? うんうん、待ちくたびれました。
「雅ちゃん、私がうんと素敵にコーディネートしてあげるからね?」
「むふふっ。ありがとーございます!」
女の子はお砂糖とスパイスと、それから素敵なものいっぱいでできている!
瑠衣さんのセンスは普段のファッションや、今までの行事、特にハロウィンの時の仮装衣装で把握済みだ。
きっと今回もとっても素敵なものにしてくれるに違いない。
「こっちですよ」
茜さんが先に店内に入り、手招きをしてくる。その後に瑠衣さんと私、最後に蒼さんが入り際に入口の傍のラックから店内マップを一部抜いて続いた。
入ったのはCMでおなじみ某子供服ブランド店。
店員さん達もさすが慣れたもので、私達が入るやいなや、店員のお姉さんがサッと寄ってきた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお探しですか?」
「この子の外行き用の服を」
「可愛らしいお嬢さんですね。……いくつかな?」
「……」
十六歳なんて言えるわけがない。
まぁ、三……いやいやこの間誕生日だったから、四歳ということで。
「よんさいです」
「あら、ちゃんと答えられて偉いわねー」
「えへへ」
お姉さんは瑠衣さんの後ろに隠れるようにして立つ私の目線に合わせるようにしゃがみ込んでくれた。
「どんな柄が好きかな?」
「ん? んーと、なんでもいいです」
「何でもいいの? 好きなもの買ってあげるわよ?」
「んーん。あのね、あやめにね、カードもらってきたけど、それがね、くろいの。だから、あんまりめうつりしちゃだめなのよ。だって、いっぱいほしくなっちゃう」
「……んもー! 今日は綾芽のカードなんか当てにしてないわ! 初めから私持ちのつもりだもの! だから、いーっぱい買うわよ!」
「えっ!?」
なおさら悪いんではないのか、それは。
それに、なんかと言うけれど、これ、間違いじゃなければいわゆるブラックカードっていう雲の上のお方々が持つようなカードなんじゃ……。
……って、あれ?
カードって本人しか使えないよね?
大丈夫やからって渡されたってことは。
そろーっとウサちゃんポシェットの中を覗いてみる。
「……おー、まい、がっ!」
ガマ口財布の中に大事に保管されているそのカードにはバッチリ私の名前が印字されていた。
いかん。これはいかんやつ!
子供にロック解除した携帯を渡すのと同じような行為だよ!?
それに、よく本人確認なしに発行できたもんだね!
権力か、権力使うたんか!?
「どうしたの?」
「ナーンデモナイヨ!」
ウサちゃんポシェットをギュッと両手で抱きかかえた。
正直、ショッピングどころじゃ半分なくなってる。残り半分はやっぱりどうしてもショッピングは楽しい乙女心だ。
「そうですね。こちらのワンピースはいかがですか? それにフード付きのこちらのポンチョなどを合わせるととても可愛いかと」
「そうねー」
赤白のギンガムチェックのワンピースに、オフホワイトのもこもこポンチョ。
寒い季節のお出かけにモコモコは確かに重宝するね。
試着室へと案内され、こちらで試着してみてということで瑠衣さんと二人中に入った。
例のブツが入っているポシェットはちゃんと蒼さんに預けてある。大丈夫。ぬかりはない。
「さ、雅ちゃん。どんどん試着していくわよ」
「あ、あい」
ど、どんどん?
瑠衣さんはその言葉どおり次の服にもう目をつけているみたいで、手際よく私を着替えさせていく。
それが終わると、鏡の前にピシッと直立不動で立ち、瑠衣さんの判定を待った。
「……うーん。まぁまぁね。これに白のレースがついた靴下に赤のエナメルの靴を合わせて……これは買いね」
「くつはあるよ?」
「ダメダメ。いい? 子供は大人に甘えるものなの。そして、大人は可愛い子供のために頑張って働いてうんと甘やかすものなの。雅ちゃんてば、変なとこで一歩引いちゃうんだから」
食べ物関係では一歩も引かないのにね、と瑠衣さんは笑っている。
だって食べ物大事だよ?
なにせ生きていくために絶対必要なんだもの。
「瑠衣さん。どうですか?」
「海斗さん達から写真頼まれてるんで、着替える前に僕達にも見せてくださいねー?」
カーテンの向こうから蒼さんと茜さんの声が飛んできた。
「仕方ないわねー。次があるんだから、すぐに撮るのよ?」
瑠衣さんに背中を押され、カーテンの向こうへ出た。
ん? 写真? どーぞどーぞ。
しゃがんだ瑠衣さんと頬をつけて、はいピース!
「ほら、次よ。あなた達は交代でどんどん目ぼしいのを持ってきて」
「えっ」
「男の子ものならまだしも、さすがに女の子のを野郎が一人で見るのはちょっと……」
「くろ……劉や橘なら大人しく探してくるわよ」
「それは」
「茜」
茜さんの脇を蒼さんが軽く小突いた。
「……なによ?」
「いや、なんでもありません」
ヘラっと笑って誤魔化す茜さん。我先にと傍を離れて女の子向けのコーナーに行ってしまった。
「まったく。さ、雅ちゃん。次はこれよ」
いつのまにやら瑠衣さんが手にしていたのは黒の王子パンツに白いブラウス、それからベルベットの黒いリボン。
……全く違う系統ですね。
これは本格的に着せかえるつもりらしい。
「瑠衣さん。妹が欲しいって元々言ってましたけど、その子、まだそんなに体力ないですからね? ほどほどにしてあげてください」
「分かってるわよ。さ、雅ちゃん、着替えましょ」
「あ、あい」
じ、人選間違えたかなぁー?
私もお買い物は好きだけど、この調子だとこのお店を出るまでにはまだ大分かかりそうだ。
しかも、蒼さんも茜さんも瑠衣さんにはそう強くでられない。
奏様とか、仕事休憩にと桐生さんを誘えば良かったかも。
そうちょっぴり後悔したのがあながち間違いでもないと分かったのは、蒼さんと茜さんが周囲の目に慣れるほど往復させられた時。
試着室をあまり長く使うと他のお客さんの迷惑になるってことで蒼さんが交渉した結果、店奥のいわゆるVIPルームと呼ばれる部屋に通されて本格的に瑠衣さんが服をあさり始めた時だった。
蒼さんとしては、そこまでで終わらせたかったんだろうけど、お店の人も瑠衣さんも諦めるわけがなかった。
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