ひよっこ神様異世界謳歌記

綾織 茅

文字の大きさ
141 / 314
湯けむり道中は珍道中?

4

しおりを挟む

□ □ □ □


 女の子は何でできてるの?
 砂糖とスパイスとそれから。


「るいおねーちゃま、はやくはやくー!」


 帝様が私達に湯治旅行をプレゼントしてくれるという日を明日にひかえた週末。

 瑠衣さんと私、そして荷物持ち兼護衛として抜擢ばってきされた蒼さんと茜さんが、瑠衣さんのお店の近くにあるショッピングモールの駐車場に止めた車から降りたった。


「雅ちゃん、駐車場は危ないわ。手をつなぎましょ?」
「はい」


 いかんいかん。ついはしゃいでしまった。
 最近、特に外見年齢に引っ張られている気がする今日この頃。


「まずはどこを回りますか?」
「そうね。とりあえず、服ね、服」
「子供服は……あっ、ありましたよ! ここです、ここ」
「じゃあ、まずはそこに行って、それから……」


 入口にある地図を見ながら大人組が動線をどうするかで話し合い始めた。
 私もなんとか会話に参加しようとするけれど、いかんせん地図の位置が高すぎる。首を上げるので精一杯。

 しばらくすると首が痛くなってしまい、大人しく話が終わるのを待つことにした。


「お待たせ。じゃあ、行きましょっか」
「あい」


 やっとですね? うんうん、待ちくたびれました。


「雅ちゃん、私がうんと素敵にコーディネートしてあげるからね?」
「むふふっ。ありがとーございます!」


 女の子はお砂糖とスパイスと、それから素敵なものいっぱいでできている!

 瑠衣さんのセンスは普段のファッションや、今までの行事、特にハロウィンの時の仮装衣装で把握はあく済みだ。
 きっと今回もとっても素敵なものにしてくれるに違いない。


「こっちですよ」


 茜さんが先に店内に入り、手招きをしてくる。その後に瑠衣さんと私、最後に蒼さんが入り際に入口のそばのラックから店内マップを一部抜いて続いた。

 入ったのはCMでおなじみ某子供服ブランド店。

 店員さん達もさすが慣れたもので、私達が入るやいなや、店員のお姉さんがサッと寄ってきた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお探しですか?」
「この子の外行き用の服を」
「可愛らしいおじょうさんですね。……いくつかな?」
「……」


 十六歳なんて言えるわけがない。
 まぁ、三……いやいやこの間誕生日だったから、四歳ということで。


「よんさいです」
「あら、ちゃんと答えられてえらいわねー」
「えへへ」


 お姉さんは瑠衣さんの後ろに隠れるようにして立つ私の目線に合わせるようにしゃがみ込んでくれた。


「どんながらが好きかな?」
「ん? んーと、なんでもいいです」
「何でもいいの? 好きなもの買ってあげるわよ?」
「んーん。あのね、あやめにね、カードもらってきたけど、それがね、くろいの。だから、あんまりめうつりしちゃだめなのよ。だって、いっぱいほしくなっちゃう」
「……んもー! 今日は綾芽のカードなんか当てにしてないわ! 初めから私持ちのつもりだもの! だから、いーっぱい買うわよ!」
「えっ!?」


 なおさら悪いんではないのか、それは。

 それに、なんかと言うけれど、これ、間違いじゃなければいわゆるブラックカードっていう雲の上のお方々が持つようなカードなんじゃ……。

 ……って、あれ?
 カードって本人しか使えないよね?

 大丈夫やからって渡されたってことは。

 そろーっとウサちゃんポシェットの中をのぞいてみる。


「……おー、まい、がっ!」


 ガマ口財布の中に大事に保管されているそのカードにはバッチリ私の名前が印字されていた。

 いかん。これはいかんやつ!
 子供にロック解除した携帯を渡すのと同じような行為だよ!?

 それに、よく本人確認なしに発行できたもんだね!

 権力か、権力使うたんか!?


「どうしたの?」
「ナーンデモナイヨ!」


 ウサちゃんポシェットをギュッと両手で抱きかかえた。

 正直、ショッピングどころじゃ半分なくなってる。残り半分はやっぱりどうしてもショッピングは楽しい乙女心だ。


「そうですね。こちらのワンピースはいかがですか? それにフード付きのこちらのポンチョなどを合わせるととても可愛いかと」
「そうねー」


 赤白のギンガムチェックのワンピースに、オフホワイトのもこもこポンチョ。

 寒い季節のお出かけにモコモコは確かに重宝するね。

 試着室へと案内され、こちらで試着してみてということで瑠衣さんと二人中に入った。

 例のブツが入っているポシェットはちゃんと蒼さんに預けてある。大丈夫。ぬかりはない。


「さ、雅ちゃん。どんどん試着していくわよ」
「あ、あい」


 ど、どんどん?

 瑠衣さんはその言葉どおり次の服にもう目をつけているみたいで、手際よく私を着替えさせていく。
 それが終わると、鏡の前にピシッと直立不動で立ち、瑠衣さんの判定を待った。


「……うーん。まぁまぁね。これに白のレースがついた靴下に赤のエナメルの靴を合わせて……これは買いね」
「くつはあるよ?」
「ダメダメ。いい? 子供は大人に甘えるものなの。そして、大人は可愛い子供のために頑張って働いてうんと甘やかすものなの。雅ちゃんてば、変なとこで一歩引いちゃうんだから」


 食べ物関係では一歩も引かないのにね、と瑠衣さんは笑っている。

 だって食べ物大事だよ?
 なにせ生きていくために絶対必要なんだもの。


「瑠衣さん。どうですか?」
「海斗さん達から写真頼まれてるんで、着替える前に僕達にも見せてくださいねー?」


 カーテンの向こうから蒼さんと茜さんの声が飛んできた。


「仕方ないわねー。次があるんだから、すぐにるのよ?」


 瑠衣さんに背中を押され、カーテンの向こうへ出た。

 ん? 写真? どーぞどーぞ。
 しゃがんだ瑠衣さんとほおをつけて、はいピース!


「ほら、次よ。あなた達は交代でどんどん目ぼしいのを持ってきて」
「えっ」
「男の子ものならまだしも、さすがに女の子のを野郎が一人で見るのはちょっと……」
「くろ……劉や橘なら大人しく探してくるわよ」
「それは」
「茜」


 茜さんのわきを蒼さんが軽く小突こづいた。


「……なによ?」
「いや、なんでもありません」


 ヘラっと笑って誤魔化ごまかす茜さん。我先にとそばを離れて女の子向けのコーナーに行ってしまった。


「まったく。さ、雅ちゃん。次はこれよ」


 いつのまにやら瑠衣さんが手にしていたのは黒の王子パンツに白いブラウス、それからベルベットの黒いリボン。

 ……全く違う系統ですね。

 これは本格的に着せかえるつもりらしい。


「瑠衣さん。妹が欲しいって元々言ってましたけど、その子、まだそんなに体力ないですからね? ほどほどにしてあげてください」
「分かってるわよ。さ、雅ちゃん、着替えましょ」
「あ、あい」


 じ、人選間違えたかなぁー?
 私もお買い物は好きだけど、この調子だとこのお店を出るまでにはまだ大分かかりそうだ。
 しかも、蒼さんも茜さんも瑠衣さんにはそう強くでられない。
 奏様とか、仕事休憩にと桐生さんを誘えば良かったかも。

 そうちょっぴり後悔したのがあながち間違いでもないと分かったのは、蒼さんと茜さんが周囲の目に慣れるほど往復させられた時。

 試着室をあまり長く使うと他のお客さんの迷惑めいわくになるってことで蒼さんが交渉こうしょうした結果、店奥のいわゆるVIPルームと呼ばれる部屋に通されて本格的に瑠衣さんが服をあさり始めた時だった。

 蒼さんとしては、そこまでで終わらせたかったんだろうけど、お店の人も瑠衣さんもあきらめるわけがなかった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

処理中です...