142 / 314
湯けむり道中は珍道中?
5
しおりを挟む結局そのお店を出たのはそれから二時間も経った頃。
荷物は全て東のお屋敷に送ってくれるってことで話がついた。
「さ、次に行くわよ!」
着て脱いでを繰り返していただけなのに、なんだかすごく疲れた気がする。
一方の瑠衣さんは変なスイッチが入っちゃったみたい。さっきのお店でだって桁がおかしい買い物をしたのに、なんの迷いもなく次のお店を物色し始めた。
「やっぱり温泉って言ったら浴衣よね。湯冷めするとまずいから、綿入り半纏も買っておこうかしら」
「えっ」
洋服と違って呉服は高い。
それに、やっぱり瑠衣さんにばかりお金を出してもらうのは……。
「もうそろそろお昼ですし、お昼にしませんか?」
「雅ちゃんもお腹空いたでしょ?」
「すいてます!」
「足も疲れたんじゃない?」
「つかれましたー!」
瑠衣さんが目をパチパチと瞬きをさせ、再び手に持っているマップに目を落とした。
「雅ちゃん、何が食べたい?」
「んっと……」
……あ。
「これー」
「ん?」
贅沢な悩みだっていうのは分かっている。
だけど、薫くん達のご飯をいつも食べてると、たまにものすごくジャンクなものが食べたくなる。
あ、みんなの味に飽きたってわけじゃないから!
今日の夜ご飯、カレーがいいですってリクエスト合戦に参加してくるぐらい好きだから!
「こういうの、食べさせて良いものなんですかね?」
「健康には良いとは言えないわね」
「ですよね」
「だいじょうぶ! おなかいたくなったことないから!」
お母さんはポテトの油が駄目みたいで、たまーに食べた時でもすぐお腹痛くなってたけど、私はそんなことなかったもの。
「ねー。おねがいします」
瑠衣さんの服を摘んでジッと目を見つめた。
「ここでいいの?」
「そこがいいー」
ポテトでしょ? ナゲットでしょ? あと、バーガーでしょ?
向こうの世界と違うのは、ロゴがMじゃなくてWってところ。後は大体メニューは変わらない、と思う。
友達と出かける時にたまーにこっそり食べるくらいしか機会がなかったから、どんなメニューがあるのかは正直怪しいけど。
「二人はそれで足りるの?」
「あ、そっか」
「僕達は何でも大丈夫です。足りなかったらそれこそ追加で頼むんで」
「右に同じく」
そっか。そうだよね。
私にとってはお腹いっぱいになる量でも、大人の男の人の食べる量はそれこそ桁違いだもの。絶対足りない。
「うーん、と」
あ、分かった!
「おひる、やっぱりここじゃなくていいです」
「え? どうして?」
「あのね、かえりにおみやげにかってかえるの。それで、おひるはべつのとこにしましょー」
「綾芽へのお土産?」
「あい」
海斗さんとか劉さん、子瑛さん辺りも可だよ? だって、分けてくれそうだもの。ムフフ。
薫くんや夏生さんや巳鶴さん辺りは栄養偏らせすぎだって怒るだろうからダメ。
……うん、やっぱり綾芽へのお土産が一番だ。
「まぁ、いいわ。じゃあ、どこにする?」
みんな好き嫌いがないからか、どこでもいいという意見に落ち着いてしまう。これでは一向に決まらない。
こういう時は、これ!
「めをかくしてちずをなぞりながら、ここっていったところです!」
「オッケー。じゃあ、雅ちゃんが決める人ね」
「せきにんじゅーだいですね。わかりました。いきます!」
ギュッと目をつむり、瑠衣さんが差し出すマップに指を這わせる。
「ここっ!」
目を開けて指した所を見ると、中華のお店だ。美味しそうなエビチリの写真が載っている。
うんうん。なかなか無難なチョイスじゃないですか?
しかもここ、お昼はバイキングになってるみたいだから、蒼さん達でも十分満足できるよね。
空いているかはさておき、とりあえずお店は決まった。
「ここに行くには……こっちですね」
「雅ちゃん、疲れてない? 大丈夫?」
「だいじょーぶ。ありがとう」
実際に歩いたのもそう距離はないし。うん、問題ありません。
「疲れたらいつでも言ってね。抱っこするから」
「ありがとー」
茜さんの次は蒼さんにも気を使われてしまった。
そんなに疲れてますオーラ出してた? 顔に出るって言われるからなぁ。
でも、どーしてももう歩けなくなった時はその……お願いします。
蒼さんがパンフを見ながら道を確認しつつ、お店に向かっていく。私達はその後をくっついて行った。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~
黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる