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逃亡聖女②
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メリアは教会の自室へ戻り、逃亡の準備を手早く行った。
ライト第一王子は勘違いしているが、メリアは男爵家には住んでいない。あくまで学院に通うための貴族籍をもらうために養女ということになっただけで、ほとんど没交渉なのだ。メリアは聖女修行や勉強に忙しくて男爵家にいる時間をとれない。それに、二度三度会った男爵様夫妻も、元孤児の自分をあまり歓迎していないようだった。ただ王命で引き受けただけで、こんな汚ならしい子どもを邸にいれるつもりはない、と目が言っていた。だから男爵家に贈り物をしたところで意味はないのだが……。
男爵家に受け入れられないならば、それはそれで大丈夫なので、メリアは教会から学院に通っていた。幸い、聖女修行のためという全うな口実がある。メリアを聖女として受け入れてくれた教会は、それなりの待遇でメリアを育ててくれた。お世話になった教会を突然捨てるような所業は申し訳ないが、緊急事態ゆえ仕方ない。
うーん、うーんと唸り悩んだあげく、メリアは手紙に「死にたくないので、野良の聖女になります。聖女としての浄化などは野良でやりますので、ご心配なく。今までありがとうございました」とだけ書き残しーーパーティが迫る前日の深夜、こっそりと裏口を出て、教会を抜け出した。
深夜抜け出したメリアは、明るくなるまでとにかくひたすら歩き、王都のはずれのほうまで来た。
さすがは王都。孤児院があった田舎に比べて段違いに治安がいい。深夜歩いてもゴロツキの一人もいないので助かった。途中見回りの騎士もいたが、質素なシャツにパンツ姿で出てきたメリアを、まさか聖女で令嬢だとは思わなかったらしい。平民の家出不良少女とでも思ってくれたのだろう。保護もされずスルーされたのはラッキーだったか。とにかく助かった。
明け方に、開店したばかりのパン屋で、固いパンと水を買えた。深夜からなにも食べずに歩いていたので助かった。もぐもぐと食べながら歩くことしばらく、王都はずれの乗り合い馬車乗り場まで辿り着けた。
どこにいくか宛はないが、とにかく馬車がいけるところまで乗って、また考えればいい。教会預かりだったメリアにはほとんどお金もなかったから、行き着いたどこかのお店とかで雇ってもらって、働きながら情報収集をし、障気や魔物の気配がしたら浄化に行けばいいだろう。簡単な治癒もまだ修行中ではあるができているから、冒険者ギルドや病院なんかを覗いて治癒を請け負ってもいいかもしれない。もちろん、メリアは善良な聖女だから、困っている人は助けよう。それくらいは野良の聖女としての勤めだ。今まで教会でやっていたことと大して変わらない。
「はぁ、眠たい。とにかく逃げられてよかった。馬車にのったら寝よう……あ、来た来た」
王都から、森を抜けて近隣の国へ行く馬車がガラガラと音をたててやってきた。この馬車はどこに行くのやら。お金は足りるかな。そんなことを考えながら、手をあげて止まった馬車に乗り込んだ。
「いけるところまで乗せてください」と御者に頼むと怪訝な顔をされたが、乗り込むことができた。簡単に幕を張っただけの荷台に乗り込む。むわっと埃っぽい臭いがした。少し最初咳き込んだものの、やっと座って落ち着けた。ふと見ると、荷台にはもう一人、痩せた女性が乗っている。深くマントを頭から被り、ぎゅっと小さな荷物を握りしめて静かに過ごしている。この人もワケありなのだろう。こんな早朝に乗り合い馬車にいるのだから。
馬車にのれて安心したのか、だんだんまぶたが重くなってぼーっとしてくる。ああ、でもこれでとりあえず明後日の……もう明日? 今日? わからなくなってきたが、死の卒業パーティからは逃げることができた。
「よかった……」
思わず呟いて、眠気に身を任せようとした時。
先客の痩せた女性が「えっ……」と小さく声を出した。
メリアは眠気に半ば負けつつ、その女性の方を改めて見た。女性がゆっくりと、頭から被ったマントを脱ぎ、顔を見せたところでーー眠気が吹っ飛んだ。
「えっ、えっ……えっ。え? え? な、なんで!?」
白銀色の髪は、ウェーブした豊かな長髪……だったはずが、肩の上でざっくり切られている。しかし、そのエメラルド色の大きな瞳と、透き通るような白い肌に、人形のように整った目鼻は確かに見覚えがあった。
メリアが尊敬するもう一人の聖女。
今日、ライト第一王子から糾弾され婚約破棄される。
「……マーガレット侯爵令嬢様……?」
マーガレットは薄く紅い唇を、そっと上げて言った。
「メリア嬢……」
なぜ、ここに。
二つの言葉が、重なった。
ライト第一王子は勘違いしているが、メリアは男爵家には住んでいない。あくまで学院に通うための貴族籍をもらうために養女ということになっただけで、ほとんど没交渉なのだ。メリアは聖女修行や勉強に忙しくて男爵家にいる時間をとれない。それに、二度三度会った男爵様夫妻も、元孤児の自分をあまり歓迎していないようだった。ただ王命で引き受けただけで、こんな汚ならしい子どもを邸にいれるつもりはない、と目が言っていた。だから男爵家に贈り物をしたところで意味はないのだが……。
男爵家に受け入れられないならば、それはそれで大丈夫なので、メリアは教会から学院に通っていた。幸い、聖女修行のためという全うな口実がある。メリアを聖女として受け入れてくれた教会は、それなりの待遇でメリアを育ててくれた。お世話になった教会を突然捨てるような所業は申し訳ないが、緊急事態ゆえ仕方ない。
うーん、うーんと唸り悩んだあげく、メリアは手紙に「死にたくないので、野良の聖女になります。聖女としての浄化などは野良でやりますので、ご心配なく。今までありがとうございました」とだけ書き残しーーパーティが迫る前日の深夜、こっそりと裏口を出て、教会を抜け出した。
深夜抜け出したメリアは、明るくなるまでとにかくひたすら歩き、王都のはずれのほうまで来た。
さすがは王都。孤児院があった田舎に比べて段違いに治安がいい。深夜歩いてもゴロツキの一人もいないので助かった。途中見回りの騎士もいたが、質素なシャツにパンツ姿で出てきたメリアを、まさか聖女で令嬢だとは思わなかったらしい。平民の家出不良少女とでも思ってくれたのだろう。保護もされずスルーされたのはラッキーだったか。とにかく助かった。
明け方に、開店したばかりのパン屋で、固いパンと水を買えた。深夜からなにも食べずに歩いていたので助かった。もぐもぐと食べながら歩くことしばらく、王都はずれの乗り合い馬車乗り場まで辿り着けた。
どこにいくか宛はないが、とにかく馬車がいけるところまで乗って、また考えればいい。教会預かりだったメリアにはほとんどお金もなかったから、行き着いたどこかのお店とかで雇ってもらって、働きながら情報収集をし、障気や魔物の気配がしたら浄化に行けばいいだろう。簡単な治癒もまだ修行中ではあるができているから、冒険者ギルドや病院なんかを覗いて治癒を請け負ってもいいかもしれない。もちろん、メリアは善良な聖女だから、困っている人は助けよう。それくらいは野良の聖女としての勤めだ。今まで教会でやっていたことと大して変わらない。
「はぁ、眠たい。とにかく逃げられてよかった。馬車にのったら寝よう……あ、来た来た」
王都から、森を抜けて近隣の国へ行く馬車がガラガラと音をたててやってきた。この馬車はどこに行くのやら。お金は足りるかな。そんなことを考えながら、手をあげて止まった馬車に乗り込んだ。
「いけるところまで乗せてください」と御者に頼むと怪訝な顔をされたが、乗り込むことができた。簡単に幕を張っただけの荷台に乗り込む。むわっと埃っぽい臭いがした。少し最初咳き込んだものの、やっと座って落ち着けた。ふと見ると、荷台にはもう一人、痩せた女性が乗っている。深くマントを頭から被り、ぎゅっと小さな荷物を握りしめて静かに過ごしている。この人もワケありなのだろう。こんな早朝に乗り合い馬車にいるのだから。
馬車にのれて安心したのか、だんだんまぶたが重くなってぼーっとしてくる。ああ、でもこれでとりあえず明後日の……もう明日? 今日? わからなくなってきたが、死の卒業パーティからは逃げることができた。
「よかった……」
思わず呟いて、眠気に身を任せようとした時。
先客の痩せた女性が「えっ……」と小さく声を出した。
メリアは眠気に半ば負けつつ、その女性の方を改めて見た。女性がゆっくりと、頭から被ったマントを脱ぎ、顔を見せたところでーー眠気が吹っ飛んだ。
「えっ、えっ……えっ。え? え? な、なんで!?」
白銀色の髪は、ウェーブした豊かな長髪……だったはずが、肩の上でざっくり切られている。しかし、そのエメラルド色の大きな瞳と、透き通るような白い肌に、人形のように整った目鼻は確かに見覚えがあった。
メリアが尊敬するもう一人の聖女。
今日、ライト第一王子から糾弾され婚約破棄される。
「……マーガレット侯爵令嬢様……?」
マーガレットは薄く紅い唇を、そっと上げて言った。
「メリア嬢……」
なぜ、ここに。
二つの言葉が、重なった。
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