婚約破棄された、女はすごくあざとい

ルイ

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「ええ、わたくし、少し自由な時間を過ごしているのです」

 そう告げた瞬間、目の前のアルベルト様——王都の社交界で何度か顔を合わせたことのある男爵家のご子息は、驚いたように目を瞬かせた。

「自由な時間……?」

 彼は困惑しながら私を見つめ、次にその視線は、私の隣にいるレオン様へと向けられた。

 そして——僅かに険しい表情を浮かべる。

(あら……なるほど)

 彼の頭の中では、きっとこんな風に状況を整理しているのでしょう。

「婚約破棄されたリリエルが、王都を離れ、しかも王太子の騎士と二人で旅をしている」

 それがどう見えるのか——貴族社会で育った私にとって、それは想像に難くなかった。

(ふふ、誤解してもらっても構わないわ)

 むしろ、それこそが私の狙いなのだから。

「ええ、レオン様に護っていただきながら、わたくし、自分の人生を見つめ直している最中ですの」

 私は優雅に微笑みながら、さりげなくレオン様の方へと身体の向きを変えた。

 それだけで、アルベルト様の表情がさらに強張る。

(……面白い反応ね)

 王都にいる貴族たちは、私が「婚約破棄された可哀想な令嬢」として身を隠しているのだと想像していたはず。

 けれど——もし、そのリリエル・エルステッドが、王都を離れた後、王太子直属の騎士と共に旅をしていたとしたら?

 それはきっと、貴族たちの間で 「まるで恋人のような関係」 に映るでしょう。

「……それは、王太子殿下のご命令で?」

 アルベルト様が探るように聞く。

 ここで「そうです」と答えれば、「婚約破棄された私が監視されている」という話になる。

 でも、私はあえて違う言葉を選ぶ。

「いいえ、わたくしが望んでお願いしたのですわ」

 この一言で、アルベルト様の眉がピクリと動いた。

(さあ、どう反応なさるのかしら?)

 私が「レオン様と共にいるのは私の意思」と言えば、それは「彼を信頼している」という意味に取られる。

 それだけでなく、「二人きりの旅に満足している」とも解釈できる。

 そうなれば——彼の考えは、一つの方向へと向かう。

 「もしかして、リリエル様は王太子ではなく、この騎士を選んだのでは?」

 アルベルト様の目が、レオン様へと向かう。

「……君は、このことをどう思っている?」

 突然話を振られたレオン様は、わずかに表情を引き締めた。

「私は、リリエル様を護ることが私の役目です」

 端的な答え。彼らしい真面目な返答だけれど、アルベルト様の納得は得られなかったようで、彼はさらに問い詰めるように言った。

「それは、王太子殿下の命令として? それとも——君自身の意思として?」

 レオン様の瞳が一瞬、揺れた。

(……ふふ、いい質問ね)

 ここでレオン様が「騎士としての責務」と答えれば、アルベルト様は「なるほど、監視役か」と解釈するでしょう。

 でも、もし 「個人的な意思」 だと答えたら——?

 それはつまり、レオン様が 「私自身を護りたいと思っている」 ということになる。

 そして——

「……私は」

 レオン様が何かを言いかけたその瞬間——

「リリエル様! ちょっと!」

 不意に店主ルーカスの声が飛び込んできた。

「悪いけど、手伝ってくれないか? ちょっと人手が足りなくて!」

 私はルーカスの方へ振り向き、一瞬考えた後、ふっと微笑んだ。

「もちろんですわ」

 私はレオン様とアルベルト様の間に漂う緊張を、あえて断ち切るように、スカートを軽く揺らして歩き出す。

(こういう時は、一度場をリセットするのが一番)

 男性同士の間に微妙な雰囲気が生まれた時、それをそのまま続けるより、一度距離を置いた方が効果的なのよ。

 私は後ろを振り返らず、雑貨店へと足を踏み入れた。

***

 しばらく店で働いている間も、私は視線の端でレオン様とアルベルト様の様子を観察していた。

 アルベルト様は何かを考え込むように腕を組み、レオン様はそれを静かに受け止めるように立っている。

(……きっと、アルベルト様は王都に戻ったら、この話を広めるでしょうね)

 「リリエル・エルステッドは、王太子の騎士と共に旅をしている」

 この噂が王都に届けば、アレクシス殿下も必ず耳にするはず。

 王太子妃にしなかった令嬢が、婚約破棄後に別の男性と共に過ごしていると知ったら——彼はどう思うのかしら?

 (……でも、それだけじゃ終わらないわ)

 私は「ただの噂話」に留まるつもりはない。

 この旅の終着点は——私が決める。

 だって私は——すごくあざといのだから。

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