悪役公爵令嬢に転生した話

ルイ

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一章 婚約破棄の序曲

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 王宮の広間に響く優雅な音楽。
 シャンデリアの光が輝く中、貴族たちは楽しげに舞踏会の夜を過ごしていた。

 私――レティシア・ヴェルネは、その場の誰よりも華やかなドレスを身にまとい、完璧な微笑みを浮かべていた。
 なぜなら私は、公爵令嬢であり、この国の王太子妃となるべき存在なのだから。

「レティシア様、今日もお美しいですね」

「まあ、ありがとう」

 貴族の令息たちが言葉を交わしに来るたびに、私は優雅に受け答えをした。
 けれど――

(……王太子は?)

 私の婚約者であるアレクシス・フォン・ルーヴェル王太子が、まだ姿を見せていないことに気づく。
 彼はいつも、こういった公の場では私の隣にいるのが当然だった。

(最近、王太子の態度が少し冷たい気がするのよね……)

 思い返せば、ここ数週間、アレクシスは忙しいと言って私と会う時間を減らしていた。
 それどころか、目が合ったときに少しだけ視線を逸らされることもあった。

 ――そして、今日。
 私は見てしまった。

 広間の隅で、一人の少女が王太子と親しげに話している姿を。

(……あれは、エミリア?)

 明るい栗色の髪に、大きな青い瞳。
 彼女は確か、平民から侯爵家に引き取られた養女だったはず。
 庶民出身でありながら、最近になって貴族社会に現れ、いつの間にか「可憐で愛らしい令嬢」として話題になっていた。

 そして今、彼女は王太子の腕を取り、親しげに微笑んでいた。

(……やっぱり、ゲームの通りだわ)

 そう。私はこの世界が**乙女ゲーム『さまぁ・エターナル・ラブ』**の舞台だと知っている。
 なぜなら、私は――前世の記憶を持ったまま、この世界に転生したから。

 ***

 前世の私は、ごく普通の日本人だった。
 学生時代、友人に勧められて何気なくプレイしたのが、このゲーム『さまぁ・エターナル・ラブ』だった。

 ――その中で、最も悲惨な役割を担っていたのが、まさにレティシア・ヴェルネ。

 彼女は王太子の婚約者でありながら、嫉妬深く高慢な悪役令嬢として描かれていた。
 ヒロインであるエミリアを執拗にいじめ、そのせいで王太子の怒りを買い、公衆の面前で婚約破棄される。
 さらにその後は、身分を剥奪され、貴族社会からも追放されるという最悪の末路を迎えるのだった。

(でも……私は、本当にそんな女なの?)

 気がついたとき、私はレティシア・ヴェルネとしてこの世界にいた。
 最初は混乱したが、幼いころからの記憶が頭に流れ込み、知らないはずの知識が自分の中にあると理解したとき、ようやく自分が転生したのだと実感した。

 けれど、レティシアの記憶を辿る限り――彼女は決して悪女ではなかった。
 王太子妃としての立場を守るため、誰よりも努力し、完璧な令嬢であろうと努めてきた。
 そんな彼女が、ある日突然「悪役令嬢」として扱われるようになるのは、明らかにゲームの筋書きに沿っているとしか思えない。

(……何かがおかしいわ)

 そう思いながらも、私はレティシアとして生きることを決めた。
 たとえゲームのシナリオが動き始めていたとしても、私は彼女の悲惨な運命をそのまま受け入れるつもりはない。

 ***

 ――だからこそ、今、私の目の前で王太子と親しげに話すエミリアの姿に、強い違和感を覚えた。

(もしかして、もうイベントが始まっている?)

 じわりと広がる嫌な予感。
 私は静かに、グラスの中のワインを揺らした。

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