悪役公爵令嬢に転生した話

ルイ

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一章 婚約破棄の序曲

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 王宮の舞踏会は続いていた。
 音楽は優雅に流れ、貴族たちは華やかに踊り、笑い合っている。
 けれど、私――レティシア・ヴェルネの視線は、広間の隅にいる二人に釘付けになっていた。

 王太子アレクシスと、侯爵家の養女エミリア。

 彼らは周囲の目を気にする様子もなく、親しげに言葉を交わし合っていた。
 それどころか、エミリアは彼の腕にそっと手を添え、微笑んでいる。

(……まるで、恋人みたいね)

 この光景を見て、私の脳裏に前世の記憶がよみがえった。

***

 **『さまぁ・エターナル・ラブ』**における王太子ルートでは、エミリアとアレクシスの恋愛が徐々に深まるにつれ、悪役令嬢レティシアが彼女に嫉妬し、執拗な嫌がらせをするという展開が描かれていた。

 例えば――

・エミリアのドレスを汚す
・舞踏会で彼女の足を踏み、転ばせる
・婚約者の立場を利用して、エミリアを王宮から追い出そうとする

 そして、そんな「悪行」の数々がアレクシスの耳に入り、ついには舞踏会の場で婚約破棄を言い渡されるのだった。

(でも、それは“ゲームの中のレティシア”の話)

 私は彼女の記憶を持っている。
 そして確信している。

 ――本物のレティシアは、そんなことをしていない。

 王太子妃としての教育を受け、礼儀作法も完璧に身につけた公爵令嬢。
 むしろ、王宮での立場を考えれば、軽率な行動を取ることなどありえない。

 だとしたら……?

(何者かが私を悪者に仕立て上げている?)

 そんな疑念を抱いた矢先、私のそばに近づいてくる人物がいた。

「レティシア様、よろしければ一曲、ご一緒に踊っていただけませんか?」

 声をかけてきたのは、侯爵家の嫡男、カイル・フェルナー。
 穏やかな笑みを浮かべた彼は、社交界でも評判の紳士だった。

「ええ、喜んで」

 私は微笑みながら手を差し出し、カイルと共にダンスの輪へと加わった。
 だが、踊りながらも、意識の片隅では王太子とエミリアの動きを追っていた。

***

「……どうやら、王太子殿下は随分とエミリア嬢を気に入っておられるようですね」

 ワルツのリズムに合わせながら、カイルが低い声で囁いた。
 私の視線が彼に向けられたのを確認すると、彼はさらに言葉を続ける。

「最近、王宮内ではこんな噂が広まっているのをご存知ですか?」

「噂?」

「ええ。『王太子殿下は、公爵令嬢レティシアよりも、庶民出身のエミリア嬢を愛している』……とね」

 カイルは苦笑しながらそう言ったが、私は胸の奥が冷えるような感覚を覚えた。

 確かに、最近の王太子の態度の変化は気になっていた。
 それに加え、社交界でのエミリアの急激な台頭。
 まるで「誰かが意図的に」仕組んでいるかのような、違和感のある展開――

(まさか、本当にゲームのシナリオが進行しているの……?)

 だとしたら、このままでは……

「レティシア様?」

「あっ、ごめんなさい。少し考え事をしていて……」

 カイルが心配そうに私の顔を覗き込む。
 私はすぐに微笑みを作り、何事もなかったかのように踊り続けた。

(今はまだ、動くべき時じゃない)

 焦って行動すれば、「嫉妬に狂った悪役令嬢」として扱われる可能性がある。
 まずは冷静に状況を見極めることが必要だ。

 けれど、この違和感を放置してはいけない。

(私の未来は、ゲームの通りにはならない)

 そう決意しながら、私は舞踏会の夜を過ごした。

 ――そして、翌日。
 この出来事が、私の運命を大きく変えることになるとは、まだ知る由もなかった。

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