悪役公爵令嬢に転生した話

ルイ

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一章 婚約破棄の序曲

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 舞踏会の翌日、私はヴェルネ公爵家の屋敷で紅茶を片手に考え込んでいた。

 昨日の夜、王宮で見た光景。
 王太子アレクシスと、侯爵家の養女エミリアの親しげな姿。
 そして、カイル・フェルナー侯爵子爵が言っていた**「王太子はエミリアを愛している」という噂**。

(……どう考えても、ゲームのシナリオが進行しているわね)

 思わずため息が漏れる。

 私が転生する前にプレイしていた乙女ゲーム『さまぁ・エターナル・ラブ』では、エミリアは「純真無垢で健気な庶民の少女」として描かれていた。
 貴族社会に馴染めず、それでも王太子に愛され、次第に周囲の貴族たちからも受け入れられていく――。

 でも、本当にそうなのかしら?

 私の知る限り、エミリアは決してただの「純真な少女」ではない。
 舞踏会で彼女が王太子に寄り添う姿は、どう見ても「自分が王太子に愛されている」という確信がある者の態度だった。
 加えて、彼女は「庶民出身」とは思えないほどに洗練された仕草をしていた。
 まるで、誰かが彼女に貴族社会で生きる術を教え込んだかのように――。

(考えすぎかもしれないけれど……)

 私はティーカップを置き、ため息をついた。

「お嬢様、何かお悩みですか?」

 穏やかな声が聞こえ、顔を上げると、側仕えのクラリッサが心配そうにこちらを見ていた。
 彼女は私が幼い頃から仕えてくれている侍女で、母親のような優しさと、時折鋭い観察眼を持つ女性だ。

「……少し、考え事をしていたの」

「王太子殿下のことでしょうか?」

 図星だった。

 私は苦笑しながらも、素直に頷く。
 クラリッサは静かにティーポットを持ち上げ、私のカップに紅茶を注いだ。

「お嬢様。私はあまり深入りするべきではないかもしれませんが……最近の王太子殿下は、以前とはまるで違うようにお見受けします」

「……どういう意味?」

 私はカップを手に取りながら、クラリッサを見つめた。
 彼女は慎重に言葉を選びながら、続ける。

「以前の王太子殿下は、もっとお嬢様のことを気にかけていらっしゃいました。決して表には出されませんでしたが、私たち側仕えにも分かる程度には……」

 それは私も感じていたことだった。

 アレクシスは冷静で真面目な性格だったが、私に対してはそれなりに気遣いを見せてくれていた。
 表立って愛情を示すことは少なかったが、それでも彼なりに「婚約者として私を大切に思っている」のだと感じることができた。

 ――それが、今ではどうだろう?

 目を合わせても逸らされることが増え、会話をしてもどこか素っ気ない態度。
 舞踏会での出来事を考えれば、エミリアへの態度と私への態度の違いは明らかだった。

「……ねぇ、クラリッサ」

「はい、お嬢様」

「最近、王宮で何か変わったことはないかしら? 例えば……エミリアのことで何か噂になっているとか」

 クラリッサは少し考え込み、やがて小さく頷いた。

「確かに、エミリア様に関する噂は多く耳にします。王太子殿下とのご関係についてもそうですが……彼女は、なぜか王宮の高位の方々と急速に親しくなられているようです」

「……なんですって?」

 私は思わず眉をひそめた。

 エミリアは庶民出身のはずだ。
 確かに侯爵家の養女になったとはいえ、本来ならば貴族社会に馴染むのは時間がかかる。
 それが、王宮の高位貴族たちと急速に親しくなっている?

(おかしい……何かが引っかかる)

「具体的にはどのような方々と?」

「それが……宰相閣下、近衛騎士団長、そして枢機卿など……かなりの要職の方々と」

「そんな……」

 エミリアがただの「庶民上がりの純真な少女」ならば、王宮の権力者たちと親しくなるのは難しいはず。
 それが可能だとすれば、彼女には「庶民」以上の何かがあるということだ。

(これは単なる恋愛の話ではない……?)

 私は改めて、エミリアという存在に対して強い警戒心を抱いた。

***

 その日の夕方、私は決意を固めた。

 このまま何もせずにいれば、私はゲーム通りの「悪役令嬢」として破滅する。
 けれど、私が知っているレティシアは、そんな愚かな女ではない。
 ただ運命に翻弄されるだけの存在なんかじゃない。

「クラリッサ、私はしばらく王宮に顔を出すことにするわ」

「……お嬢様」

「何が起きているのか、この目で確かめる必要がある」

 王宮では、何かが動いている。
 それが単なる恋愛劇ではなく、もっと大きな陰謀だとしたら――

(私は、それに巻き込まれるわけにはいかない)

 私は立ち上がり、覚悟を決めた。

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