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近付くなって言ったよな?

頭痛

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 温和はるまさ、私が川越かわごえ先生のこと、初見じゃない気がするって言った瞬間、身体をギュッと固くしたのが分かって。
 今問いかけたこと、まんざら的を外していないんじゃないかって、思ったの。

温和はるまさ、お願い、教えて。私の不安な気持ち、少しでいいから温和あなたの言葉で和らげて?」

 懇願するように温和はるまさを見つめたら、彼は「お前の記憶、やっぱり結構曖昧なんだな」って独り言のようにつぶやいた。
 それから私の覚悟を推し量るようにじっと私の目を見つめ返してきて……そのあと今度はちゃんと言葉を続けてくれたの。

「川越筑紫つくしは……俺と奏芽かなめの高校ん時の同級生だ。家の都合か何かで苗字が変わってたから、俺も最初はピンとこなかった。けど……下の名前見てもしかしてって思って……。校長から履歴書見せてもらったら……やっぱり俺の知ってる彼女やつだって確信した」

 ああ、それで……って思った。
 温和はるまさの様子がおかしかったのは……川越先生が自分の同級生知り合いだって知ったからだったんだ。

 そういえば私がこっそり買った、温和はるまさが写った修学旅行の写真。
 あれに温和はるまさ奏芽カナにいと一緒に、川越先生かのじょが写ってたのがあった……気が……する。
 それ故の既視感?って思った。

 でも、ただの同級生なら……温和はるまさ、そんな変な反応しない、よね?
 っていうことはやっぱり……?


 温和はるまさが過去に何人かの女性と付き合ってきたことがあるの、私、知ってる。

 川越かわごえ先生がその中の1人だったって言われても、私、違和感なく受け入れられると……思う。

 でもそれは……今現在の温和はるまさが、彼女のことを気にしていないことが前提だよ?
 分かってる?

 涙で潤んだ瞳で温和はるまさをじっと見つめたら「だからお前の記憶は物凄く曖昧なんだよ、音芽おとめ。あいつは……俺の元カノじゃない」って言われた。

「え……?」
 今の流れでそうくるとは思っていなくて、私は思わず間の抜けた声を出してしまった。

「お前んにも来たことあるだろ? 覚えてないか?」

 言われて、ハッとする。

奏芽カナ……にい……?」

 奏芽かなめにいの彼女は遍歴が激しすぎて、私、ほとんど覚えていない。
 覚えていないけれど――。
 言われてみれば……何となく記憶の端っこに引っ掛かってわだかまって。

 何か掴みかけたと思った瞬間、息がヒュッと苦しくなって、頭がズキズキと痛み始める。
「――っ!」
 どんどん強くなるその痛みに、私は思わず頭を抱えてうずくまった。
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