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(2)ふわふわさん、拾いました!

ダメです、何も思い出せません

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 そうして眉根を寄せてこめかみに手を当てると、
「あの……すみません。……よく思い出せないんですが、僕は誰で……一体何をしていたんでしょう?」

 そう言って、日和美ひなみをすがるような目で見つめてきた。

「……どうやら僕は記憶を失くしてしまったみたいです」

「き、おく……そーしつ?」

「はい……」


 弱り顔の美形くんに投げ掛けるには間が抜けている上に全く実りのない言葉なのは分かっていたけれど、日和美だってわけが分からないのだから仕方がない。

 目を白黒させる日和美に、眼前の彼の顔が見る間に曇って。

(ああああ、そんなお顔しないでっ)

 その表情を見たら、何とかしなければ!と思ってしまった。


「わ、私が知ってるのはこの道をあちらの方から歩いていらしたことだけですっ。あ、あとは……えっと……今こうして目が覚めるまでの間、私が敷いたその掛け布団に横たわっていらっしゃいました」

 そこまで言ってじっと彼を見つめたら、日和美が指差した方角を振り返ってから、
「ダメです。何も……思い出せません。日和美さん?は……僕の名前を知っていますか?」
 ふわふわな彼が、落胆した表情で、小さく吐息を落とした。

 身なりや〝僕〟という口調から判ずるに、彼はそれ程貧乏な暮らしをしている人ではない気がすると思った日和美ひなみだ。

 そこでポン!と手を打つと、

「そうだ! 何か身元の分かる物とか身に付けていらっしゃいませんか?」

 普通ちょっとそこまで、という時にだって、何かしら持って出るものだと思う。

 日和美の言葉に、彼はパァッと明るい顔になって立ち上がろうとして。
 自分が地べたに敷かれた布団の上にいることに気がついて、慌てて靴を脱いで布団のそばに綺麗に並べた。

(レジャーシートですかっ!)

 その様に思わず笑ってしまいそうになった日和美だったけれど、彼は至極真面目なのだと気が付いてグッと堪える。


「すみません。僕のせいで布団を汚してしまいました」

 申し訳なさそうにしょげる彼に、日和美はフルフルと首を振った。

 元はと言えば自分が彼の上に布団を落っことしたのが原因だ。

「あの……謝らないといけないのはこっちの方です。私のせいで……を酷い目に遭わせてしまって……。本当にすみません!」

「ふわふわ……?」

 全体的にふわふわな印象の人だと思っていたのがつい口に出てしまって、眼前の彼にキョトンとされてしまう。

「あっ、すみません。髪の毛とかふわふわで綺麗だなって思ってたのでつい……」

 素直にペコッと頭を下げたら、どこか不安そうな顔で……だけどうっとりするような柔和な笑みを向けられた。

「ギスギスさんとかガサガサさんじゃなくて良かったです」

 それは、日和美ひなみの失言をカバーして、尚且つフォローまで入れられた温かな言葉だと分かって。

 ズッキューン!♥

 彼自身記憶がなくて死ぬ程不安で大変なはずなのに、健気で優しいふわふわさん(仮)の態度に、何て気遣いの出来る素敵な人なの!と、日和美の心臓が漫画みたいな効果音を立ててうるさく騒ぎ立てる。

 日和美、実は二次元の中でも特に、恋愛ジャンル大好き女子なのだ。
 学生時代から好んで読んでいる少女漫画や、最近よく読むようになったティーンズラブ(TL)に出てくる王子様系男子みたいな雰囲気をまとったふわふわさんにキュンキュンしまくってしまった。

 そんな日和美がここ数年めちゃくちゃハマっているのが、部屋の三段ラックにずらりと並べられた、TL作家・萌風もふもふ先生のちょっぴりエッチで刺激的な作品たちで。

 イラストレーターの方々の美麗でエロティックな表紙絵もさることながら、萌風もふ先生によってつむがれる美麗な文章、そして何より魅力いっぱいのキャラクター達にいつも魅了されまくり。
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