66 / 283
あまみや
5
しおりを挟む
前に、奏芽さんから、私を妹さんと重ねて気になった、と言われたことがあったのを思い出したから……。
そのあと、妹にキスしたいと思ったことはないから、その言葉は前言撤回だって言われたけれど……雨宮さんからも同じように言われるってことは……と考えてしまってソワソワする。
「前来てくれたとき、音芽ちゃんもだいぶ髪の毛伸びてて、彼女みたいにお下げにしてたんだよ」
言われて、私は思わず「えっ」と声を出してしまっていた。
奏芽さんが執拗に私の髪の毛を引っ張ったりしてくるのって……そういう?
「あの……奏芽、さん……」
ソワソワと落ち着かない気持ちで奏芽さんの顔を見つめたら、「雨宮、ちょっと黙っててくれるか?」と、奏芽さんの低音が響いた。
「凜子」
次いで、静かな声音で名前を呼ばれて顔を見つめられた私は、何だかいたたまれない気持ちになって、思わず視線をそらす。
「――な、頼むからこっち見て?」
奏芽さんが「見ろ」じゃなく「見て?」と言って……。
その声にすがる様な響きを感じた私は、おずおずと顔を上げた。
「被ってたとしても……髪型の雰囲気だけ、だから」
恐る恐る伸びてきた奏芽さんの手が、私の右サイドに寄せて束ねた三つ編みに触れる。
さっき、車で左横に奏芽さんが座って……首筋が見えてしまったことを指摘された私は、無意識にお店では彼の右隣に陣取ったのだけど……今回はそれが仇になってしまった。
そっと髪の毛に触れられた私は、期せずしてビクッとしてしまう。
「やっ」
思わず小さく抗議の声が漏れて、奏芽さんが指に巻きつけていた毛先を慌てて離した。
「すまん」
所在なげに小さく謝ってから、もう一度よく通る低音ボイスで「似てるって言っても、マジで髪型だけだから」って繰り返して――。
「でも……“そこは”似てる……んです、よね?」
髪型だけだとしても。
やっぱりそうなんだって思ったら、何となく胸の奥がギュッと苦しくなって、奏芽さんをまともに見ることが出来なくなる。
妹扱いは嫌なのに――。
***
「なぁ、ちょっと口挟んでいいか?」
と、今まで私たちのやり取りを静かに聞いているだけだった雨宮さんが、珍しく割り込むようにポツンと声をかけてきて。
私は思わず雨宮さんの方を見た。
「俺が要らんことを言ったせいで2人が喧嘩になったら嫌だから言わせてもらうんだけど――」
そこで、黙り込んでしまった奏芽さんをチラリと見ると、雨宮さんが続けた。
「なぁ、お嬢さん。こいつの大事な妹に似てるってぇの、そんなに悪いことなのか?」
静かだけれど、有無を言わせぬ声音で告げられた言葉に、私は思わず息を呑む。
そのあと、妹にキスしたいと思ったことはないから、その言葉は前言撤回だって言われたけれど……雨宮さんからも同じように言われるってことは……と考えてしまってソワソワする。
「前来てくれたとき、音芽ちゃんもだいぶ髪の毛伸びてて、彼女みたいにお下げにしてたんだよ」
言われて、私は思わず「えっ」と声を出してしまっていた。
奏芽さんが執拗に私の髪の毛を引っ張ったりしてくるのって……そういう?
「あの……奏芽、さん……」
ソワソワと落ち着かない気持ちで奏芽さんの顔を見つめたら、「雨宮、ちょっと黙っててくれるか?」と、奏芽さんの低音が響いた。
「凜子」
次いで、静かな声音で名前を呼ばれて顔を見つめられた私は、何だかいたたまれない気持ちになって、思わず視線をそらす。
「――な、頼むからこっち見て?」
奏芽さんが「見ろ」じゃなく「見て?」と言って……。
その声にすがる様な響きを感じた私は、おずおずと顔を上げた。
「被ってたとしても……髪型の雰囲気だけ、だから」
恐る恐る伸びてきた奏芽さんの手が、私の右サイドに寄せて束ねた三つ編みに触れる。
さっき、車で左横に奏芽さんが座って……首筋が見えてしまったことを指摘された私は、無意識にお店では彼の右隣に陣取ったのだけど……今回はそれが仇になってしまった。
そっと髪の毛に触れられた私は、期せずしてビクッとしてしまう。
「やっ」
思わず小さく抗議の声が漏れて、奏芽さんが指に巻きつけていた毛先を慌てて離した。
「すまん」
所在なげに小さく謝ってから、もう一度よく通る低音ボイスで「似てるって言っても、マジで髪型だけだから」って繰り返して――。
「でも……“そこは”似てる……んです、よね?」
髪型だけだとしても。
やっぱりそうなんだって思ったら、何となく胸の奥がギュッと苦しくなって、奏芽さんをまともに見ることが出来なくなる。
妹扱いは嫌なのに――。
***
「なぁ、ちょっと口挟んでいいか?」
と、今まで私たちのやり取りを静かに聞いているだけだった雨宮さんが、珍しく割り込むようにポツンと声をかけてきて。
私は思わず雨宮さんの方を見た。
「俺が要らんことを言ったせいで2人が喧嘩になったら嫌だから言わせてもらうんだけど――」
そこで、黙り込んでしまった奏芽さんをチラリと見ると、雨宮さんが続けた。
「なぁ、お嬢さん。こいつの大事な妹に似てるってぇの、そんなに悪いことなのか?」
静かだけれど、有無を言わせぬ声音で告げられた言葉に、私は思わず息を呑む。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
104
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる