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お引っ越し

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 1月も半ばを過ぎた頃。

 コンビニからアパートまでの通り道にある古い一軒家の前に、引っ越しトラックがとまっていて。
 道に面した間口が狭い割に奥行きの広いその土地は、門扉から見ると、建物がかなり奥まった所に建っているように見える。

 いつから空き家だったのかは分からないけれど、少なくとも私がここからそんなに遠くないアパートに住み始めてからはずっと住む人に恵まれない家だったはずだ。
 そこに、誰かが移り住んでいらしたんだな、とぼんやり思って、こんな古い家を直すのは大変だろうなぁとついでのように思う。

 そういえばこの家、売り家と貸し家の両方の札が立っていた。新しい住人は、ここを買ったのかしら。それとも……。

 庭には草が我が物顔で伸びて立ち枯れていて、庭木も剪定されないままに伸び放題。
 きっと建物の手入れと同時進行で、こっちも何とかしないといけないに違いない。
 草とか木とかあまり伸びるに任せていたら、家の中が暗くなって何だか怖そうだし。

 悪い癖で、自分には関わりのないことなのにふとそんなことを思ってしまう。

 通りすがり様、見るとはなしに家全体の外観を眺めていたら、その敷地から寒風が吹き抜けて来て、私は寒さに上着の前をギュッと合わせた。

 大学やコンビニからの行き帰り、この空き家の辺りだけちょうど民家も途切れ途切れで薄暗さが怖かったけれど、誰かが移り住んできてくれたなら明るくなっていいかもしれない。

 ふと見上げた空はまるで太陽を覆い隠すかのような波々の波状雲。
 雲は陽光を受けているのか、うすらぼんやり光って見えるけれど、地上はお日様の恩恵を受けられなくて寒い。

「早く暖かくならないかなぁ」

 思わずつぶやいたら余計に寒さがいや増した気がして、私は頭をフルフルと振って気持ちを切り替える。

 私の誕生日の4月頃になれば、まだ寒さは残ってはいるものの、今よりは大分日差しがぬるんできているはずだ。

 4月には私も2年生に進級して……ついでに待ちに待った二十歳はたちになる。

 成人したら私、奏芽かなめさんと一緒にお酒をたしなむこともできるようになるんだよね?

 それから――。

 ふとその先を考えて、私は恥ずかしさに真っ赤になった。

 は、二十歳はたちになったら……私……奏芽かなめさんと……。

 散々、「凜子りんこ早く二十歳はたちになれ」と耳元でささやかれ続けた身体は、条件反射のように二十歳はたちという言葉に過剰反応するようになってしまっていた。

 もしかして、これも奏芽さんの計算だったりするんだろうか。

 だとしたら、思惑通りですっ。
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