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「凜、随分と生意気な口をきくじゃないか。キミは今、自分がどういう状況に置かれているかもっと自覚した方がいいと思うよ?」
言われて一気に距離を詰められそうになった私は、慌てて向きを替えて走った。
と、グンッ!と後ろに足を引っ張られる気配がして、つんのめって転んでしまう。
うつ伏せにつぶれて床に身体をしこたま打ちつけた私は、咄嗟に両手こそついたけれどそこすら捻ったみたいにじんじんと痛んで。思わず全身の痛みに眉根を寄せる。
「ね、足に鎖がついていること、忘れてた?」
その言葉に身体を起こしながら後ろを振り返ったら、ベッドに繋がっている鎖の一部を男が持ち上げたところだった。
ジャラ、という音がして、足がグッと引っ張られる。
床に半身起こした状態のまま、私はズルリ、と男の方へ引き寄せられた。
「んんっ!」
力任せに引っ張られて負荷のかかった足首が悲鳴を上げて、私、思わず痛くて声を上げたけれどお構いなしで。
つんのめった時に思いきり力がかかったんだろう。
足枷の下でズキズキと足が疼いた。
私の痛みなんて知ったことじゃないと言う感じで、鎖をどんどん手繰り寄せていく男の表情は楽しそうで。
「凜はさ、少しぐらい足を怪我してたほうが、今みたいに反抗的な態度を取らなくていいんじゃない?」
鎖の一端を握ったまま、私の方へ歩み寄ることも出来ただろうに。それをせず床に爪を立てて一生懸命抵抗する私を赤子の手でもひねるみたいにどんどん自分のそばに引きずり寄せるの。
痛めた足に負担がかかっていることは承知の上だと言外に含まされて、私は絶望しか感じなくて。
このまま男の手中に落ちて、好き勝手にされてしまうんだと思ったら、悔しさに涙が滲んだ。
ついに、男の指先が、足枷をはめられた左足に触れて、私はギュッと目をつぶった。
涙がポトリと床にこぼれ落ちた。
それと同時。
向こうのほうでガシャーン!と物凄い音がして、男がハッとしたように私の足にかけていた手を離して振り返った。
私はそのことにホッとして、一生懸命男から遠ざかるように後ずさった。
足がジンジンと痛むけれど、今のうちにこの足枷と鎖を外せないだろうか。
足首が少し腫れてきていて、輪っかが皮膚に食い込んできているようにも思えて。
早く外さないと色んな意味で良くない気がする。
***
「凜子! どこだ!?」
ジャリジャリという硬いもの――先程の音からすると割れたガラスか何か?――を踏みしだく足音に混ざって、私の名を呼ばわる声。
「か……――、っ!」
――奏芽さんっ!!
私はその声に、無我夢中で大声を出して答えようとして。
けれど寸でのところで男にグイッと腕を引かれて立ち上がらされて、すぐさま後ろから口を押さえられて敵わなかった。
「――ん、んっ!」
そのまま一生懸命叫ぼうと試みたけれど、声にならないくぐもった音が男の手の下から漏れるだけ。
そのうえ鼻も一緒に押さえられてしまって、息が苦しくなってきて。このままだと窒息してしまうって思ったら、恐怖ですくみそうになった。
けれどそんななか、私の声なき声に被さるように微かにサイレンの音が聞こえてきて、私は息苦しさに恐怖を覚えながらも悪夢の終わりを感じたの。
言われて一気に距離を詰められそうになった私は、慌てて向きを替えて走った。
と、グンッ!と後ろに足を引っ張られる気配がして、つんのめって転んでしまう。
うつ伏せにつぶれて床に身体をしこたま打ちつけた私は、咄嗟に両手こそついたけれどそこすら捻ったみたいにじんじんと痛んで。思わず全身の痛みに眉根を寄せる。
「ね、足に鎖がついていること、忘れてた?」
その言葉に身体を起こしながら後ろを振り返ったら、ベッドに繋がっている鎖の一部を男が持ち上げたところだった。
ジャラ、という音がして、足がグッと引っ張られる。
床に半身起こした状態のまま、私はズルリ、と男の方へ引き寄せられた。
「んんっ!」
力任せに引っ張られて負荷のかかった足首が悲鳴を上げて、私、思わず痛くて声を上げたけれどお構いなしで。
つんのめった時に思いきり力がかかったんだろう。
足枷の下でズキズキと足が疼いた。
私の痛みなんて知ったことじゃないと言う感じで、鎖をどんどん手繰り寄せていく男の表情は楽しそうで。
「凜はさ、少しぐらい足を怪我してたほうが、今みたいに反抗的な態度を取らなくていいんじゃない?」
鎖の一端を握ったまま、私の方へ歩み寄ることも出来ただろうに。それをせず床に爪を立てて一生懸命抵抗する私を赤子の手でもひねるみたいにどんどん自分のそばに引きずり寄せるの。
痛めた足に負担がかかっていることは承知の上だと言外に含まされて、私は絶望しか感じなくて。
このまま男の手中に落ちて、好き勝手にされてしまうんだと思ったら、悔しさに涙が滲んだ。
ついに、男の指先が、足枷をはめられた左足に触れて、私はギュッと目をつぶった。
涙がポトリと床にこぼれ落ちた。
それと同時。
向こうのほうでガシャーン!と物凄い音がして、男がハッとしたように私の足にかけていた手を離して振り返った。
私はそのことにホッとして、一生懸命男から遠ざかるように後ずさった。
足がジンジンと痛むけれど、今のうちにこの足枷と鎖を外せないだろうか。
足首が少し腫れてきていて、輪っかが皮膚に食い込んできているようにも思えて。
早く外さないと色んな意味で良くない気がする。
***
「凜子! どこだ!?」
ジャリジャリという硬いもの――先程の音からすると割れたガラスか何か?――を踏みしだく足音に混ざって、私の名を呼ばわる声。
「か……――、っ!」
――奏芽さんっ!!
私はその声に、無我夢中で大声を出して答えようとして。
けれど寸でのところで男にグイッと腕を引かれて立ち上がらされて、すぐさま後ろから口を押さえられて敵わなかった。
「――ん、んっ!」
そのまま一生懸命叫ぼうと試みたけれど、声にならないくぐもった音が男の手の下から漏れるだけ。
そのうえ鼻も一緒に押さえられてしまって、息が苦しくなってきて。このままだと窒息してしまうって思ったら、恐怖ですくみそうになった。
けれどそんななか、私の声なき声に被さるように微かにサイレンの音が聞こえてきて、私は息苦しさに恐怖を覚えながらも悪夢の終わりを感じたの。
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