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お母さんの秘密

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 お母さんが「せっかくだからお昼を一緒に食べましょう」と言って、奏芽かなめさんが「ありがたいです」ってうなずいてくれて。

 それで私、久しぶりにお母さんとふたり、台所に立っているところ。

 奏芽さんには「落ち着かないだろうけど」ってごめんなさいをして、居間でテレビを観てもらっています。

「俺もなんか手伝うよ」

 当然のようにそう言われたけれど、
「うちの台所は狭いから座っててもらうのが1番のお手伝いです!」って言ったら、お母さんに「もう彼のこと、お尻の下に敷いてるの?」って笑われてしまった。

 「そ、そんなことっ」って反論しようとして。
 でも今回、この帰省に際してのあれこれも私のわがままを通してもらってばかりだったと思い至って言葉に詰まる。

 そんな折、奏芽さんが「俺が好きで敷かれてるんで」なんて言って笑うものだから、私、余計に何も言えなくなってしまったの。

***

「ね、凜子りんこ。お醤油を切らしてしまってるみたいなんだけど、すぐそこのスーパーで買ってきてもらえない?」

 戸棚を開けたところで、お醤油の残りがわずかなことに気がついたらしいお母さんからそんな声が掛かって。

「分かった」

 言って、何の気無しに玄関まで向かったところで身体が震えて動けなくなる。

 どうしよう。
 ひとりで買い物とか……怖い。

 でもこのまま玄関先ここで身動きが取れないままでいたら、きっとお母さんに変に思われちゃう。

 焦る気持ちのせいか、スニーカーの靴ひもがうまく結べなくて。嘲笑うみたいに指先をひもが滑るさまに、ますます気持ちばかりが急いてしまう。

 と、靴を見つめる私の上にふと影がさして。

お母むかいさん、俺も凜子さんと一緒に買い物行ってきます。あ、車も出しますんで、要るものおっしゃっていただけたら一気に買いそろえて来ますよ?」

 奏芽かなめさんが、お母さんに声を掛けながら、大丈夫だっていうみたいに、私の肩に手をのせた。

 そんな奏芽かなめさんの顔を仰ぎ見た途端、気が緩んで目に涙が盛り上がってきてしまう。

「ちょっと待っててな?」

 そっと耳元でささやかれて、涙目になりながらも、スッと気持ちが軽くなっていくのを感じた。


 奏芽かなめさんがお母さんのもとへ御用聞ごようききに行っている間に、ちゃんと靴ひもも綺麗に結べた。

 奏芽さんが一緒に行ってくださると思うだけで、1人でいる玄関先も、さっきみたいに心細さに身体が震えたりしなかった。

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