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■僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
飲み会3
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時計を見ると20時を過ぎていて。
真咲はあまり遅くまでは付き合えないと言っていたけれど、「遅く」って何時くらいのことだろう?とふと考える。
葵咲ちゃんが家で待っていると仮定して「この時間までには」を思い描くと、僕の中のタイミリミットは21時だ。だけど……僕は自分のこの基準が正しいとは思っていないんだよね、実際のところ。
葵咲ちゃんが絡むと色々ズレてしまうの、一応自覚はしているつもりなんだ。
「ねぇ、真咲。今日って何時までOK?」
こういう時って変に思い悩むより、本人に直接聞くほうがいい。
そう思って、僕は手にしたビールをグイッと一気に煽ると、グラスをドンっとテーブルに置いて真咲を見つめた。
「うーん、特に決めてないけど……強いて言うなら今日中に家に着くくらいかな」
真咲が答えてくれたのへ、僕は思わず「そんなに遅くまでいいの!?」と聞いてしまった。
夜なんてある意味夫婦の仲良しのための時間だと思うのに。そんな貴重な時間帯に、長いこと奥さんと離れていて平気とか、どんだけ聖人君子なんだよ、真咲!と心の中で突っ込まずにはいられない。
「池本がまだ飲みたいって言うなら、付き合うよ。もういいって言うなら帰る」
しれっと言われて、僕は慌てて「いや、全然よくないっ! 真咲の奥さんさえ許してくれるなら朝まで付き合ってもらいたいぐらいなのに!」と力説する。
心の中で真咲の奥さんにごめんなさい、と思いながらも、それでもまだ一緒にいてもらえるならそれはとても有難いとも思ってしまうんだ。
僕はぼんやりと、葵咲ちゃん不在の間はマンションには戻らず、実家で過ごそうかな?とか考えているけれど、それにしたって僕にあてがわれた自室は一人部屋だ。
実家とはいえ、誰かとずっと一緒にいられるわけじゃなし、一人になれば必然的に葵咲ちゃんへの恋しさが募るのは目に見えている。
親に向かって彼女が不在で寂しいとは、さすがの僕でも息子としての矜恃が邪魔して言えないし。
寝るまでに一度、電話で彼女の声を聴くのは当然として……電話を切った後を思うと正直泣けてきそうだ。
そこでふと、僕は葵咲ちゃんに、今日飲みに出ると連絡していなかったことを思い出した。
いくら何でもグダグダ過ぎるだろ、僕。
「ねぇ、真咲、ちょっと連絡してみてもいい?」
葵咲ちゃんから友達との飲みを勧められたのは確かだけれど、彼女だってまさか自分が旅立ったその日すぐに、僕がそんなことになっているとは思っていない気がする。
「……え? まさか立花に?」
と真咲に変な顔をされて、僕は「あ」と思う。
「いや、違う違う。僕の彼女」
ごめん、真咲。確かに今の流れから行くと、僕が真咲の奥さんへ連絡する?って勘違いされても仕方ない気がする。
真咲の帰りが遅くなります、僕のせいですって。
ふとそんな光景を思い浮かべて、僕は思わず笑ってしまった。
何だそれ、僕の目の前にいるのは嫁入り前のお嬢さんかっ!
「けどさ、普通に考えて僕が真咲の家に電話するの、おかしいだろ」
笑いながら言ったら、「だから聞いたんだよ。いつの間にそんなに酔っ払ったのかなって」って酷すぎない?
「まぁ、それはいいよ。違ってほっとした。っていうか、連絡くらい好きに入れて来なよ。――あ、やっぱその前に、次の注文……俺のと一緒に頼んどくから、決めて行って」
空のグラスをチラッと見た真咲にそう言われた僕は、ふと手元の、卓上用メニュースタンドにピックアップされていた日本酒を指さした。
「ごめん、じゃあこれ、頼んどいてくれる?」
たまたまそこに、今、葵咲ちゃんが向かっている先の地酒を見つけたのは偶然だろうか。いや絶対必然だ、とか思って、深い縁を感じてしまう。
「獺祭?」
真咲がつぶやくのへ、「うん」と頷きながら、「もぉー、理人。ちゃんぽんはダメっていつも言ってるでしょう?」と葵咲ちゃんが頬を膨らませる様子がふと目の裏に浮かんで、僕は恋しさに「はぁっ」と切なく溜め息を落とした。
葵咲ちゃんに会いたい……。
真咲はあまり遅くまでは付き合えないと言っていたけれど、「遅く」って何時くらいのことだろう?とふと考える。
葵咲ちゃんが家で待っていると仮定して「この時間までには」を思い描くと、僕の中のタイミリミットは21時だ。だけど……僕は自分のこの基準が正しいとは思っていないんだよね、実際のところ。
葵咲ちゃんが絡むと色々ズレてしまうの、一応自覚はしているつもりなんだ。
「ねぇ、真咲。今日って何時までOK?」
こういう時って変に思い悩むより、本人に直接聞くほうがいい。
そう思って、僕は手にしたビールをグイッと一気に煽ると、グラスをドンっとテーブルに置いて真咲を見つめた。
「うーん、特に決めてないけど……強いて言うなら今日中に家に着くくらいかな」
真咲が答えてくれたのへ、僕は思わず「そんなに遅くまでいいの!?」と聞いてしまった。
夜なんてある意味夫婦の仲良しのための時間だと思うのに。そんな貴重な時間帯に、長いこと奥さんと離れていて平気とか、どんだけ聖人君子なんだよ、真咲!と心の中で突っ込まずにはいられない。
「池本がまだ飲みたいって言うなら、付き合うよ。もういいって言うなら帰る」
しれっと言われて、僕は慌てて「いや、全然よくないっ! 真咲の奥さんさえ許してくれるなら朝まで付き合ってもらいたいぐらいなのに!」と力説する。
心の中で真咲の奥さんにごめんなさい、と思いながらも、それでもまだ一緒にいてもらえるならそれはとても有難いとも思ってしまうんだ。
僕はぼんやりと、葵咲ちゃん不在の間はマンションには戻らず、実家で過ごそうかな?とか考えているけれど、それにしたって僕にあてがわれた自室は一人部屋だ。
実家とはいえ、誰かとずっと一緒にいられるわけじゃなし、一人になれば必然的に葵咲ちゃんへの恋しさが募るのは目に見えている。
親に向かって彼女が不在で寂しいとは、さすがの僕でも息子としての矜恃が邪魔して言えないし。
寝るまでに一度、電話で彼女の声を聴くのは当然として……電話を切った後を思うと正直泣けてきそうだ。
そこでふと、僕は葵咲ちゃんに、今日飲みに出ると連絡していなかったことを思い出した。
いくら何でもグダグダ過ぎるだろ、僕。
「ねぇ、真咲、ちょっと連絡してみてもいい?」
葵咲ちゃんから友達との飲みを勧められたのは確かだけれど、彼女だってまさか自分が旅立ったその日すぐに、僕がそんなことになっているとは思っていない気がする。
「……え? まさか立花に?」
と真咲に変な顔をされて、僕は「あ」と思う。
「いや、違う違う。僕の彼女」
ごめん、真咲。確かに今の流れから行くと、僕が真咲の奥さんへ連絡する?って勘違いされても仕方ない気がする。
真咲の帰りが遅くなります、僕のせいですって。
ふとそんな光景を思い浮かべて、僕は思わず笑ってしまった。
何だそれ、僕の目の前にいるのは嫁入り前のお嬢さんかっ!
「けどさ、普通に考えて僕が真咲の家に電話するの、おかしいだろ」
笑いながら言ったら、「だから聞いたんだよ。いつの間にそんなに酔っ払ったのかなって」って酷すぎない?
「まぁ、それはいいよ。違ってほっとした。っていうか、連絡くらい好きに入れて来なよ。――あ、やっぱその前に、次の注文……俺のと一緒に頼んどくから、決めて行って」
空のグラスをチラッと見た真咲にそう言われた僕は、ふと手元の、卓上用メニュースタンドにピックアップされていた日本酒を指さした。
「ごめん、じゃあこれ、頼んどいてくれる?」
たまたまそこに、今、葵咲ちゃんが向かっている先の地酒を見つけたのは偶然だろうか。いや絶対必然だ、とか思って、深い縁を感じてしまう。
「獺祭?」
真咲がつぶやくのへ、「うん」と頷きながら、「もぉー、理人。ちゃんぽんはダメっていつも言ってるでしょう?」と葵咲ちゃんが頬を膨らませる様子がふと目の裏に浮かんで、僕は恋しさに「はぁっ」と切なく溜め息を落とした。
葵咲ちゃんに会いたい……。
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