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■僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』

キミしか見えない僕なのに1

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 結局あのあと、僕は殆ど修太郎しゅうたろう氏の言葉が入ってこなくなってしまった。

 ああ、葵咲きさきちゃんが不機嫌な理由はきっとコレだ、って思ったんだ。
 
 僕と修太郎氏の違い。

 修太郎氏と話せば話すほど、僕と彼はとても似た者同士だと思ってしまって……そう認識してしまったからこそ、最後に言われた言葉は痛烈な一撃になった。

 今日の宴席で、葵咲ちゃんとかぐや姫が楽しそうに顔を寄せ合って話しているのを見て、女子会って結構ディープなことを話すんだろうなって容易に察しがついた。

 きっと2人とも初心うぶ晩生おくてなタイプだから、滅多なことでは他者と猥談わいだん的なことはしなくて。

 聞けないからこそ、久々に再会した時、余計にお互いのことを知りたくなったんじゃないかな。

 他の人には聞けないようなことも、聞ける相手。

 ふたりは、そんな雰囲気の友人同士に見えたから。

 実際、彼女たちは昨夜かぐや姫の自宅で、2人きりの女子会を開いたみたいだ。
 修太郎氏が奥さんからお酒を飲んでもいいかと打診をされたそうなので、これは確実なはず。

 気の合う女の子がお酒を飲んでガールズトーク。盛り上がれば初体験の話なんかが出ても不思議じゃないよね。

 僕が昨夜電話で話したときはいつも通りで、今日会ったらぎこちなくなってしまっていた葵咲ちゃん。

 くだんの女子会で何かあったとしか思えないじゃないか。

 修太郎氏の言い方だと、塚田夫妻は初めて同士だったはずだ。

 対して僕と葵咲ちゃんは。

 僕は心臓がバクバクして、背中を嫌な汗が伝うのを感じずにはいられなかった。


 例えば、だよ。

 僕と葵咲ちゃんが大人になってから出会って、恋に落ちたんだとしたら。そこから恋人同士になったんだとしたら。
 ……どちらかにすでに性体験があったって仕方ないって思えるはずだ。

 でも僕らの場合は――。

 修太郎氏に示唆しさされたように、小6で運命の恋に落ちた僕がそういう行為に及んだとしたら……それって葵咲ちゃんを好きなくせに別の女性とって構図、容易に成り立っちゃうじゃないか。

 僕が葵咲ちゃんでも裏切られた、と思うだろう。
 その気持ちは相手を好きであればあるほど大きくなってしまう気がする。

”寧ろ好きになり過ぎてるから……普通は気にしなくていいようなことでモヤモヤして困ってるの。”

 ここへ向かう途中で聞いた葵咲ちゃんの声が脳裏に蘇る。


 悶々とした思考回路のなか、僕はあの日――初体験――のことに思いを馳せた。
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