6 / 237
2.帰れない
SOS
しおりを挟む
今日一日細波から無理矢理、一度ならず二度までも手を握られたことを思い出した芽生は、端末を握る手にギュッと力を込めた。
(電話は無理でもメッセージくらいなら……きっと都合がいい時に見てくれるよね……?)
そう自分に言い聞かせた芽生は、メッセンジャーアプリを立ち上げて、ポチポチと京介宛にSOSを打ち込んだ。
***
都合がいい時に見てもらえたら……。
そんな風に思ったくせに、芽生はチラチラとスマートフォンを気にせずにはいられなかった。
でも、相良京介はやはり今日も忙しいらしい。
一向に既読にならないメッセージ画面を見て、芽生は小さく吐息を落とした。
チラリと化粧室の方を見遣ると、幸いにもトイレの個室とは別に手洗い場が設けられていて、洗面ボール前の大きな鏡に芽生の姿が映っていた。それを確認した芽生は、少し迷って雑誌を買い物かごに入れると、スマートフォンを手提げかばんに仕舞って、未会計商品の入ったかごを陳列棚前のすみっこの方へ置かせてもらう。
手洗い場の前に立って、鏡の前。仕事モードでギュッと後ろでひとつ結びにしていた髪の毛を束ねるヘアゴムを引っ張ってスルンと解くと、その場ですぐさま左寄せに編み込みを作っていった。芽生の髪の毛は艶々でさらさらとしているので、少し水道で手を湿らせないとなかなかうまくまとまってくれない。
時折手先を湿らせながらサイドでゆるりとひとつ、編み込みを作ると、芽生は鏡をじっと見詰めた。
(ちょっとはイメチェン出来たかな?)
髪型を変えたくらいで細波の目をかいくぐれるとは思えなかったけれど、さっき会った時のままよりは幾分マシかも知れない。
もう一度だけ未練がましくスマートフォンを取り出すと、メッセージアプリを確認してみた。
(やっぱり未読のままだ……)
読まれないままのSOSに小さく吐息を落とすと、芽生はギュッと手指に力を込めてレジへと向かった。
***
レジで会計を済ませていると、後ろの道路をけたたましいサイレンを鳴らしながら消防車が立て続けに数台走り抜けていく。
「何ごとですかね?」
若い男性店員が思わずといった調子でつぶやいて、それが自分に向けられたものかどうかは分からなかったけれど、芽生は「どこかで火事でしょうか」とつぶやいた。
「何か煙の臭いもしてきますし、結構近いんじゃないっすかね?」
その言葉に、このコンビニからそんなに離れていない場所に住んでいる芽生はソワソワする。
「あざぁーっしたぁー!」
間延びした「有難うございましたぁー!」を背中に受けながら店外へ出てみれば、陽の落ちた街はとっぷりと宵闇に包まれていた。けれど、芽生の家の方角だけ朱に染まっていて、まるでそこだけ夕焼け空のように見える。そのことが、芽生の心を妙にざわつかせた。
(電話は無理でもメッセージくらいなら……きっと都合がいい時に見てくれるよね……?)
そう自分に言い聞かせた芽生は、メッセンジャーアプリを立ち上げて、ポチポチと京介宛にSOSを打ち込んだ。
***
都合がいい時に見てもらえたら……。
そんな風に思ったくせに、芽生はチラチラとスマートフォンを気にせずにはいられなかった。
でも、相良京介はやはり今日も忙しいらしい。
一向に既読にならないメッセージ画面を見て、芽生は小さく吐息を落とした。
チラリと化粧室の方を見遣ると、幸いにもトイレの個室とは別に手洗い場が設けられていて、洗面ボール前の大きな鏡に芽生の姿が映っていた。それを確認した芽生は、少し迷って雑誌を買い物かごに入れると、スマートフォンを手提げかばんに仕舞って、未会計商品の入ったかごを陳列棚前のすみっこの方へ置かせてもらう。
手洗い場の前に立って、鏡の前。仕事モードでギュッと後ろでひとつ結びにしていた髪の毛を束ねるヘアゴムを引っ張ってスルンと解くと、その場ですぐさま左寄せに編み込みを作っていった。芽生の髪の毛は艶々でさらさらとしているので、少し水道で手を湿らせないとなかなかうまくまとまってくれない。
時折手先を湿らせながらサイドでゆるりとひとつ、編み込みを作ると、芽生は鏡をじっと見詰めた。
(ちょっとはイメチェン出来たかな?)
髪型を変えたくらいで細波の目をかいくぐれるとは思えなかったけれど、さっき会った時のままよりは幾分マシかも知れない。
もう一度だけ未練がましくスマートフォンを取り出すと、メッセージアプリを確認してみた。
(やっぱり未読のままだ……)
読まれないままのSOSに小さく吐息を落とすと、芽生はギュッと手指に力を込めてレジへと向かった。
***
レジで会計を済ませていると、後ろの道路をけたたましいサイレンを鳴らしながら消防車が立て続けに数台走り抜けていく。
「何ごとですかね?」
若い男性店員が思わずといった調子でつぶやいて、それが自分に向けられたものかどうかは分からなかったけれど、芽生は「どこかで火事でしょうか」とつぶやいた。
「何か煙の臭いもしてきますし、結構近いんじゃないっすかね?」
その言葉に、このコンビニからそんなに離れていない場所に住んでいる芽生はソワソワする。
「あざぁーっしたぁー!」
間延びした「有難うございましたぁー!」を背中に受けながら店外へ出てみれば、陽の落ちた街はとっぷりと宵闇に包まれていた。けれど、芽生の家の方角だけ朱に染まっていて、まるでそこだけ夕焼け空のように見える。そのことが、芽生の心を妙にざわつかせた。
32
あなたにおすすめの小説
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
虚弱なヤクザの駆け込み寺
菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。
「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」
「脅してる場合ですか?」
ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。
※なろう、カクヨムでも投稿
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛し愛され愛を知る。【完】
夏目萌
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。
住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。
悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。
特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。
そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。
これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。
※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
取引先のエリート社員は憧れの小説家だった
七転び八起き
恋愛
ある夜、傷心の主人公・神谷美鈴がバーで出会った男は、どこか憧れの小説家"翠川雅人"に面影が似ている人だった。
その男と一夜の関係を結んだが、彼は取引先のマネージャーの橘で、憧れの小説家の翠川雅人だと知り、美鈴も本格的に小説家になろうとする。
恋と創作で揺れ動く二人が行き着いた先にあるものは──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる