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25.田畑栄蔵
病院へ
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車へ乗り込むなり京介が石矢に、市内で一番大きな病院――タバタ総合病院へ向かうよう告げるから、芽生はキョトンとしてしまう。
「京ちゃん、どうして病院?」
てっきりそのまま役所へ……な流れかと思っていた。
病院という言葉に、一瞬だけ(もしかしてブライダルチェック?)なんて考えた芽生だけれど、京介がそんな細かいことを気にする人間には思えない。
そわそわと京介を見つめたら、
「細波も入籍後、お前をどこかへ連れて行こうとかしてなかったか?」
吐息交じりに言われて、芽生は(そういえば)と思い出す。
「ホテルで無理矢理婚姻届を書かされて……細波さん、てっきり目的は果たしたから私のことは御役御免って言ってくれると思ったのに、まだ用があるから付き合ってもらうって……。私と殿様を解放してくれなかったの」
殿様の容態が心配で、一刻も早く自由にして欲しかったのに叶わなくて、芽生は細波の言葉に絶望させられたのだ。
芽生が吐息交じりにそう告げたら、「だろうな」と京介が首肯する。
(京ちゃん、どうして細波さんの意図が分かるみたいな物言いをするの?)
わけが分からなくて芽生が京介をじっと見つめたら、
「今から田畑栄蔵ん所へ行くぞ」
とか。京介がこれまた芽生には予期せぬことを言ってくるから、芽生はますます混乱してしまった。
だってそれは、この町が誇る大企業『さかえグループ』の社長の名前だったからだ。
確か栄蔵は体調が余り芳しくないように報じられていたのを、佐山が自分の送迎に使う車へ持ち込んでいた新聞でちらりと見て、芽生も知っている。
その彼が入院しているのが、いま芽生たちが向かっているタバタ総合病院ということだろうか。
名前からも分かるように、その病院もさかえグループの尽力で出来たものだから、栄蔵が入院していても何ら不思議ではない。
(もしかして、京ちゃん、社長の遠縁にあたる細波さんが不祥事を起こしたから、その責任を問うために田畑社長の元へ向かおうとしてる……?)
ふとそう思った芽生は、隣に座る京介の手をぎゅっと握った。
「京ちゃん、細波さんのこと、田畑社長に言おうとしてるの?」
栄蔵が元気な状態なら社長として、また遠縁とは言え身内として、細波の不始末の責任を田畑栄蔵に問うことは、正しい在り方なのだろう。
でも――。
「田畑社長、体調良くないって新聞で見たよ?」
具合を悪くして入院している人間に、そういうことを伝えるのは、芽生にはとても酷なことに思えた。
「あ? 死にかけてようがなんだろーが、意識がしっかりしていて話が出来る状態なら伝えなきゃなんねぇことだろぉーがよ」
だが、京介はさらりとそう言ってのける。
「けど、京ちゃん……」
そんな京介にさらに言い募ろうとした芽生だったのだが、京介が
「ま、黙って俺について来いや、芽生。俺だって何も地元の名士を取って食おうってわけじゃねぇ」
そんな風に言って、芽生をじっと見つめて続けるのだ。
「なぁ、芽生。そんなに俺が信じらんねぇか?」
今から結婚しようという相手のことを信頼出来ないのか? と言外に含まされているようで、芽生はフルフルと首を横に振らずにはいられない。
「悪いようにゃしねぇから安心しろ。っていうかむしろ――」
そこで芽生の肩をグイッと自分の方へ引き寄せると、京介は何か言いたげに芽生を抱く手指にほんの一瞬だけ力を込めた。けれど、それ以上何も言ってはくれなかった。
「京ちゃん、どうして病院?」
てっきりそのまま役所へ……な流れかと思っていた。
病院という言葉に、一瞬だけ(もしかしてブライダルチェック?)なんて考えた芽生だけれど、京介がそんな細かいことを気にする人間には思えない。
そわそわと京介を見つめたら、
「細波も入籍後、お前をどこかへ連れて行こうとかしてなかったか?」
吐息交じりに言われて、芽生は(そういえば)と思い出す。
「ホテルで無理矢理婚姻届を書かされて……細波さん、てっきり目的は果たしたから私のことは御役御免って言ってくれると思ったのに、まだ用があるから付き合ってもらうって……。私と殿様を解放してくれなかったの」
殿様の容態が心配で、一刻も早く自由にして欲しかったのに叶わなくて、芽生は細波の言葉に絶望させられたのだ。
芽生が吐息交じりにそう告げたら、「だろうな」と京介が首肯する。
(京ちゃん、どうして細波さんの意図が分かるみたいな物言いをするの?)
わけが分からなくて芽生が京介をじっと見つめたら、
「今から田畑栄蔵ん所へ行くぞ」
とか。京介がこれまた芽生には予期せぬことを言ってくるから、芽生はますます混乱してしまった。
だってそれは、この町が誇る大企業『さかえグループ』の社長の名前だったからだ。
確か栄蔵は体調が余り芳しくないように報じられていたのを、佐山が自分の送迎に使う車へ持ち込んでいた新聞でちらりと見て、芽生も知っている。
その彼が入院しているのが、いま芽生たちが向かっているタバタ総合病院ということだろうか。
名前からも分かるように、その病院もさかえグループの尽力で出来たものだから、栄蔵が入院していても何ら不思議ではない。
(もしかして、京ちゃん、社長の遠縁にあたる細波さんが不祥事を起こしたから、その責任を問うために田畑社長の元へ向かおうとしてる……?)
ふとそう思った芽生は、隣に座る京介の手をぎゅっと握った。
「京ちゃん、細波さんのこと、田畑社長に言おうとしてるの?」
栄蔵が元気な状態なら社長として、また遠縁とは言え身内として、細波の不始末の責任を田畑栄蔵に問うことは、正しい在り方なのだろう。
でも――。
「田畑社長、体調良くないって新聞で見たよ?」
具合を悪くして入院している人間に、そういうことを伝えるのは、芽生にはとても酷なことに思えた。
「あ? 死にかけてようがなんだろーが、意識がしっかりしていて話が出来る状態なら伝えなきゃなんねぇことだろぉーがよ」
だが、京介はさらりとそう言ってのける。
「けど、京ちゃん……」
そんな京介にさらに言い募ろうとした芽生だったのだが、京介が
「ま、黙って俺について来いや、芽生。俺だって何も地元の名士を取って食おうってわけじゃねぇ」
そんな風に言って、芽生をじっと見つめて続けるのだ。
「なぁ、芽生。そんなに俺が信じらんねぇか?」
今から結婚しようという相手のことを信頼出来ないのか? と言外に含まされているようで、芽生はフルフルと首を横に振らずにはいられない。
「悪いようにゃしねぇから安心しろ。っていうかむしろ――」
そこで芽生の肩をグイッと自分の方へ引き寄せると、京介は何か言いたげに芽生を抱く手指にほんの一瞬だけ力を込めた。けれど、それ以上何も言ってはくれなかった。
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