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連絡先と連絡手段

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 落ちなくて良かったです、という言葉とともに手渡されたスマートフォンを受け取りながら、市役所から向かわれたにしてはお早いお着きだな、と驚いてきょとんとする。

 するとその表情に気づかれた修太郎《しゅうたろう》さんが、
「ほら、日織ひおりさん、僕と同じキャリアにするとおっしゃってらしたから。――庁舎に一番近いdoconoドコノの店舗はそこのショップでしたので、もしかしたらお会いできるかな?と思って来てしまいました」

 これではまるでストーカーですね、と小さく付け足して苦笑なさる彼に「修太郎さんなので問題ないです。というより予定外にお会いできて、とっても嬉しいです」と微笑んだら、途端片腕でギュッと抱き寄せられた。


 それにドギマギしてしまった私は、結局荷物のことを言いそびれてしまう。


「日織さん、いけません。そんなに僕を甘やかすと、つけ上がってしまいます」

 とても困ったような声音で、修太郎さんがしぼり出すような声音で吐息まじりにそうおっしゃって。

 私は彼のその声だけで、心音が修太郎さんに聞こえてしまうのではないかと思うくらいドキドキしてしまう。

 修太郎さんは一度私を抱きしめる腕の力をギュッと強めたあと、気持ちを断ち切るみたいに腕を伸ばして距離をとられた。そうして、恐る恐る私のほっぺに唇をお寄せになると、肌をほんの少しかすめる程度の軽いキスをくださる。

 スマートフォンを握り締めたまま、照れくさくて思わず固まってしまっていた私を、修太郎さんがじっと見つめていらっしゃいながら

「日織さん、スマホ、iPhoneアイフォンになさったんですね。赤、貴女にぴったりで可愛らしいです。ですがそんなふうに持ったままだとまた落としてしまうかもしれませんし、鞄に仕舞われることをお勧めします」

 そうおっしゃってから、もう一度いたわるように優しくそっと抱きしめていらした。

 そうして、付け加えるように「僕も日織さんと一緒だと自分を抑えられる自信がありませんのでお願いします……」と、耳元で切ない声をお出しになるから。

 私は魔法にかけられたみたいに、修太郎さんのその言葉に素直に従ってしまう。

 それを見届けてから、
「日織さん、せっかくですし、今日はこのままご自宅までお送りさせてください」
 修太郎さんはそうおっしゃって、抱きしめていた私の身体をお放しになられると、代わりに手を取っていらした。
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