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初めて♥

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花々里かがり、待たせたね」

 待ちくたびれてうとうとしていたら、不意にポン、と肩を叩かれて。

 その感触に、寝ぼけまなこをこすりながらぼんやりと視線を上げると、すぐそばに頼綱よりつなが立っていた。

「……頼綱っ!」

 ずっと待ちぼうけだったから嬉しくて、感極まった私は立ち上がるなり思わず頼綱にギュッとしがみつく。
 いつもなら絶対にしないことをしてしまったのは、きっと寝ぼけていたのもあったんだろうな。

「花、々里……っ?」

 途端降ってきた、頼綱の戸惑ったような声音でハッと我にかえる。

「あ、ご、ごめ、なさっ」

 頼綱から触れられることはあっても、自分からそんなことをしたことはない。

 お仕事で疲れてるのに急にこんな……。嫌だったよね。

 雇い主が使用人に触れるのと、その逆とではやっぱり意味合いが違い過ぎる。

 分不相応ぶんふそうおうなことをしてしまったと思ってしゅん……として。慌てて離れようとしたら、そのままギュッと抱きすくめられてしまう。

「俺はキミのことを憎からず思っていると散々伝えてあるよね? なのに何を謝る必要がある?」

 すぐ耳元で低く甘くささやかれて、心臓がキュン、と高鳴った。


 と、思い掛けず受付の方で電話の音がして、私は一気に現実に引き戻される。

 診察時間を大分過ぎて、昼間ほど人気ひとけはなくなったとはいえ、ここは24時間体制の総合病院。

 無人ではない。

 私たち、そんなところで何ラブシーンなんて演じちゃってるのっ!

 頼綱よりつなの香りに包まれて心臓がバクバクうるさい。

 このままくっ付いていたら、それも彼にバレてしまいそうで、私は懸命に腕を突っ張って、頼綱から身体を引きはがした。


「もう終わりとは――。キミは本当につれない女性ひとだ」

 一生懸命頼綱から距離をとる私を見て、頼綱がククッと喉を鳴らすように笑う。

 その意地悪な笑顔でさえカッコいいと思ってしまう私は、完全に頼綱よりつなのことを好きになってしまったんだと自覚した。
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