上 下
67 / 228
11.両親からの連絡

ついて行くことにしたの?

しおりを挟む
「ここにゆいちゃんと二人で座ってゆっくりお茶を飲むの、久しぶりね」

 考えてみたら結葉ゆいはが嫁いでからは、なぜかリビングのテーブルで差し向かいに座ってお茶をすることばかりになっていた。

「そのほうがゆいちゃんの顔が見えるから……。毎日会えるわけじゃないしって思ったらお母さんついあっちにカップ置いちゃってたのよね~」

 結葉ゆいはのすぐ横で寂しそうにフフッと笑う美鳥みどりの声が聞こえて、結葉ゆいははますます不安になった。

(じゃあ、今日は何でこっちを選んだの? 私の顔が見えない方がいい話をするつもりなのかな?)

 そう思ってしまった。


「えっと……ごめんね。今日は何となくゆいちゃんのお顔を見て話せる気がしなくて……お母さん無意識にこっちに逃げちゃった……」

 ポツンと、力なく美鳥みどりからそんなことを言われて、結葉ゆいはは思わず母の方を身体ごと向いて。

「ねぇ、お母さん、それって……どういう意味?」
 そう問い掛けずにはいられなかった。

 美鳥みどりはティーカップを口元に上げて中身をひとくち口に含むと、ほぅっと吐息を落とす。

「――あのね、ゆいちゃん。お父さんがね、来月末からニューヨークの支社に異動することになったの」

 別にそれは左遷とかそういうのものではなく、寧ろ栄転に近いのだと美鳥みどりは言って。

 一人娘の結葉ゆいはとついだことで、うれいなく旅立てるだろうと、新部門の立ち上げリーダーとして父・茂雄しげおに白羽の矢が立ったらしい。


「お父さんね、最初は一人で行くって言ってたんだけど……ゆいちゃんも結婚して家を出て行っちゃった今、お母さん一人こんな広い家に残されるのも嫌だなって思っちゃって」

「ついて……行くことにしたの?」

 恐る恐る問いかけたら美鳥みどりがコクッとうなずいた。

「ゆいちゃんには偉央いおさんがいてくださるでしょう? 偉央いおさん、とっても素敵な旦那様だもの。お母さんもお父さんも偉央いおさんがゆいちゃんのそばにいてくれるから安心してここを離れられるねって話したの」

 ニッコリ笑ってそう言われて。

 結葉ゆいはは、まさかその偉央いおとの結婚生活に不安を感じているだなんて、間違っても言えないし、両親にそれを悟られてはいけないと思ってしまった。

 そもそも、傍目に見れば、偉央いおは非の打ちどころのない素敵な旦那様なのだ。
 そんな偉央いおが、妻を言葉巧みに押さえつけて家の中に閉じ込め、軟禁しているだなんて、きっと誰も思いはしない。

 いや、よもや偉央いお結葉ゆいはの関係について何かおかしくない?と勘付いた相手がいたとしても、気が付けば――先の琳奈りんなのときみたいに――自然と結葉ゆいはのそばから排除されてしまうのが常になっていたから。

 偉央いおはきっと、未来永劫両親たちからは「いい夫」だと持て囃されるんだろうなと結葉ゆいはは思って。

 そんな息が詰まるような日々の中にあって、それでも結葉ゆいはは今みたいに両親と過ごせる時間だけが唯一の心の拠り所だと感じていた。

 なのに――。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

らりぱっぱっぱっぱ

68
BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:86

契約溺愛婚~眠り姫と傲慢旦那様には秘密がある~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:1,385

【R18】貴方の傍にいるだけで。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:582

奴隷だった私がイケメン貴族に溺愛されています

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:81

ヒロインにはなりたくない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:222

10番目の側妃(人質)は、ひっそりと暮らしたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:575pt お気に入り:1,044

[完結]本当にバカね

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:225

転生した月の乙女はBADエンドを回避したい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:1,198

処理中です...