【完結】【R18】結婚相手を間違えました

鷹槻れん

文字の大きさ
122 / 228
20.逃避行

想の後悔

しおりを挟む
***

 マンションを出て初めて赤信号に引っかかって。


結葉ゆいは、大丈夫か?」

 そうがルームミラー越しに結葉ゆいはをチラリと見遣って、初めて質問を投げ掛けてきた。

 結葉ゆいはは座席に横たえていた身体を恐る恐る起こすと、そっとうかがうように窓の外に視線を投げて。

 リアウィンドウ越しに背後を振り返って、『みしょう動物病院』も住んでいたタワーマンションも見えないと確認してからやっと。
 急に息苦しさを覚えて喘ぐように空気を吸い込んだ。

 どうやら結葉ゆいは、無意識に呼吸をすることすら最小限に抑えてひっそりと縮こまっていたらしい。

結葉ゆいは、ひょっとして息止めてたのか?」

 そうが驚いたように目を細めたのが見えて、結葉ゆいはは恥ずかしさにうつむいた。

「……そんだけお前、追い詰められてたってことだよな……」

 だが、ややしてポツンとつぶやかれたそうの言葉に、結葉ゆいはは思わず顔を上げて。

 申し訳なさそうに眉根を寄せるそうの表情が鏡に映っているのを見てしまった。

そう、ちゃん?」

 その顔があまりにも辛そうで、結葉ゆいはは思わず運転席シートに手を付くようにして見を乗り出して。

 途端抱えていたトートバッグが傾いて、中からコトリと音がした。
 結葉ゆいはは慌ててバッグを真っすぐに抱え直すとシートに戻る。

「俺さ、お前の様子がおかしいの、結構前から分かってたんだ。なのにあの雪の日、結局結葉ゆいはを置いて帰っちまっただろ? あれ、ずっと後悔してた」

「えっ……」

 まさかそうが自分のことを気にしてそんな風に思ってくれていただなんて思いもしなかった結葉ゆいはは、そうの言葉に息をのんだ。

 確かにそうはずっと結葉ゆいはに、「何かあったら頼れ」とか「いつでも連絡してこい」などと言ってくれていた。

 あの雪の日にも、偉央いおに結構際どい牽制けんせいを掛けてくれたのを覚えている。

 でも、そんなそうの優しさを嬉しく思いながらも、そうに――いや、きっとそうだけじゃなく他の誰にも――偉央いおとの夫婦仲が破綻しているのを気付かれたくなくて、結局幼なじみを頼る選択をしなかったのは結葉ゆいは自身の責任だ。

そうちゃんは悪くない)

 それだけは確かだ。

 結葉ゆいはがそう言い募ろうと口を開き掛けたら、そこで信号が青になって。

 鏡越し、そうと絡み合っていた視線が不意に解かれてしまう。

 それで、言うタイミングを逃した結葉ゆいはだ。

 でも――。

 車の揺れや走行音とは別に、膝の上に載せたトートバッグからカサカサと言う音と、微かな振動が伝わってきて。

 結葉ゆいははまるで雪日ゆきはるに励まされるように、再度口を開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夜の声

神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。 読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。 小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。 柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。 そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。

うちの弟がかわいすぎてヤバい無理!

はちみつ電車
恋愛
3歳の時、弟ができた。 大学生に成長した今も弟はめっちゃくちゃかわいい。 未だに思春期を引きずって対応は超塩。 それでも、弟が世界で一番かわいい。 彼氏より弟。 そんな私が会社の人気者の年上男性とわずかに接点を持ったのをきっかけに、どんどん惹かれてしまう。 けれど、彼はかわいがってくれる年下の先輩が好きな人。好きになってはいけない.......。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

【完】花火の音が終わるまで抱き締めて(カットページのラブシーンも掲載済2023.4.23、詳細ページは内容欄に記載)

Bu-cha
恋愛
ベリーズカフェにて恋愛ランキング5位 大金持ちの息子で弁護士事務所の所長。 優しくて仕事も出来て顔まで良い。 でも女を見る目が全然ない。 それは過去の判例で証明されている。 そんな先生から頑張られてしまっている秘書の私は、 良い女ではないということになってしまう・・・。 関連物語 『幼馴染みの小太郎君が、今日も私の眼鏡を外す』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高8位 『タバコの煙を吸い込んで』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高30位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高5位 カットページ:9-7~9-9 カットページ:9-12 カットページ:12-11~12-16 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

処理中です...