【完結】【R18】結婚相手を間違えました

鷹槻れん

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29.公宣からの提案

まだご主人との離婚は成立してないんだよね?

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***


結葉ゆいはちゃん、ごめんね。わざわざ来てもらって」

 山波やまなみ建設の会議室で、結葉ゆいはそうと二人、ここの社長でありそうせりの実父でもある山波やまなみ公宣きみのぶと対面していた。

 結葉ゆいはの右隣にそう、長机を挟んで真向かいに公宣という席順だ。

 さっき事務員さんがやって来て、三人分のコーヒーを出してくれた。

 公宣に勧められて結葉ゆいはは自分の前に置かれたカップにミルクを落とす。

(……苦そう)

 ソワソワとそんなことを思っていたら、そうが無言で自分のものに付いていたコーヒーフレッシュを差し出してくれて。
 結葉ゆいはは小声で「有難う」と言いながらそれを受け取って、代わりに自分の皿からスティックシュガーを取ってそうに渡した。

 それを見ていた公宣きみのぶが、「これもどうぞ」と自分の皿の上のものを、二人の前に置いてくれる。

「あ、有難うございます」

(他所様の会社の会議室で私たち、一体何をしているのかしら)

 目の前に置かれたそれらに手を伸ばしながら、ふとそんなことを思ってしまった結葉ゆいはだ。

 コーヒーフレッシュを自分に、スティックシュガーをそうに渡したら、そうが「サンキュー」と言って三つ目の砂糖をコーヒーに混ぜ込む。

そうちゃん、それ、甘すぎない?)

 いつもならそうはスティックシュガーは二本だけだったはずだ。
 三本はさすがに、と思った結葉ゆいはだったけれど、そうは一向に気にした様子はない。

 もしかしたら案外三本入れちゃうなんて日も、結構あるのかも知れない。

 そんなことを思いながら、結葉ゆいはも三つ目のポーションを自分のカップに落とした。

 皿に置かれていたティースプーンでぐるぐるとかき混ぜたら、そこそこに白っぽいコーヒーが出来上がる。

(これなら何とか飲める、かな……)

 でも、いつもコーヒー〝二〟に対して牛乳〝八〟で作っているカフェオレよりははるかに苦そうで。

 密かに牛乳が恋しいな、なんて思ってしまった結葉ゆいはだ。

 対するそうの方は甘々のコーヒーにご満悦のようで、美味しそうに目を細めてコーヒーを口にしている。

 そんなそうを見ながら、結葉ゆいはも自分が手にしたカップの中身をひとくち口に含んだ。

(う……っ)

 やっぱりいつもよりかなりコーヒーが強目で、結葉ゆいはにはちょっぴり苦かった。


 ブラック派の公宣は、何も入っていないコーヒーを美味しそうに飲んでいる。


***


「今日来てもらったのはね、そう結葉ゆいはちゃんと同じ部屋で寝泊まりしていると聞いたからなんだ」

 公宣きみのぶの言葉に結葉ゆいははギュッとカップの持ち手を握りしめる。

 公宣が口にした言葉は、手にしたカップの中のコーヒーなんか比べ物にならないくらい苦い内容だった。


「だから! それはちゃんと理由言っただろ? 結葉ゆいはが一人じゃ不安だからだって」

 そうがそんな結葉ゆいはを庇うみたいに言い募って。
 結葉ゆいはは何だか申し訳ない気持ちになる。

「すみません。私のせいでご迷惑をお掛けして……」

 結葉ゆいはの言葉にそうが「結葉ゆいは!」と咎めるような声で呼びかけて、即座に眼前の父親を睨みつけた。

「親父が余計なこと言うから結葉ゆいはが気にしちまっただろ!」


 そうの言葉に、公宣は小さく吐息を落とす。

そう。少し冷静になりなさい。父さんだって結葉ゆいはちゃんは可愛いし守ってあげたいと思っているよ。でもね、――だからこそ、だ」


 公宣の言葉に結葉ゆいはは俯けていた顔を上げた。

「あの……それはどう言う」

 問いかけたら、公宣が結葉ゆいはに優しくニコッと微笑みかける。


結葉ゆいはちゃん、まだご主人との離婚は成立していないんだよね?」

「……はい」

 その通りだったので小さく頷いたら、公宣がそうをチラリと見遣ってから、すぐさま結葉ゆいはに視線を戻す。

「うちのそう結葉ゆいはちゃん、それからうちのせりが幼い頃から仲良しなのは私も知っているよ? 小さい頃はお互いの家をよく行き来してお泊まり会もしてたよね?」

「はい」

 コクッと頷く結葉ゆいはを、公宣が愛おしそうに見つめて。

「でも――、今はもうみんないい大人だ。違うかい?」

 諭すような口調で言われて、結葉ゆいははギュッとカップを握りしめた。

 公宣の言う通りなのだ。

 そうはいま二九歳、結葉ゆいはは二六歳。
 無邪気にじゃれあっていた子供のころとは違う。

 それは、そうと過ごしてみて、結葉ゆいは自身が、嫌と言うほど実感させられていた事実だ。


「二人に限って間違いが起こるだなんて、私は思ってないけど……だけど、世間一般の人たちはどう思うだろう?」

 例えば離婚調停するようなことになった場合、それは結葉ゆいはにとって不利になるはずだ。

 公宣に優しく示唆しさされて、結葉ゆいはそうもグッと言葉に詰まった。


 偉央いおは今のところ、結葉ゆいはと争う姿勢は見せていない。

 だけど絶対なんてありはしないのだから。


「少なくとも結葉ゆいはちゃんの婚姻生活に何らかの形でハッキリと白黒がつくまでは、若い男女が二人きりで生活するなんてこと、しない方がいいんじゃないかと私は思うんだけど、どうだろうね?」

「――おっしゃる……通りです」

 結葉ゆいはが静かに同意したら、そうが「けど結葉ゆいは……」とつぶやいて。

 結葉ゆいはそうの顔をじっと見つめると、「そうちゃんにだって分かるでしょう?」と眉根を寄せた。

「それはそうだけど……。けど俺、結葉ゆいはをどこかにやるとか考えらんねぇんだけど」

 そうが苦しそうに吐き捨てて。

 結葉ゆいはも小さく吐息を落とした。


 現実問題として、今現在収入のない結葉ゆいははアパートを借りたりすることは無理だ。

 そうなると、実家に戻るのが一番現実的ではあるのだけれど。

(一人で実家は……やっぱり怖い……)

 実家は偉央いおに場所を知られているから。

 偉央いお結葉ゆいはを連れ戻すつもりはないと言ってくれたようだけれど、じゃあ、と言ってそれを鵜呑うのみにしてのほほんと実家に住み着けるほど結葉ゆいははまだ図太くなれそうにない。
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